玉川上水の辺りでハナミズキと共に

春は花 夏ほととぎす 秋は月 冬雪さえてすずしかりけり (道元)

*「死」と短歌

2020年07月16日 | 捨て猫の独り言

 新聞の歌壇・俳壇を切り抜く。それを惰性で続けている。興味があるのは短歌の方で、自分でも作ってみたいのだがいつまで経っても最初の一歩が踏み出せない。今では、ほぼ諦めた。そこで楽しみは投稿作品の中にきらりと光る投稿歌に出会うことだ。僭越な物言いだが現代短歌には抒情性豊かな歌というものが少ないのではという感想をもつ。最近の切り抜きの中から、私たちの身の回りにある「死」について詠まれている歌をあつめてみた。

 

 【第1群】●余命なき夫の体さする手の憶えておかむとおもふかなしさ ●カサブランカ咲くまでいちご熟れるまで玉蜀黍(きび)実るまで生きませ我が背 ●母曰く、何を食べたか忘れても美味しかったんは覚えとるんさ ●言ったこと言おうとしたこと忘れては忘れたことも忘れし母は ●初めてのオムツをした日母が泣いた私も泣いた春の晴れた日 

 【第2群】●「此処からは独りですよがんばってね」と棺のひとにささやく夫人 ●母つつむ火の色かすかに思いつつ客数えおり火葬場の隅 ●「五時からはウイルスの方専用です」促され骨抱き斎場を出づ ●お母さんとお義母さん、その発音の重なりし頃義母は逝きけり ●妻の逝きし病室を出づ夜の窓に映る列車の灯の懐かしき

 【第3群】●見出しぬ妻の遺品の箱一つ我が生涯の給与明細 ●傘持って行きなさいよと亡き妻の声聞く様な午後の外出 ●亡き夫とのアルバム繰ればどの旅にもタバコをはさむ職人の指 ●忘れたら君は二度死ぬ七年を供養のために拾う桜花 ●この世での最期の言葉は「ありがとう」父待つ空へとかあさん還る 

 さすがに歌人は自分の死までも詠んでしまう。正岡子規「夕顔の棚つくらんと思へども秋待ちがてぬ我いのちかも」 河野裕子「手をのべてあなたとあなたに触れたきに息が足りないこの世の息が」

コメント
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