三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

被害者意識について

2011年05月11日 | 日記

宮部みゆきは100%の悪を描くのがうまい。
『名もなき毒』では、会社をクビにされた女(原田いずみ)が執拗な嫌がらせをする。
この女の嘘はまわりの人を侵していく毒である。
兄の結婚式でのスピーチで、兄から性的虐待を受けていた、両親は知っていたのに黙っていた、中絶もした、なんてことをしゃべる。
その嘘によって兄嫁は自殺した。
原田いずみみたいな人がいるとは思えないが、宮部みゆきは、こういう人はいるなというエピソードを積み重ねていく。

なぜ原田いずみは嘘をつき、迷惑をかけ、困らせるか。
それは、いつも自分ばかりがイヤな目に遭う、誰もわかってくれない、という被害者意識の塊だからである。
被害者だということが免罪符になるから、人を傷つけても、それは相手が悪いからだと、自分のしたことをすべて正当化できる。
人を責める資格を持っていると考えているわけである。

こうした、被害者意識で人を攻撃することはよくあり、たとえば児童虐待もそうである。
虐待する親は、子どもがわざと食べ物をこぼして困らせようとしている、自分が被害者だと思ってるそうだ。
家庭内暴力をする子どもにしても、「お前のせいでこうなったんだ」と親を懲らしめるために暴力を振るう。
親としては、子どもがこんなになったのは自分の育て方が悪かったのではという自責の念があるから、子どもに責められても何も言えない。
それを知ってか、子どもは親の罪責感という弱みにつけ込む。

それとか、東京の知人に「なぜ石原都知事は人気があるのか」と聞いたら、「自分たちの気持ちを代弁してくれるからだ」と言うわけです。
その気持ちとは不安や恐れである。
たとえば、震災が起きると多くの中国人が帰国した、こんなに中国人がいるのかと不安になり、自分にも中国人を恐れる気持ちがあることに気づいた、と知人は言っていた。
石原都知事はいくら差別発言をしてもなぜか失脚しないのは、不安や恐れを煽るのがうまいだけではないと思う。
もちろん、こうした不安や恐れはファシズムにつながる感情だということは、知人も承知している。
ナチスは、ユダヤ人のせいでドイツはこんなに苦しんでいると、ユダヤ人を攻撃した。
多くのドイツ人はユダヤ人嫌いという自分たちの気持ちをナチスは代弁し、正当化してくれたと、好意を持ったのだと思う。
不安や恐れが被害者意識を生み、そうして攻撃性を持つ。

「茉莉花」Vol82にこんなことが書いてあった。
「こないだテレビで、どっか外国の大学でやった面白い実験をレポートしてた。
学生Aに学生Bを殴らせる。平手打ち。
で、Bに「今殴られたのと同じ強さ」でAを殴り返される。
これを、電極とか線をいっぱい体につけてデータを取る。たくさんのサンプル集めて検証する。
結果、殴られた人が受けた痛さを100とすると、殴り返す力は、なんと、140ぐらいになるんだって。
つまり、やられた人は4割増しの強さでやり返すってこと。
これって、人は4割増しの仕返ししないと納得しないっていうか、スッキリしないってことでしょ?
だったら、4割増しで仕返しされた人は、「そこまでやってない」って感じで、逆にやり返したくなるんじゃないの?
よく犯罪の被害に遭った人が「犯人にも同じ目にあわせてやりたい」って言ったりするけど、「同じ目」じゃ足りないのよね。4割増しじゃなきゃ満足しないのよ」

ほんと、被害者意識は下手すると他者への攻撃(それも倍返し)の原動力となる。
アメリカは9.11の被害者だからと、ビンラディン殺害を正当化するが、殺されれることでビンラディンも被害者になったわけです。

コメント (4)
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