新・徒然煙草の咄嗟日記

つれづれなるまゝに日くらしPCにむかひて心に移りゆくよしなし事をそこはかとなく紫煙に託せばあやしうこそものぐるほしけれ

お化け灯籠と北斎と…(後編)

2017-11-12 15:51:00 | 美術館・博物館・アート

「お化け灯籠と北斎と…(前編)」のつづきは国立西洋美術館(NMWA)で観てきた「北斎とジャポニスム」展の話です。

この展覧会は、

19世紀後半、日本の美術が、西洋で新しい表現を求める芸術家たちを魅了し、“ジャポニスム”という現象が生まれました。なかでも最も注目されたのが、天才浮世絵師・葛飾北斎(1760-1849)。その影響は、モネやドガら印象派の画家をはじめとして欧米の全域にわたり、絵画、版画、彫刻、ポスター、装飾工芸などあらゆる分野に及びました。
本展は、西洋近代芸術の展開を“北斎とジャポニスム”という観点から編み直す、日本発・世界初の展覧会です。国内外の美術館や個人コレクターが所蔵するモネ、ドガ、セザンヌ、ゴーガンをふくめた西洋の名作約220点と、北斎の錦絵約40点版本約70点計110点(出品点数は予定、会期中展示替えあり)を比較しながら展示します。北斎という異文化との出会いによって生みだされた西洋美術の傑作の数々を堪能しながら、西洋の芸術家の眼を通して北斎の新たな魅力も感じていただけることでしょう。

というもので、予想を遙かに上回るボリュームでした。
よくぞこれほど集めたものだ と驚くほど。

NMWA所蔵・寄託の作品はもちろん、中には、2011年10月に京都での「ワシントン・ナショナル・ギャラリー」展で観た、

メアリー・カサット「青い肘掛け椅子に座る少女」とか、

石橋財団コレクションポール・セザンヌ「サント=ヴィクトワール山とシャトー・ルノワール」など、

お久しぶりに再会できた作品もありました。
(「この絵って、輪郭線を描いているんだ…」と気づきました。)

   

さて、結構簡単にチケットを買えた私、会場入口で写真を撮って、

カメラをバッグにしまって(もちろん、場内は撮影禁止)、展示会場に入ると、、、ありゃ、行列

最初の展示ケースに向けて行列ができていたのです。

結構気分が萎えました
観に来たのは失敗だったかなぁ… と思ったほど。

でも、作品を間近に観るために行列があったのは、最初のコーナーだけで、それ以外は、観客こそ多いものの、並ばなければならないようなことはありませんでした。

もともと、観客の観る気満々の展覧会冒頭では、みんなじっくりと作品を観るものだから混みがちなのですが、加えて、「北斎とジャポニスム」展の最初のコーナーは、ケース内の展示品を上から見下ろさなければならない書籍の展示が中心だったもので、ますます混み合うのも自然です。
このあたりを考慮して構成していただけたら良かったのに…

それはともかく、観進めるうち、私の勘違いに気づきました。
それは、この展覧会では、北斎の作品は「狂言回し」というか引き立て役で、主役西洋の美術であるということ。
それに気づかないうちは、図版として簡単に展示されている北斎の作品が多いことに違和感を覚えておりました。

もちろん、「北斎の錦絵約40点、版本約70点の計110点」が出品されているのですけど。

でもでも、けっこうたくさん出品されている「北斎漫画」が、どれもこれも楽しくて、私はニヤニヤしっぱなしでして、帰宅するなり、久しぶりに書架から「初摺 北斎漫画 (全)」を引っ張り出して、再びニヤニヤした次第です。

一方、改めて、浮世絵版画の影響が顕著だなぁ~と感じ入ったのは、ロートレック「エグランティーヌ嬢一座」でした。

紙の地をそのままに使ったスカートの真っ白な内側から、突然、脚の膝から下にょきぃ~と出てくる表現は、のコントラストも鮮やかで、なんともステキです。

また、今回の展覧会で一番「お持ち帰り」したかったのが、初めて拝見したこちらのポスターでした。

フリッツ・ルンプフ「ゼーンライン社ラインゴルド」という作品です。
名前すらも初めて聞くルンプフなんですが、イイ、これ…
このポスターが販売されていることを知ってモゾモゾしています

また、アーノル・クローウ「花器:梅」は、高さ10cm、直径6cmと小さな磁器で、なんともかわいい
造形図柄色遣いも、日本人の作品と聞かされても、なんの疑問も持たないのではなかろうか
こちらも「お持ち帰りしたい作品」として買い物カゴに入れたい気分 でした。

他には、エミール・ガレガラス製品群は、あまりにも有機的・生物的で、エイリアンが飛び出してくるのではないか という妄想が浮かぶほど、衝撃的でしたし、カミーユ・マルタンルネ・ヴィエネールによる「ルイ・ゴンス著『日本美術』(第2巻 1883年刊)のための装幀」がまた見事でした。

昔の本には、数条の出っぱり(国立国会図書館のサイトによれば「背バンド」というものらしい)があったりしますが、

それを竹の節見立てる趣向なんか、お見事 です。
また、いかにも高級そうなに鮮やかに描かれたカキツバタなまめかしいったらありませんでした

北斎の国際的にも知られた代表作といえば、やはり、、

冨嶽三十六景、なかでも「神奈川沖浪裏」でしょう。

ドビュッシー「海」のスコア譜「The Great Wave off Kanagawa」、略して「The Great Wave」と呼ばれているこの作品は、欧州の美術界にもまさに「The Great Wave」だったようで、これにインスパイアされたとおぼしき作品が、ドビュッシー交響詩「海」スコア譜を含めてわんさか
とても誇らしい気分になります。

   

会場で北斎の作品を観、帰宅して「北斎漫画」を見て思うのは、北斎という絵師が、どれだけ描くことが好きで、そのために世の中の森羅万象を観察することが好きだったのかということです。

北斎が亡くなるときの記録に、

翁 死に臨み大息し 天我をして十年の命を長らわしめば といい 暫くして更に言いて曰く
天我をして五年の命を保たしめば 真正の画工となるを得べし と言吃りて死す

とあります。
「あと10年、いや、あと5年生き続けられたら、ホンモノの画工になれるのに」ということで、向上心の塊 といった感じなのですが、私としては、これが北斎本心とは思えないのですよ。
ホントのところ、5年、10年どころか、永久に生き続けて、いろいろなものを見聞きして、それを描きたい と思っていたのではなかろうかと。
「画狂老人卍」と名乗った北斎ですから、そんな妖怪的な野望を持っていたとしても不思議ではないと思います。

ということで、「北斎とジャポニスム」展の見聞録はここいらでおしまいにしますけど、この展覧会は来年1月28日までと、まだまだ延々と(?)やっていますので、もう一度観に行くかもしれません。

そういえば、自宅最寄り駅で電車を降りたら、駅のペデストリアンデッキから見事な富士山シルエットが見えました。

やはり自宅付近からの富士山は、北斎描くところの富士山ほどとんがっておりませんな。

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