東京拘置所が毎日新聞の取材を認め、死刑囚の処遇を公開した。
「週刊新潮」は「衛生夫が初めて語った! 東京拘置所「死刑囚」30人それぞれの独居房」、「週刊ポスト」は「死刑囚78人、獄中からの『肉筆』」という記事を掲載している。
たまたまかもしれないが、死刑囚の報道が重なった。
死刑囚の世話をする衛生夫の話をどう伝えるかによって、話のニュアンスが違ってくる。
「週刊新潮」だから、死刑囚はのんびり暮らしている、金の無駄遣いだという感じ。
それに対して、「週刊ポスト」は光市事件の「元少年」となっていて実名を出していないように、客観的に伝えているように思う。
死刑囚がどういう状態に置かれ、どういう生活をし、何を考えているか、ほんとどといっていいくらい知らされない。
ましてどのように執行され、立ち会う人がどう思ったかは秘密である。
法務省は秘密主義を死刑囚の心情の安定のためと説明するが、本当に心情の安定につながっているかはわからない。
小倉孝保『ゆれる死刑 アメリカと日本』は、アメリカと日本の死刑囚、教誨師、被害者遺族、裁判官、検事といった人たちに取材した本。
死刑囚と接する教誨師は死刑に反対の人が多いようだ。
足利孝之さんは1966年から25年間、死刑囚の教誨をしていた。
足利「私は坊主ですからね、人間が人間を裁くというのはいけないと思っています。国家権力が人を殺してはいけない。もっと生かす方法を考えるべきではないか」
カロル・ピケット牧師は死刑執行時の教誨師である。
「テキサス州には死刑執行時だけの教誨師がいる。刑務所に収容されている囚人に普段から宗教を説く教誨師とは別に、死刑執行に際してのみ教誨活動をする宗教家である。普段から付き合い、情を通わせた者同士が執行に立ち会うことは教誨師、死刑囚双方にとって精神的負担が大きいという考えがあるようだ」
カロル・ピケット牧師が1980年から1995年までに立ち会った死刑囚は95人。
ピケット「九十九パーセントの死刑囚は死後の世界を信じていましたよ。だから、私が最初に、「心配なことはありますか」と聞くと、多くの死刑囚が「死刑にあった後、自分の遺体はどうなるんでしょうか」と聞いてきました。(略)
暴れたり暴力を振るったりする死刑囚は一人もいなかった」
ピケット牧師は繰り返し執行に立ち会ううち、テキサス州の死刑制度に強い疑問を抱くようになり、死刑教誨師を引退した後、死刑廃止を求める運動に加わった。
「疑問を抱いた理由の一つは、経済、学歴の格差が刑に反映していることだった。貧しく、学歴の低い者ほど、死刑になりやすく、高学歴で豊かな者が死刑になる確率はとても低いという、この国の現実をピケットは肌で感じた」
ピケット牧師が立ち会った95人のうち、大卒は2人しかいない。
死刑とその他の刑を分ける基準についてもピケット牧師は不信を持った。
ピケット「私の会った死刑囚の多くは、被害者が一人の事件で、死刑判決を受けていた。テキサスの刑務所には、殺人事件の服役者が一万人はいるのではないですか。でも、彼らは死刑になっていない。彼らと死刑囚を分けるものは何なのでしょう」
死刑と他の刑とを分ける明確な基準がないことを問題にする人は他にもいる。
ロバート・F・アターはワシントン州が死刑制度を維持していることに抗議してワシントン州最高裁判事を辞任した。
48人の女性を殺し、さらにカナダで大量の女性を殺害したとされるリッジウェイに検察は当初、死刑を求刑したが、司法取引に応じる形で終身刑を求めた。
リッジウェイは犯行を認め、事件の詳細を供述して無期懲役となった。
リッジウェイのように50人以上を殺しても死刑にならない場合があれば、数人を殺害して死刑になるのでは不平等だと言わざるを得ない。
日本でも、名古屋の闇サイト殺人事件の一審判決は自首した被告が無期懲役、二人が死刑だったが、死刑判決を受けた二人のうち、一人は控訴せずに死刑が確定、控訴した人は二審で無期懲役だった。
検察は上告しなかったので無期が確定したのだが、検察は最初から死刑は無理だと思っていたのではないか。
同じことをしているのに、控訴しなかった人は死刑で、控訴した人は無期懲役。
これでは法の下の平等に反すると、素人でも思う。
追記
2月14日、岡山地裁で、被害者が1人で、前科がない被告への死刑判決が言い渡された。
裁判員制度では初めて。
厳罰化のためらしい。
ということは、死刑か無期懲役かの明確な判断基準はないということである。
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新聞記事は数日たつと見れなくなりますから、対策を考えないといけませんね。
>当日の宣告を望むか、前もっての宣告を望むか、尋ねるべき
たしかにねえ。
執行を望むか、恩赦を望むか、だったらともかく。
処刑か、自殺か、という選択肢だってあってもよさそうです。
>ところが、執行を告げた死刑囚が自殺したために、死刑囚にさまざまな制限が加えられるようになりました。
先週だったか、TBS「報道特集」で死刑執行を取り上げており、人権派?が「死刑囚に、当日の宣告を望むか、前もっての宣告を望むか、尋ねるべき」などと言っていました。どうせ他人事なんだなあ・・・と感じました。
>東京拘置所が毎日新聞の取材を認め、死刑囚の処遇を公開した。
リンク先へ行けませんでした。検索してみたら、以下に収録されていました。
http://blog.goo.ne.jp/kanayame_47/e/bf3ef3b3c1a8c958c473757c2f5032d4 ⇒ http://www.k4.dion.ne.jp/~yuko-k/kiyotaka/kouchisho.htm
http://blog.goo.ne.jp/a1214/s/%C9%DB%BB%DC%CD%A6
日本でも以前は死刑囚同士の交流があったことを免田栄さんが書いています。
また執行の告知は数日前でした。
http://blog.goo.ne.jp/a1214/s/%B6%CC%B0%E6
心情の安定のためです。
ところが、執行を告げた死刑囚が自殺したために、死刑囚にさまざまな制限が加えられるようになりました。
これも心情の安定のためです。
国家が死刑囚を殺さないといけない、死刑囚が自ら死ぬことはダメだ、というのもおかしな話です。
>てるてるぼうずさん
たしかにそうですよね。
自信を持って死刑を求刑した検事、死刑判決を出した裁判官と裁判員からしてみれば、どうしてさっさと執行しないのかと思うでしょうね。
岡山地裁で死刑判決を出した裁判員は、被告は更生はしないと十年後も確信を持てるのかと思います。
現実はそうなっていない。
また、事実上、仮釈放なしの無期懲役状態という人がたくさんいる。
これは、何を物語っているのか?
というのが、私の疑問です。
きっと誰も死刑にすることについての確信なんて持っていないのでしょう。
日本では執行当日(直前)にならないと告知されないといいます。それは、死刑囚の心理を考えれば無理もないかなという気がします。しかし、誰をどういう理由で執行するかという事は暗い闇に覆われています。やましい事がないというのならもっと堂々と公開されるべきです。