三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

『空が青いから白をえらんだのです』

2012年11月01日 | 厳罰化

 くも
空が青いから白をえらんだのです

Aくんは、普段はあまりものを言わない子でした。そんなAくんが、この詩を朗読したとたん、堰を切ったように語りだしたのです。

「今年でおかあさんの七回忌です。お母さんは病院で
『つらいことがあったら、空を見て。そこにわたしがいるから』
とぼくにいってくれました。それが、最期の言葉でした。
おとうさんは、体の弱いおかあさんをいつも殴っていた。
ぼく、小さかったから、何もできなくて……」
Aくんがそう言うと、教室の仲間たちが手を挙げ、次々に語りだしました。
「この詩を書いたことが、Aくんの親孝行やと思いました」
「Aくんのおかあさんは、まっ白でふわふわなんやと思いました。
「ぼくは、おかあさんを知りません。でも、この詩を読んで、空を見たら、ぼくもおかあさんに会えるような気がしました」
と言った子は、そのままおいおい泣きだしました。

「FORUM90」Vol.125に「京都女子大学公開講座 死刑廃止への道」の案内が載っていて、講師は寮美千子氏である。
たまたま知人からもらった寮美千子編『空が青いから白をえらんだのです 奈良少年刑務所詩集』を読んでいたので、ちょっとびっくり。
『空が青いから白をえらんだのです』の最初に、Aくんの「くも」という詩が紹介されている。

この詩集は奈良少年刑務所の「社会性涵養プログラム」で作られた詩を集めている。
書いたのは奈良少年刑務所の受刑者である。
少年刑務所は少年院よりも刑の重い人が入るというわけではない。
奈良少年刑務所には入所時の年齢が17歳以上26歳未満の受刑者がいる。

寮美千子氏は「奈良少年刑務所で、受刑者相手に童話や詩を使った情操教育の授業をしたいんですが、講師をしてもらえませんか」と依頼され、躊躇した。
「受刑者と聞いて、即座に「凶悪」「乱暴」というイメージが浮かんだ。一体、どんな罪を犯して刑務所に入ってきたのだろう」
受講予定者には強盗、殺人、レイプなどで刑を受けている人もいる。
「怖い、と思った」
しかし、教育統括の受刑者の更生を願う愛情を感じ、そして受刑者は社会の被害者かもしれないと思って、引き受けることになる。

「社会性涵養プログラム」の対象は、
「みんなと歩調を合わせるのがむずかしく、ともすればいじめの対象にもなりかねない人々。極端に内気で自己表現が苦手だったり、動作がゆっくりだったり、虐待された経験があって、心を閉ざしがちな人々」である。

このプログラムはSST(ソーシャル・スキル・トレーニング)、絵画、童話と詩の三つの要素で構成されている。
それぞれ月1回、一時間半の授業があり、月3回の授業を6か月、合計18回だから、童話と詩の授業は全6回。
受講者は10人前後。

1回目は絵本を朗読して、みんなで演じる。
2回目も絵本を読み、3回目は詩を声を出して読み、感想を聞く
そして、受講者に詩を書いてもらい、その詩を本人が朗読し、みんなで感想を述べる。

「たったそれだけのことで、目の前の彼らが、魔法のようにみるみる変わっていくのだ」
寮美千子氏はたまたまうまくいったのだと、最初は思ったが、そうではなかった。
「五期目が終了したが、効果が上がらなかったクラスは一つとしてない。ほとんどの受講者が、明るい、いい表情になってきて、工場の人間関係もスムーズになる」

「彼らの大きな変貌ぶりを思うと、わたしはなんだか泣けてきてしまうのだ」


「こんな可能性があったのに、いままで世間は、彼らをどう扱ってきたのだろう。このような教育を、もっとずっと前に受けることができていたら、彼らだって、ここに来ないですんだのかもしれない。被害者を出さずにすんだのかもしれない。「弱者」を加害者にも被害者にもする社会というものの歪みを、無念に思わずにはいられない」


何が効果を上げたのか、その要因を寮美千子氏はいくつかあげている。

その一つがグループワークという場の力
「自分が発表しているときは、残り全員が、自分に耳を傾けてくれる。朗読を終えたときも、みんなが拍手をくれる。十数名からの拍手を得られるということの大きさ、誇らしさ。もしかしたらそれは、彼らにとって、生まれて初めての体験かもしれない」

「ぞうさん」を歌いながら踊ろうと言うと、一人が「いやだ」と断った。

「どうして? この歌、知ってるでしょう。一度でいいから、歌ってみよう」
「知らないっ」
「え。幼稚園とか小学校で歌わなかった?」
「幼稚園も、小学校も行ってない」

寮美千子氏は言葉を失う。
「生まれてからずうっと日本に住んできたのに「ぞうさん」の歌ひとつ歌わないまま、育ってしまう子がいるのだ。どんなにかきびしい環境だっただろう。想像もつかない」

『空が青いから白をえらんだのです』を読むと、彼らが今まで置かれてきた環境の悲惨さ、そしてどんな罪を犯した人間であっても更生する可能性があることを教えられる。
だからこそ、死刑によって命を断つことに疑問に感じざるを得ない。

「心の扉が開いてこそ、人は罪と向き合うことができる。詩は、彼らの心の扉を開いた。罪を悔い、償いの心を忘れず、社会が温かく迎え入れてくれれば、彼らはしっかりと社会復帰への道を歩むことができるはずだ」
「死刑廃止への道」での寮美千子氏の話を聞いてみたいものです。

コメント (32)
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