いささか古くなってしまいましたが、先月行われた参議院選挙前の高知新聞(7月5日)の記事です。
■争点が見事に隠れる■
今選挙注目の「3分の2」とは? 今回の参議院選挙は、憲法改正に前向きな勢力が「3分の2」の議席を確保できるか否かが一大焦点となっている。結果いかんでは戦後政治、人々の暮らしの大きな転換となる。が、この「3分の2」の意味や存在、有権者はどの程度知っているのだろうか。高知新聞記者が2~4日に高知市内で100人に聞くと、全く知らない人は5分の4に当たる83人、知る人17人という結果が出た。(略)
「今回の参院選は『3分の2』という数字が注目されています。さて何のことでしょうか?」
記者がこの質問を携えて街を歩いた。
返った答えのほとんどが「?」。「知らない」「さっぱり」「見当もつかない」の声が続いた。
「合区のこと?」(21歳男性)、「えっ憲法改正のことって? そんな大事なことは新聞が大見出しで書かなきゃだめでしょ。全然知らなかった」(74歳男性)の声も。
「3分の2」の争点や意味を、ほぼ分かっていたのは17人。(略)
「自民党の憲法改正草案を読んだことがありますか?」
読んだことがあると答えた人は10人。「家族は協力し合わねばならないとの条文があった気がする」(44歳女性)、「新聞で読んだ。すごい量が多くて、何となく読んだくらい」(56歳男性)。新聞や自民党が配布した冊子で読んだ人のほか、テレビニュースで概要を聞いた人も含めたが、内容を熟読した人はいなかった。(略)
毎日新聞(7月13日)です。
(略)毎日新聞が投票日の10日に全国の有権者150人に聞いたアンケートでも6割近くに当たる83人が、このキーワード(3分の2のこと)を知らなかった。「それって雇用関係の数字じゃない?」と答えた人もいたという(略)
「3分の2」がどういう意味か知らない人がそんなにいるとは驚きです。
こちらは京都新聞の記事(7月11日)です。
参院選の投開票結果を受け、京都新聞社は11日、憲法改正をテーマに京滋の有権者100人に緊急アンケートを実施した。改憲勢力が改憲発議に必要な3分の2以上の議席を占めたことについて、評価する声は22人にとどまった。憲法改正の国会発議についても「急ぐべきではない」が半数近くを占め、慎重な姿勢が浮かび上がった。
与党の圧勝を評価した22人の中でも改憲の内容については意見が分かれた。自民党が憲法改正草案に明記した「国防軍の保持」について、「賛成」は10人だったのに対し、「反対」は5人で、「どちらとも言えない」も7人いた。同草案の「家族は、互いに助け合わなければならない」とする規定は「賛成」(10人)と「どちらとも言えない」(11人)に分かれ、反対は1人だった。
一方で、自民の改憲草案に「目を通したことがない」が75%で、改憲勢力3分の2を「よかった」と評価する人では、さらに目を通していない割合が高かった。(略)
憲法を改正すべきだと考える人でも、どこをどう変えるか、それは人それぞれのはずで、自民党の憲法改正草案に100%賛成という人は少ないと思います。
草案のここは賛成だが、ここは反対とか、そういうものでしょう。
憲法が改正されるかもしれないのに、それを知らないで投票する。
あるいは、改正されたらどうなるかを考えずに、とにかく改憲すべきだと考える。
これでは、イギリスのEU離脱に賛成票を投じた人と変わりません。
イギリスのEU離脱決定から数時間後、イギリスでグーグルで検索数が多かったのは、「EU離脱の意味は?」、2番目が「EUって何?」だそうです。
坂野正明「TUP速報999号 英国のEU離脱キャンペーンに見る市民の政治誘導と参院選」(7月98日)からの無断引用です。
3分の2の意味を知らずに自民党やおおさか維新に投票した人は、国民投票のあとに後悔したEU離脱派を笑えません。
坂野正明氏によると、EU残留を説く知識人が理詰めで主張したのに対し、EU離脱キャンペーンの多くは単純なスローガンを繰り返したそうです。
有名なのが次の3つ。
・英国をふたたび偉大な国にしよう
・国を取り戻したい。
こうした感情に訴える単純なスローガンは受けます。
しかし、どうとでも受け取れるし、具体的に何を、どうするのかはわかりません。
そのあたりも都合がいい。
安倍首相は「戦後レジームからの脱却」と唱えていて、しかし戦後の日本はアメリカ追随で一貫しており、安倍首相も同じ路線のはずなのに、何を脱却するつもりかと思ってましたが、「戦後レジームからの脱却」とはアメリカの「押しつけ憲法」を廃止して「自主憲法」を制定するということだと、最近納得しました。
もっとも、その自主憲法と称するものもアメリカの意向に沿うものとなることは容易に予想されます。
山田優、石井勇人『亡国の密約 TPPはなぜ歪められたのか』という本を、新潮社のHPではこのように紹介しています。
毎日新聞の書評(7月17日)によると、
こうした密約が、TPPではさらに拡大してアメリカ代表が大丈夫かと事務方に聞くほど、甘利代表(当時)は譲歩したらしい。
とあります
伊勢崎賢治『本当の戦争の話をしよう』は、福島高校の生徒への講義をまとめた者です。
アメリカの特殊部隊がパキスタンでビンラディンを暗殺した。
パキスタン国民は主権侵害だと怒り、反米感情は高まった。
歌舞伎町でビンラディンが殺害され、日本政府が「知らなかった」と言ったとして、日本人はどうするだろうか、と伊勢崎賢治氏は問います。
日本政府は主権が侵害されたとアメリカに抗議するか、国民は怒るか。
「へえ-」で終わるのではないか。
そして伊勢崎賢治氏は、2004年、沖縄でアメリカ軍のヘリコプターが沖縄国際大学に墜落したときの話をします。
日本の消防車も警察も現場に近づくことはできなかった。
アメリカ軍が日本の私有地にバリケードを作って封鎖し、日本人を誰も立ち入らせなかったのである。
こうしたアメリカの言いなりという体制こそ脱却してほしいものです。