「秋の上野は芸術の秋 (その3)」のつづきです。
東京藝術大学大学美術館を出た私は、ハナミズキが赤い実をつけている東京国立博物館(トーハク)へ。
トーハクでは、恒例の「秋の庭園開放」が始まっていますが、まだまだ見頃じゃないし、特別展「平安の秘仏―滋賀・櫟野寺の大観音とみほとけたち」は今月初めに拝見したし(今になってブログに書いていないことに気づいた)、特別展「禅―心をかたちに―」は、私の東京国立博物館パスポートではもう特別展を観られないし、
で、今回は常設展「総合文化展」、それも本館と平成館1階のみ観てきました。
ところが、それでもめちゃくちゃ楽しかったのですから、さすがはトーハクです。
まず、これまで何度も拝見したはずの仏像なのに、、、、
法隆寺大宝蔵院で拝見していたく気に入った「木造観音菩薩立像(九面観音菩薩像)」(こちらの記事をご参照方)にそっくり
説明板によれば、この仏像は「十一面観音菩薩立像」で、
稀少材である白檀という香木を用い、着衣や装身具にいたるまで全身を一木から彫出す、檀像を代表する優品。緻密な彫刻とインド風の顔立ちに特色があり、中国から請来されたとみられるが、日本における檀像表現の手本ともなった。明治まで奈良県多武峰(とうのみね)の談山神社に伝来した。
だそうですから、まさしく法隆寺の「木造観音菩薩立像(九面観音菩薩像)」と似た由来です。
でも、残念ながら、全体のバランスの点でも、お顔も、法隆寺の「木造観音菩薩立像(九面観音菩薩像)」の方が「優品」だと思いました
次におわぁ となったのは、金吾こと小早川秀秋所用と伝えられる陣羽織です。
これまでも何度か拝見していまして、NHK大河ドラマ「真田丸」(私、ハマってます)で、金吾さんがこの陣羽織を着用しているシーンに、私は妙に盛り上がったりしておりました。
できることなら、「真田丸」の「関ヶ原の戦い」辺りで、この陣羽織を展示してほしかった…
ところで、背中部分に大胆にあしらわれた2本の鎌、そのストラップ用の穴(?)が、、、
です(虫食いらしき穴は見逃してくださいませ)
ここでちょいと横道に逸れます。
小早川秀秋の呼び名というか別名というか「金吾」って何でしょ?
調べると、Wikipediaによれば、
日本における衛門府の唐名。「執金吾」の略。
で、摂政or関白を辞めた人を指す「太閤」とか、中納言の別名「黄門」なんかと同じような官職名なんですな。そして、かの小早川秀秋の場合、彼が「左衛門督(さえもんのかみ)」だったから「金吾」と呼ばれたそうな。
そしてそして、左衛門督=金吾というのは左衛門府の長官で、左衛門府の次官が「左衛門佐(さえもんのすけ)」、つまり真田信繁(幸村)の官職です。
あくまでも形式とはいえ、小早川秀秋は真田信繁(幸村)の直属の上司だったんですな。
お次の眼福は琳派。
緩やかな曲線で画面を上下に区切る丘の表現が、いかにも宗達の後継者っぽい。
説明板には、
緑を薄塗りした金地の野辺に、萩、薄、女郎花、芙蓉など咲き乱れる秋の草花。地面の起伏と草花の布置とが協調して波状の動きを作り、澄んだ秋の大気が吹き抜ける。宗雪は、あの俵屋宗達の後継者であり、はじめ京都で活躍し、後に加賀金沢で前田家に仕えた。
とありました。
いい作品です
琳派、「秋草図屏風」、とくれば、こちらの作品を放っておく手はありません
二曲一双の屏風なんですが、完全平面状態で展示されています。
奇妙な展示方法ですな。
でも、この展示方法を考えた学芸員さんのお気持ちはよく判るつもりです。
普通二曲一双の屏風、は、左隻・右隻それぞれ、真ん中を凹ませるようにして立てますが、もともとこの作品は、真ん中を出っぱらせるように立てなきゃならなかったのです。
というのも、この酒井抱一の「秋草図屏風」は、かの尾形光琳の「風神雷神図屏風」の裏に描かれていたのですよ
こちらのサイトの解説によれば、
「雷神図」の裏には驟雨(しゅうう)にうたれて生気を戻した夏草と、にわかに増水した川の流れを、「風神図」に対しては強風にあおられる秋草と舞い上がる蔦(つた)の紅葉を描く。
抱一(1761~1828)は諸派の画風を遍歴したあげく光琳の絵画に傾倒し、琳派の伝統を江戸の地に定着、開花させた。がその作風には彼の得意とした俳諧の感覚に通じる風雅な趣が支配的で、琳派伝統の「たらし込み」の手法も抒情的な草花表現にもっぱら活用されている。この図は銀地の上に可憐な草花を描いた抱一らしい優美な作品であるが、一方、色の濃淡の変化を避けて明快な色彩効果をねらっている点に注目したい。抒情性と装飾表現の自然な統合を目指した、おそらく抱一画の到達点を示す一作ということができる。
だとか。
そして、
琳派の系譜を象徴的に表すこの記念的な両面屏風も、画面の損傷から守るべく、近年表裏を分離してそれぞれの一双屏風に改められた。
というわけですが、いつか、光琳の「風神雷神図屏風」と抱一の「秋草図屏風」を背中合わせに展示して、かつての有様を想像できるようにしていただけたら嬉しいんだけど…
と光琳の「風神雷神図屏風」、その「本歌」である宗達の「風神雷神図屏風」との「共演」は何度も実現していることですし、こちらも是非
お次は、豪華な刺繍が目に鮮やかな「小袖」。
説明板には、
武家女性の小袖。腰上は、菊・桔梗・芒と虫籠の模様で『源氏物語』の「野分」を、腰下は藤をのせた檜扇が描かれており「藤裏葉」を主題としている。野蚕から取れる天蚕糸と呼ばれる山繭系で縞経をして織り上げ、縮緬を染めると縞模様ができる。
とあって、かなり難しいのですが、それよりも何よりも私の目を点にしたのは、この小袖の名称
いいですかぁ~、行きますよぉ~。
紫萌黄染分山繭縮緬地流水草木屋形虫籠模様
むらさき もえぎ そめわけ やままゆ ちりめんじ りゅうすい そうもく やかた むしかご もよう
英語だと、
Stream, flowering plant, house, and insect cage design on purple and yellowish-green tussah silk chirimen crepe ground
ですって
いやぁ~、、覚えきれない…
もっとも、見たまんまではありますが…
ちなみに「小袖」の英訳は、
Kosode (Garment with small wrist openings)
だそうです。「袖の開きの小さな服」ですから、これまたそのまんまです。
それにしても、金吾さんの陣羽織を除けば、みんな秋づくしで、それでいてほとんど常連の私を惹き付けるんですから、やはり凄いなぁ、トーハクの平常展(総合文化展) と驚くのですが(観覧料は大人:620円)、実は、このあと、さらに驚きの展示が
そのお話は「その5」で。