玉川上水の辺りでハナミズキと共に

春は花 夏ほととぎす 秋は月 冬雪さえてすずしかりけり (道元)

*2冊の禅の本②

2023年03月16日 | 捨て猫の独り言

 平櫛田中に「尋牛」という作品がある。何かに向かって一歩を踏み出しているあごひげの翁の像だが、そこに牛はいない。花園大学に国際禅学研究所をつくった柳田聖山の「未来からの禅」という著作を読んで「尋牛」の謎が解けた。ただし本のタイトルはサンフランシスコの禅センターでの講演のもので「尋牛」とは関係ない。

 謎が解けたのは最後の章の「盲・聾・啞ー十牛図を考える」だった。「十牛図」とは13世紀初期に中国で生まれた禅学入門書だという。一種の漫画本ともいえるもので、十枚の絵と詩の本で牧童が暴れ牛を飼いならす手段にたとえて、禅の修行の段階を図式化しようという、連続様式の版画である。

  

 第一番が「牛を尋ねる」だった。田中の「尋牛」では牧童ではなく翁になっているのは興味深い。聖なる全牛を我々が改めて発見する、そして我がものとするという、修行の全過程を明らかにし、最後に牛と自分が一つになるという意図で制作されたと考えられる。完全な牛が描かれているのは3枚にすぎず、すべてが円相の中に描かれている。

 

 第九番は「本に帰り源に還る」として花が咲き水が流れる大自然の姿が描かれる。何も見ず、何も聞かず、何も言わないその人に向かって、大自然は心優しく語りかけ、倦まず弛まずそれを続けていく。第 九番は道元の時節因縁の歌「春は花、夏ほほととぎす、秋は月、冬雪冴えて涼しかりけり」に通底する。(了)

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