内なる偏見

　高い失業率の中でも充足率の低いのが介護や訪問看護の仕事だ。なぜかと言えば、賃金の多寡もあるだろうが、それよりも誰にでもできる仕事ではないからだ。こうした仕事に必要とされる資質を上手く表現するのは微妙で難しい。掘り下げれば論文、否本が書けるだろう。
　そうした仕事に従事する人達に囲まれ、分け隔てなく付き合って居るつもりの私にも、無意識の偏見があるようだ。
　この分野には女性の働き手が多い。当然美しい人も居る。患者の身体を拭いていた女性が顔を上げるとはっとするような美人のことがある。そうすると心のどこかを何でこんなに綺麗な人がと思う気持ちが通り過ぎるのだ。こうしたことを書けば、じゃあおまえは銀座のバーなら良いのかとフェミニストの空手チョップが飛んできそうだ。勿論それならよいというわけではないだが。理性では好ましくないと考えながら、そういう心の動きを抑制するのは難しい。
　十八年前お会いした時はまぶしいほどの美人だったＮさんが、確かに今も美しいけれども、白髪混じりの前髪を無造作に掻き上げ、本当に質素な身なりで「先生」。と笑い皺が数本走った目尻でにっこりすると、やっぱり何とも言えない気持ちになるのだ。