三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

「死刑囚表現展」のアンケートと平野啓一郎『死刑について』(10)

2024年03月18日 | 死刑
⑪ 死刑執行と気持ちの区切り

死刑執行が遺族にとっての慰めや癒やし、あるいは気持ちの区切りになるでしょうか。

平野啓一郎『死刑について』は否定します。
社会は勝手に、遺族は死刑にならないことには収まりがつかないし、死刑になったらそれで一つ区切りがつくと考えて、犯人が死刑宣告を受けて死刑にされたら、途端に遺族のことはすっかり忘れてしまいます。しかし、実はその時にこそ、遺族は社会の中で最も孤独を感じているかもしれない。加害者を憎むということにおいてのみ被害者の側に立った人たちは、加害者に死刑が執行された途端に、被害者への興味を一切失ってしまいます。

加害者が死亡すれば、恨みや怒り、悲しみが消えるのかというと、そうは思えません。
大山友之さん(坂本都子さんの父親)は「殺してやりたいと自分の中で何度も言ってきた。死刑執行は当たり前と本当は言いたいけれど、良かったという思いはない」と語り、強盗殺人で妻を失った方は「死刑になったら、そこで相手の苦しみはなくなるし、我々も空虚になるだけですよね」と話しています。

布施勇如「米国の犯罪被害者支援―新聞記者の視点から」に、孫娘を殺されたジョニー・カーターさんへのインタビューが書かれています。
ジョニー・カーターさんにメドロックの死刑執行によって区切りがついたのかどうかと尋ねますと、「たしかに私はメドロックをゆるしはした。だけれども、事件や悲しみを決して忘れることはできない。死刑によって区切りがつくなんて、私には想像できない」と言っています。

名古屋の闇サイト殺人事件では、1人が死刑(すでに執行)、2人が無期懲役となり、無期の1人は他の事件で死刑になりました。
娘さんを殺された磯谷富美子さんはこのように語っています。
事件は忘れたくても、大切な娘を失った悲しみは、時間の経過に関係なく、薄れる事も無くなることもありません。深い悲しみに形を変えるだけです。一日たりとも、涙を流さぬ日はありません。だからといって、泣いてばかりでも、憎しみに満ちた生活を送っている訳でもありません。表向きは、ここにいらっしゃる皆様と同じように過ごしています。でも、二度と幸せを感じる事はありません。(入江杏「刑事司法と被害者遺族」)
この喪失感を死刑執行で埋めることはできないと思います。

⑫ 遺族へのケア

弟さんを殺された原田正治さんは被害者への支援を訴えています。
被害者は平穏な生活の中から、加害者やその家族と一緒にがけの下に突き落とされる。で、「助けてくれ」と、がけの上に向かって声をあげる。ところが、「死刑は当たり前なんだ。なくちゃいけない」と言う人たちは、誰一人として下にいる我々に手を差し伸べてくれない。手を差し伸べようとする感覚さえない。そして、加害者を死刑にして、これで終わったと思っている。我々はがけの下に放り出されたまま。

日本では被害者に対するケアが不十分だと、平野啓一郎さんは『死刑について』で批判しています。
被害者がほとんど社会からケアされていない状況では、「死刑制度は反対」とか「加害者にも人権がある」という声に、社会は非常に強く反発します。「被害に遭った人たちはあんなにかわいそうな目に遭っているのに、なんで加害者の人権が守られなきゃいけないんだ」と。僕はこの反応は、ある意味では一理あると思います。しかし、よく考えてください。被害者のケアを怠っているのは、国だけじゃありません。「準当事者」である僕たちですよ。僕たちは、ニュースで見た犯罪被害者のために、一体、何をしているのでしょうか?。
犯罪被害者は犯罪に巻き込まれたうえ、社会からも置き去りにされている現実がある。
傷ついた人たちを受け入れていくという意思を社会が明確に示し、生きていく上で困らない金銭的、精神的、現実的な支援をすべき。
ところが被害者の気持ちを考えろという世間は、被害者への支援制度改革の要望には無関心である。

金銭面についてですが、家計を支えていた家族が死亡すれば収入がなくなります。
被害者が損害賠償を求めても、加害者が支払った賠償金の割合は、傷害致死で16%、殺人で13.3%、強盗殺人で1.2%。
犯罪被害者給付金の額は320万円~2964万5000円で、年齢や被害者の収入額などから算定され、家族の生計を支えている場合はその人数に応じて加算されるそうです。

青木理さんの話だと、日本は予算が少なくて遺族給付金の平均額は約600万円だが、欧米では数百億円規模の予算を組んでいて、日本とは桁が違うとのことです。
死刑を声高に主張するより、生活面の心配を共有し手助けしてくれる人の存在が重要だと思います。
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