山田真哉『「食い逃げされてもバイトは雇うな」なんて大間違い』に、「禁じられた数字」について書かれています。
山田真哉氏の説明です。
「禁じられた数字」とは「事実だけれど正しくはない」という数字のこと。
人の判断を惑わし、人をだます武器にもなるので、社会全体のために決して使うべきではない卑怯な数字である。
「禁じられた数字」がきわめてやっかいなのは、文字ならばしっかりと考えられるのに、数字になったとたんに思考停止に陥り、騙される人がとても多い点である。
具体的に、禁じられた数字とはどういうものか、4つの代表的なパターンがあげられています。
1 作られた数字
はじめから「こういう数字がほしい」という結果ありきで生まれた数字
Q 次の都市のなかで、いまいちばん行きたいところはどこですか?
ロンドン
パリ
ローマ
ハワイ
この設問には欠陥がある。
ヨーロッパの都市が3つあるのに対し、リゾート地はハワイひとつしかない。
そのため、ヨーロッパに行きたい人の票は分散し、リゾート地に行きたい人がハワイに集中する。
これは誘導的な設問でして、死刑の賛否を問う調査も似たようなもので、設問がおかしいです。
厚生労働白書(平成17年度版)に、3世代世帯割合の高い地域では出生率も高い傾向がややうかがえるとある。
しかし、3世代世帯だから子供が生まれるのではなく、子供が生まれるから3世代世帯になるのであり、出生率が高い地域は、必然的に3世代世帯割合も高くなる。
これは因果関係を逆転させているわけです。
「生き残りバイアス」という話がある。
「当社の10本の投資信託、そのすべてがすばらしい運用実績です」
この数字は事実であっても正しくない。
100本の投資信託を作って運用し、その成績上位10本の投資信託だけを残したにすぎない。
2 関係のない数字
本当は関係がないのに、さも関係がありそうに思わせる数字
映画の宣伝で「構想7年 ついに映画化」というものがあるが、構想はアイデアレベルの話なので、無駄に7年も考えたのか、事情があって中断していたのか。
映画がおもしろいかとは関係のない数字。
政治家が「利用者は少ないかもしれないが、この空港を作るためにすでに800億円もかかっているのだから、いまさら中止できない」と言ったとする。
800億円と「だからもったいない」という意見とは直接的な関係はない。
建設を続行した結果、もっと損をするかもしれないし、完成しても採算が取れないかもしれない。
今後、800億円の赤字額が縮小するのか、拡大するのかという点だけが判断の基準になる。
3 根拠のない数字
さしたる根拠がないのに、もっともらしく聞こえてしまう数字
「○○の優勝で経済効果1000億円」というのも根拠のない(弱い)数字である。
分析者によって、経済効果の対象に含める範囲が違うし、「優勝セールで買ったから、冬のバーゲンには行かない」というマイナス効果も発生するが、経済効果の金額から引き算するわけではない。
4 机上の数字
計算上はうまくいくけれども、実際にはうまくいかない数字
こういう求人広告。
「工場勤務 時給1000円 月30万円可 寮完備」
月30万円ももらえるんだからいい仕事だと思いそうだが、月30万円を時給1000円で割ると、300時間。
休みなしで30日間、毎日10時間も働かないといけない。
「日本の中小企業の7割が赤字」と、国税庁が発表している。
しかし、中小企業には黒字だと税金をたくさんとられるので、わざと赤字にしている会社がけっこうある。
他にもいろんな例が挙げてあります。
驚いたのが、「費用対効果」は、どんな場面でも使えるオールマイティで便利な言葉だということ。
効果が意味するモノはひとつだけではないし、場面や人によって違うこともある。
たとえば、「この食器洗い乾燥機を買えば水道代が安くなります」という宣伝文句。
水道代は安くなっても、電気代がかかるので、たいした節約にならない。
前提がおかしかったり、効果の対象もあいまいだったりすることが多々ある。
費用対効果とは、使っている人の頭のなかでしか成立していない「関係のない数字」「机上の数字」だというのだから驚きです。
これらは、たぶん詐欺ではないし、悪徳商法でないけれども、人を惑わし、だますために数字を利用しているわけです。
でも、私にしたって、自説に都合のいい数字は引用しても、まずいものは無視しますから、意図的ではなくても、無意識にみんなやってることなのかもしれません。
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