三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

坂上香『ライファーズ』3

2013年07月15日 | 厳罰化

坂上香『ライファーズ』によると、アミティは、再犯率が驚異的に低いそうだ。
プログラム修了者の再犯率は一般受刑者と比べて3分の1だという。
釈放後もアミティの継続プログラムに参加した場合は、再犯率はさらに低くなる。

それなのに矯正予算が削減され、2009年、アミティはカリフォルニア州内の7つの刑務所すべてでプログラムの閉鎖に追い込まれた。
もっとも、カリフォルニア州は財政難で教育予算をカットしたため、公立学校が音楽の授業を廃止したそうだから、矯正予算だけ削られたわけではないけれども。

日本の現状について坂上香氏はこのように言う。

「私たちが暮らす場は防犯カメラで包囲され、学校では携帯会社と警備会社主催の安全教室が授業の一環として開催され、子どもたちは防犯ベルを持ち、親たちはメールで届く不審者情報に右往左往し、自衛に駆り立てられる。「原発は安全である」という神話を、私たちの多くが疑わずにきたように、「社会は危険である」という神話を、私たちの社会は強固に信じ込んでいる」

不安感が厳罰感情を生み、そうして矯正予算の削減に結びついている気がする。
坂上香氏は「いかに加害者を厳しく処罰するかという社会的傾向が強まっているから、受刑者に対する長期的かつ継続的な支援などと言うと、世間からは「犯罪者を甘やかすな」とバッシングを受けるし、専門家からも「被害者支援を優先すべきだ」という声がしばしば聞こえてくる」と書いている。

「世間は加害者に厳しい。少年の立ち直りや被害者の回復を後押しするどころか、阻害する危険性もある」

その一例として、最高裁司法研修所が市民と裁判官を対象におこなった調査では、殺人事件の量刑に関して、「殺人事件の被告が少年ならば、成人よりも刑を重くすべきだ」と答えた市民が25.4%で、裁判官は皆無だったことを坂上香氏は紹介している。
裁判官よりも一般市民のほうが罪を犯した少年に厳罰的だというわけである。
ネットで調べたら、前田雅英首都大学東京教授と現役の刑事裁判官が中心となり、2005年8~9月にアンケート形式で行った調査だというから、あまり当てにならない気もするけど。

犯罪者や依存症者を排除すれば問題解決というわけにはいかない。
彼らも社会の一員であり、受刑者も社会に帰ってくるのだから。
「社会の長期的安全を真剣に考えるなら、刑務所と釈放後を分けて考えるべきではない。受刑者の大半は釈放され、やがて社会に戻ってくる。刑務所内でいくら素行が良くても、環境の異なる社会に出て、孤立した状況で、個々人が問題を乗り越えていくことは困難だ」

厳罰賛成の人であっても、映画『ライファーズ』を見て坂上香氏の話を聞けば考えを変えるのではないかと思ってたら、坂上香氏はこんな経験を述べている。
「主催団体や地域によっては、拒絶反応ともいえる強い情緒的なリアクションがみられた。警察が主催に名前を連ねたあるイベントでは、補導ボランティアをしているという高齢の男性が、暴力根絶を訴えつつ、交通ルールの違反をする子どもに対しては体罰も辞さないと発言した。それに賛同して会場のあちこちから拍手が聞こえた。私が反論すると、会場がざわめき、途中で席を立って出ていく人々もいた。厳罰主義やゼロトレランス(問題行動は徹底的に排除するという姿勢)的な価値観は、映画のテーマと対立する。しかし、そういった価値観が支持され、浸透していることを痛感させられることも少なくなかった」

私も似たような発言を耳にしたことがある。

ある研修会の質疑応答で「少年法という悪法を廃止すべきだ。学校に行っているのならともかく、働いているんだったら社会人と同じ扱いにすべきだ」と発言した保護司がいた。
少年でも刑務所にぶち込め、ということだと思う。
保護司だったら「社会を明るくする運動」の「犯罪や非行を防止し、立ち直りを支える地域のチカラ」という趣旨ぐらい知っているはずなのに。
聞く耳を持たぬ人たちに坂上香氏の話を聞いてもらいたいものです。

コメント
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