『無縁社会』に紹介されている無縁死した人たちは、すべて同じ境遇、同じ死に方というわけではない。
独り暮らしであっても、兄弟や知人、近所の人と交流のある人がいれば、人づきあいをしない人もいる。
人づきあいをするかどうかも、その人の性格とか考えであって、第三者がどうこう言うべきことではない。
そもそも、独り暮らしの気楽さと孤独死は裏表である。
『無縁社会』に、35歳独身男性が「あまり人と会わない生活っていうのも、正直言って、居心地のよさっていうのもあって、なかなか動けないという状態ですね」と話している。
ここでも『無縁社会』は「私たちは「無縁社会」の解決は容易ならざる厄介なものだと改めて感じさせられた」と、わけのわからない感想を述べている。
曽我量深の「一人で居ると寂しくて、大勢居ると喧しい」という言葉を持ち出すまでもなく、気楽さと寂しさはセットなのである。
家族がいると煩わしいし、一人だと不安。
これは古今東西、普遍的な悩みである。
つまりは人間は自分勝手な生き物だということです。
誰にも看取られずに死ぬのがイヤだったら、早めに施設に入ればいい。
そうすれば、少なくとも遺体の発見が遅れるということはない。
だけども、60代で施設に入った男性を『無縁社会』で取り上げているが、いい選択だと賞賛しているようには読めない。
NHK取材班は何が問題だと言いたいのか、どうなったら解決だと考えているのかよくわからない。
「孤独死をさせないためにはある程度の「監視」の目が必要で、高齢者の自由度やプライバシーは低くなる。一人で自立して生きてきた人のなかには、一人で亡くなるというリスクを覚悟している人は少なくないのではないかと思う」と小谷みどり『変わるお葬式、消えるお墓』にあるが、『無縁社会』よりよほど説得力がある。
それと単身化(独り暮らし)ということ。
『無縁社会』によると、50歳の時点で一度も結婚したことがない人の割合を生涯未婚率と言い、2005年は男性が16%だが、2030年には約30%になる見込み。
結婚しない人が増えている要因
①コンビニの普及など、一人で生活するのに不自由しなくなった。
②経済的に不安定な非正規労働が広がった。
③ライフスタイルが変化し、結婚しなければいけないという社会的規範が弱くなった。
④女性の経済力が向上し、結婚しなくても生活できる人が増えた。
なかでも②の要因が深刻だという。
結婚すると住宅費や子どもの教育費などの新たな出費が生まれる。
「賃銀も立場も定かではない非正規労働に従事している場合、将来、そうした費用をまかなえないのではないかという不安を抱えることになり、結婚したくてもできなくなってしまう」
結婚したくてもできないということのほうが、無縁死よりも大問題だと思う。
『無縁社会』で、56歳の独身男性がこう言っている。
「人とのつながりがなくなるのは、生きてる孤独死みたいなもんですよね。誰にも関心を持たれない、自分も何の役割も果たしていない。生きてても死んでても一緒でしょ。存在がなくなったのと変わらないじゃないですか。だから、人とのつながりは、自分の存在の確認だと思います」
死に方ではなく、どのように生きるかだと思う。
どのように死ぬかは自分では選べないのだから、『無縁社会』のように脅さないほうがいい。