昨年暮れからタイガーマスクさん達の養護施設へのランドセル等のプレゼントのニュースが現在までの8件。
暗いニュースが続くなか、心が温かくなるニュースです。
“善意のリレー”といえば、2000年のアメリカ映画『ペイフォワード(原題:Pay It forward)』を思い出します。この題名は、教師(ケヴィン・スペイシー)の問い、「もし、自分で世界を変えたいとしたらどうする?」に対する、生徒のトレバー(ハーレイ・ジョエル・オスメント)の意見です。
トレバーが考えたのは、「自分が誰かに善意を受けたら、それを次の三人に手渡す」ということでしたが、こうした“善意”は、当事者のみならず、“善意の場面”を見聞きしたり、“善意の人”とふれあうだけの人にも影響を与え、(ほんの少しであっても)世界を変える役割があると思います。
さて、善意の人といえば、私がボランティアセンターで仕事をしていた時にもこうした善意の人達と何人もふれあいました。
ボランティアをしている人は基本的に皆善意だとは思うのですが、大きなグループなどには自分の名誉欲、支配欲を満足させたがる面がある人がいたり、時々本末転倒な人も見かけたりはしました。
そんななかにあって、私がセンターにいた時に、心底尊敬し、慕っていたNさんという女性がいました。
そのNさんは80代の大変控えめな方でしたが、市の点訳赤十字奉仕団で副会長を勤め、頑張るあまりに突っ走ってしまう会長(彼も大変すばらしい人です)をサポートしながら、うまく操縦もするような、内助の功の見本のような女性。
私がボランティアセンターにいた時は、人間関係や業務のイザコザ、そして心を病んだ方や、困窮者の相談に乗ったりしたときに、自分自身がぐっと落ち込んでしまうことがありました。Nさんはそんな時、私の元気がない様子をいち早く察知して励ましてくれたり、時には私を廊下に呼んで、「職員にいつもお世話になっているから、皆で食べなさい」と言って、職員全員が食べきれないくらいのケーキを買ってきてくれたりしました。
(センターの職員はタダ働きであるボランティアさんがいて初めてお給料を貰っているのに・・。当然これは毎度お断りをしていましたが、彼女はけしてやめませんでした。)
退職する時に、小さな体で、私をぎゅっと抱きしめてくれたNさん。私は退職後も3,4年はごくたまに活動場所に顔を出していましたが、もう最後の数回はNさんはいらっしゃらず、「Nさんは体調を壊されたので、最近はご自宅で点訳活動をされている」ということを他の団員から聞くばかりでした。
そして、そんな彼女が亡くなったことを、買い物先でばったり出くわした団員の方から伺ったのは昨年秋。
彼女の話によると、Nさんはあれからしばらくして点訳赤十字奉仕団を退団。その後自宅静養しつつ、昨年短い入院期間を経てまもなく亡くなられたとのことでした。
入院のことも、亡くなったことも、たぶんNさんの口止めがあったのでしょう、点訳赤十字奉仕団の会長にも何も知らされていなかったのですが、偶然、この会長が他の知人の葬儀に斎場に出かけたときに、その隣でこのNさんの名前を発見。遺族の方に聞いて、それがNさんの葬儀であったということを知ったそうです。
Nさんは入院してそんなに苦しむことなく亡くなられたそうですが、ご自分の寿命が分っているかのように、出来る限りの点訳の仕事をし、そしてすべてを綺麗に整理、次の題に引き継がれていきました。
彼女は静かで控えめで、本当にごく普通の小柄なご婦人でしたが、多くの視覚障害者の人達、そして団員達、そして職員達、家族はもちろん、周りの人達に彼女が与えたことは多かったと思います。
彼女を知った人は、自分も、きっと次世代にも彼女が持っていたものを残そうとするでしょう。