三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

「衛生夫が初めて語った! 東京拘置所「死刑囚」30人それぞれの独居房」

2013年03月12日 | 死刑

「週刊新潮」(2月7日号)に「衛生夫が初めて語った! 東京拘置所「死刑囚」30人それぞれの独居房」という記事が掲載されている。

衛生夫は30代の男性、東拘の死刑囚70人の半数弱がいるフロアで働いていた。
「世間では、死刑囚は独居房の中で膝を抱え、死の恐怖に怯えながら、毎日、改悛の日々を送っている――そんなイメージを持っていると思います。しかし、私が実際に見た死刑囚の姿とはかなりギャップがありました。見ようによっては、わがまま放題、好き勝手に生活しています。未決囚や懲役囚とは異なる様々な特権を与えられ、彼等のために多額の税金が使われている。私は普通の人々が見ることのできない死刑囚の姿を見ることができました。その実態を明らかにすることで、死刑という制度を論じる際の材料にしていただければ、と考えたのです」
これが記事の最初の部分だが、編集者の作文だとしか思えない文章である。

「元衛生夫は現在の死刑囚の処遇のあり方に大きな疑問を感じたという。

「死刑囚の待遇の良さはいったい何なのでしょうか。例えば、懲役で服役している人は朝から午後5時まで作業を課せられるのに、死刑囚は基本的に自由な生活です。何もしなくていい。彼等は自主契約作業といって、希望すれば、一袋3、4円で紙袋を折って収入を得ることもできます。中には月に3万円も稼ぐ人もいて、豪華な美術書を何冊も購入している。ところが、懲役の場合、時給5円から10円で始まる。いくら折っても月に500円から2000円ほどにしかならない。死刑囚は月に書籍を12冊購入できるのに、懲役は6冊。懲役には許されないビデオ鑑賞も死刑囚にはある。死刑囚は精神の安定を図る必要があるという理由で、ありとあらゆる面で厚遇されている。死刑存廃の議論も大切ですが、その前にあまりに世間のイメージと異なる死刑囚の生活を知っていただきたい。その上で受刑者の処遇の様々な矛盾や再審制度のあり方を考えてもらえればと思います」
衛生夫として死刑囚の生活をかいま見て、そう強く感じたという」
これが最後のまとめ。
どこまでが元衛生夫の意見なのかと思う。

紙袋貼りでいくらもらえるか、『死刑囚90人 とどきますか、獄中からの声』によると、自己契約(請願)作業の紙袋貼りは、紙袋を1袋作って3銭50厘だという。

100袋で3円50銭、1万袋で350円ということになる。
仮に1袋3円としても、月に3万円稼ぐには毎日300袋も紙袋を作らないといけない。

それに、刑務所の作業報奨金が安いのに死刑囚の収入がいいのはけしからん、というのはおかしな話である。
生活保護受給者より収入の少ない人がいるから生活保護費を下げるべきだというのと同じ理屈である。
全体のレベルを上げるべきなのに、低いほうに合わせろと言ってるわけだから。

でもまあ「週刊新潮」ですからね。

ある人は「週刊新潮」が「書かない」と約束したことを書かれ、抗議したところ、新潮社は10万円を支払ったという。
その程度なら取材費ですむ。

ウィキペディアに作業報奨金について、次のようにありました。
「日弁連では、最低賃金を下回る作業報奨金しか与えられない刑務作業によって、受刑者の製造した製品が民間企業の利潤に供されているという実態があることが明らかになれば、刑務所における労働は日本が批准している「ILO第29号条約」第1条によって禁止されている「強制労働」に該当することとなる旨の意見表明を繰り返し、刑務作業の実施にあたっては、作業報奨金は最低賃金を下回らないよう計算するとともに、慰問やカウンセリング等の機会を増やすべきであると主張している」

アメリカの死刑囚の生活について、デイヴィッド・ダウ『死刑弁護人』にこんなふうに書かれてある。
「死刑囚の生活は快適だという人もいる。午前中はウエイトトレーニングをして夜はテレビを見て、一日三回ちゃんとした食事が出て、コンピュータの利用も読書もできて、いいことずくめだ、と」

日本と大違いである。
日本の死刑囚は独房からほとんど出ることはないし、面会人がいない死刑囚は刑務官以外の人と話す機会もないし、コンピュータを利用できない。
冷暖房完備だと思っている人がいるようだが、それも間違い。
東京拘置所の場合、廊下に冷房は効いているが、部屋には冷気が入らないので、汗だくだく。
窓はいつも少し空いているので、冬は寒い。

林眞須美死刑囚は「衣類や差し入れ等や、又、自弁品が、ほとんど購入出来ず。外部交通制限で面会人がなく、差し入れもなく、ほとんどが官の貸与品での生活となっている。友人・知人・支援者等の親族、弁護人以外の外部交通を許可としてくれない。DVD、テレビ視聴を許可としてくれない。
10年以上となり運動不足と、日中、同姿勢で正座しているため、腰痛になる。運動時間をふやし、365日毎日、最低1時間は屋外での運動を実施し、うんどうぐつとなわとびを使用しての全身運動、なわとびをしながら走らせてもらいたい」と書いている。(『死刑囚90人 とどきますか、獄中からの声』)

拘置所によって処遇が違うらしく、大阪拘置所と名古屋拘置所は特にひどいらしい。

以前は少しはましだった。
堀川恵子『裁かれた命』によると、長谷川武という死刑囚が小林健治氏へ出した1968年12月27日の手紙(20通目)には、十大ニュースが書かれてある。
そのうち四つは現在の死刑囚の処遇では考えられない
2 今年一年、何と言っても僕を助けてくれたのは文鳥の与太が同居してくれた事です。
5 此処で写真を撮って貰い、母へ送った事。
6 僕が確定し、月三回、野球をやらせて貰える様になった事。
9 僕ら馬鹿者に隔月ではあるが昼食会を開催してくれる。

今は生き物を飼うことは禁じられているし、写真を撮るとか、野球をするとかはできないし、他の死刑囚と接する機会はない。
アメリカの死刑囚の処遇は日本に比べるとましだとは思う。

しかし、デヴィッド・ダウはこう言っている。
「無知なのか皮肉なのか。いずれにせよ、全部間違っている。死刑囚監房はただの狭い檻みたいなもの。(略)心に留めるべきことは、死刑囚は必ず、その残された短い時間のある時点で、心のなかまでも檻に囲まれてしまうということ」

「週刊新潮」の記事を読み、事実を伝えていても、どのように伝えるかによって読者の受け取り方が違ってくるわけで、これも情報操作である。

某新聞記者が「新聞は週刊誌とは違う」と言い、テレビの某報道記者が「バラエティ番組と一緒にしないでほしい」と言っていた。
事実をきちんと伝えている、興味本位じゃない、という自負心があるんだろうが、事件報道のはしゃぎ方を見ると、そう大して変わらないのではないかと思うこともあります

(追記)
「東京拘置所・衛生夫が語った「死刑囚」それぞれの独居房 第二弾」もごらんください。

 

コメント (15)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする