三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

坂上香『ライファーズ』2

2013年07月12日 | 厳罰化

坂上香『ライファーズ』は、アミティを取り上げたドキュメンタリー映画『ライファーズ』をもとにして書かれた本である。
信田さよ子、シャナ・キャンベル、上岡陽江『虐待という迷宮』も読んだ。
キャンベルさんはアミティ母子プログラムディレクター、上岡さんはダルク女性ハウス代表。

アミティは米国アリゾナ州を拠点とし、刑務所や社会復帰施設で更生プログラムをおこなっている。
創設者をはじめスタッフの多くは受刑者だった経験を持つ。
刑務所の中でおこなわれているプログラムでは、服役中の受刑者がスタッフとして働いている。

アミティでは、なぜ犯罪を犯すようになったのかを、語り合いを通して子供時代にまでさかのぼって見つめ、それぞれの傷を受け止める作業をおこなう。

犯罪者、依存症者の多くは子供のころから暴力と性的虐待(男も)と薬物にさらされてきた。
キャンベル「アミティに来る人の六割ぐらいは、最初のセックスがレイプです。それもほとんどが12歳以前なのです」

アミティ創始者の一人であるナヤ・アービターさんは実父からレイプを受け、母親はそれを放置。
14歳でヘロインを使い始め、17歳のときに薬物密輸で刑務所に入る。
18歳でシナノンという治療共同体につながり、そうしてアミティを始めた。

キャンベルさんも、2、3歳ごろから性的虐待を受け、アミティと出会うまでの暴力と薬物の凄惨な日々を語っている。

キャンベル「わたしが娘を置いていったあとで、父親が友だちに娘をあずけたことがあって、そこでまた娘が性的虐待を受けてしまった。彼らからドラッグの使い方を教えこまれたり……。シェリーナなそのとき12歳でした」
シェリーナは17歳のときに売春の仲介人とつきあってHIVに感染してしまう。

暴力と性について。
信田「暴力についてみなが口を閉ざしてしまうのは、どうもそこに性的なにおいがあるからではないかと思えるのです。
なぜ人は暴力をふるうのかという問いを立てると、「気持ちがいい」、つまり快感を得るという点を見逃すことはできません。その気持ちよさの中には当然、性的興奮が含まれます」

暴力と薬物について。

信田「(薬物依存症者の)多くは、小学校やそれ以下の年齢からずっと親からの暴力を受けている。その結果かどうかはわかりませんが、異性との関係においても加害・被害の両極を往還するような激しい暴力が出てくる。暴力被害、虐待経験と薬物使用とのあいだには、なんともいえない、すごくいやなつながりがあることを認めざるを得ないですね」

暴力と依存症の親について。
キャンベル「依存症の母をもつ子どもの多くは、小さいころからなんでも自分でやるか、あるいはほったらかしにされていたがために、規則や規律がわからないというタイプのどちらかです。(略)
子どもも暴力にさらされてきているので、とにかく反抗的な行動に出て、いやなことがあると暴力に走るという傾向が強いのです」

性的虐待と薬物について。
キャンベル「性的虐待を受けていた子どもたちというのは、恥の意識を隠して生きているわけですが、薬物を使うことによって恥の意識を感じなくてすむようになる、隠すという役割を果たすのです。しかし薬が切れれば強烈に恥ずかしさが戻ってくる。その繰り返しです」

虐待を受けてきた女性が性産業で働くようになるのはなぜか

信田「安心とか安全といった感覚がわからないとき、直接的な皮膚の接触だとか、抱かれることで、束の間の安心感に似たものが味わえるんじゃないでしょうか。(略)自分の行為で相手が満足する、その見返りとして承認されている感覚を味わうことだけを求めているんでしょう」

母親から暴力を受けていたダルクの女性のこんな話を聞いたことがある。
「人を痛めつけるような、攻撃性を持っている人が、私はわからないんですよ。それはなぜかというと、そういう暴力にさらされて育ってきたから。私は恐さというものを身体が遮断してきているから、暴力的な人がわからない。感覚的にわからないんですよ。暴力を受けてない人はわかるんですね。「なんか恐いな、この人は」とか。(略)
だいたい薬物依存症の女性が選ぶ男性は一緒なんです。スミの入ったヤクザっぽい、なんかいかがわしい、道でケンカでもするような男性をいつも選ぶんです。組織にいたとか、覚醒剤を使ったことがあるとか。暴力をふるわなくても、暴力的な言葉を吐く。または攻撃的なコミュニケーションしかできない。「選ぶ男性はよく似てるね」と言ったら、「そうですかね」って不審な顔をされるんですね」
たしかに、どうしてアホな男とばかりつき合うのかという女性がいます。

アミティではこうした自分自身の体験を率直に話し合い、分かち合う。
キャンベル「自分が傷ついたという話はなかなかできませんでした。自分が悪いことをしたということはけっこう話せるのですが、被害者としての自分を語るにはずいぶん長い時間がかかりました。恥の意識が強すぎて、自分がされてきたことを話すことができなかったのです」

青山俊董尼が『みちしるべ 正しい見方』に、
〝ああ、一番つらいこと、聞いてほしい心の痛みは、かんたんに口には出せないんだな。まして人の前ではしゃべれないんだな。しゃべらないからといって聞かないでよいのではなく、人にもしゃべれない心の深みのうめき、叫びを聞きとる心の耳を大きく開かねばならないのだな〟
〝反発という形、強がりという形で何を訴えているのか、言葉にも出せない悲しみを聞く耳を持たねばならないのだな〟
と書いている。
仏の神通力の一つである他心智通とは、声にならない叫びを聞くことだと思った。

2、3歳のころからヘロインを打たれ、父親と父親の友だちからレイプされていた22歳の女性はとても暴力的だったと、シャナ・キャンベルさんは話す。

「しかし彼女がアミティで歓迎されて、そこが安全な場所だとわかって、自分は排除されないんだ、捨てられないんだと確認できると、他人に対する暴力行為、あるいは自分に対する暴力、自傷行為というものも自然となくなるのです」

上岡陽江さんは19歳から26歳までアルコール・薬物依存、35歳まで摂食障害だが、上岡陽江さんの育った家庭はごく普通のように思う。
信田さよ子さんは「見えない強制とか、期待、支配があって、それで苦しむ人はたくさんいるんです」と言っていて、私も強制や支配をしてきたし……。

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