生活保護利用者へのバッシングについて、和久井みちる氏は「でも、どうして、困った時に助けてもらってはいけないのでしょう?」と問う。
憲法25条に「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」とあるわけで、人間らしい最低限の生活を国に保障してもらうのは基本的人権の一つである。
「生活保護は生きていくための権利ですよ。無差別平等という原則があって、理由のいかんを問わず、最低生活を下回ったら誰でも申請できる制度なんですよ」
生活保護を恥だと感じるのは、人に迷惑をかけたくないとか、国のやっかいにはなりたくない、という悪しき自助意識からのように思う。
「一生に一度や二度、誰かに助けてもらうことがあったっていいのではないでしょうか? それも、命に関わる深刻な事態なんですから。
助けてもらっているだけで、決して「楽をしている」わけではないし、助けがいらなくなったら、今度は自分が助ける側に回ればいいだけのことです」
今日、こんなニュースがあった。
生活保護断り母を承諾殺人 42歳娘に猶予判決 札幌地裁
生活苦から心中を図り、同居の母親=当時(70)=を殺害したとして承諾殺人罪に問われた無職、大沢久美子被告(42)の判決公判が16日、札幌地裁であった。佐伯恒治裁判官は、判決理由で「かけがえのない命は戻らず悪質だが、反省しており、母の承諾もあった」として懲役3年、保護観察付き執行猶予5年(求刑懲役3年)を言い渡した。
検察側冒頭陳述や被告の供述によると、2人は生活保護を受けていたが「仕事が見つからず、お金だけもらうのは心苦しい」と平成23年4月に辞退した。保護費をためた100万円が24年5月に底を突き、大沢被告は病気の母親から「おしまいにしよう」と持ち掛けられ心中を決意した。佐伯裁判官は、「困ったら周囲に相談することも必要だ。生活を立て直し、母の分もしっかり生きるように」と言葉を掛けた。
お互いさまなんだから、苦しいときには甘えたらいいのにと思う。
「時々、生活保護利用者に「誰のおかげで飯を食っているんだ」などと言う人たちがいます。あえていうなら、みんなのおかげです。そして、お互い様の制度のおかげです」
「最も困っている人たちを救う制度があることの、それで救われる人のいることの、どこが問題なのでしょうか。困窮している人たちが「恥」を優先して、制度の利用を控えるのが世の中の「あるべき姿」でしょうか? 問題なのは生活保護を必要とする人たちが増えている原因の方なのに」
もっともです。
話は飛ぶが、渡辺靖『アメリカン・デモクラシーの逆説』によると、国民皆保険制度導入に「白人――とりわけ低学歴・低所得者層――の警戒心」があるそうだ。
なぜなら国民皆保険制度は社会主義だから。
アメリカの保険制度の改革に最も反対する保守系の議員の選挙区ほど無保険者の割合が高くなっている。
生活が苦しい人たちのため施策に貧困層が反対するのは不思議な話である。
生活保護や年金や保険といった制度は、お互い様だから助け合おうということだと思う。
生活保護の利用者は、病気や障がいを持っている方たち、高齢者、失業者、DV被害者、ホームレス状態だった人、ひとり親家庭など、複雑でいくつもの問題を抱えている人がほとんど。
生活保護利用者の自殺率は普通の人の2倍。
また、生活保護利用者の中には、施設で育ったりして、台所の風景を記憶しておらず、料理を経験しないで育ってきた人も少なくない。
インスタントラーメンの作り方もわからないし、タマネギのむき方を知らない。
病気のために台所に立つことができなくなった人もいる。
それぞれに合わせた具体的な生活のサポートが必要。
ところが、生活保護利用者同士が結婚したらいけないとか、子供を作らないように、と言うケースワーカーがいるそうだ。
生活保護の利用者は病気や障がいをもっているために外出する機会が少なく、一人暮らしの生活では24時間誰とも話をしないことが珍しくないという。
多くの生活保護利用者は生活保護を受けていることを知られないようにしている。
そこで和久井みちる氏は生活保護の利用者の集まりを持つようになった。
「生活保護利用者を早く元気にしたいなら、社会との接点を取り戻し、また保障する意味でも、居場所づくりに公費を費やすことも絶対に無駄ではないと思います」
和久井みちる氏は2011年、生活保護の利用者ではなくなり、ほぼフルタイムで働いている。
「なぜ頑張れているかというと、それはあたしの後ろに生活保護制度があるからです。
新しい仕事にトライして、もしもやっぱり倒れてしまったら、最後の最後は生活保護があたしを守ってくれる、そう思えるから頑張れています。
もし、生活保護が改悪されて、次に倒れたらもう二度と頼ることができないような制度だったら、あたしは後がないことが怖くて、無理かもしれないことに挑戦することはできなかったでしょう」
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