玉川上水の辺りでハナミズキと共に

春は花 夏ほととぎす 秋は月 冬雪さえてすずしかりけり (道元)

*暑い夏の読み物

2023年08月10日 | 捨て猫の独り言

 「危険な暑さ」という予報にも慣れっこになった。人は破滅を迎えるまで、なんにでも慣れてしまうものらしい。この夏の暑さに負けてめっきり本を手に取ることが少なくなった。そんな折に手ごろな読み物に出会った。西崎伸彦著「海峡を越えた怪物」だ。

 著者は週刊ポストを経て週刊文春の記者である。怪物とはロッテ創業者・重光武雄のことだ。重光は1921年に釜山の北の貧しい村に本名の辛格浩として生まれた。1940年に植民地政策である創氏改名により辛一族は重光姓を選んでいる。その翌年、重光は身重の妻や両親に何も告げず、釜山から船で日本に渡る。(窓辺に蟷螂が)

 

 そして日本と韓国で巨大財閥を築き上げた男は失意のうちに2020年にソウルで死去(享年98)している。この本では、一人の逮捕者もなく多くの謎を残したまま闇に葬られた1973年8月8日の「金大中拉致事件」の全貌が解き明かされる。1970年に朴政権の駐日大使として赴任していた李厚洛が、KCIA部長に就任する。李と重光の二人は囲碁が好きで頻繁に会食も行っていた。

 事件の後、朴大統領の密命を帯びた首相の金鐘泌が来日し、田中角栄首相や大平外相と面会して陳謝する。事件解決の工作資金として三億円を届けたとされる。事件から34年後の2007年に革新系の廬武鉉政権の真相究明委員会は「李厚洛を始めとするKCIA要員24名に駐日公使などを含めた計27名が参加した組織的犯罪と断定、朴大統領の暗黙の了解があった」と結論付けた。

 

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