三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

<特捜検事逮捕>故意か過失か 謎多い「FD改ざん」

2010年09月26日 | 厳罰化
<特捜検事逮捕>故意か過失か 謎多い「FD改ざん」
 データ書き換えは故意か、過失か。厚生労働省の村木厚子元局長(54)の無罪が確定した郵便不正事件に絡む証拠品のフロッピーディスク(FD)のデータ改ざんを巡っては、いまなお不可解な点が多い。証拠隠滅の疑いで最高検に逮捕された大阪地検特捜部の主任検事、前田恒彦容疑者(43)は、取り調べに「誤って書き換えてしまった」と供述、意図的な改ざんを否定し続けているという。最高検の捜査で、謎を解くカギは見つかるのか。
 ◇FDをなぜ返却?
 前田検事がFDのデータを書き換えたのは昨年7月13日。同16日にはこのFDを、厚労省元係長、上村勉被告(41)側に返却している。FDは本来なら公判に提出すべき資料。裁判所に証拠提出をしない上、データを書き換えたものを被告側に返却すれば、改ざんが発覚することは予想がつきそうだ。
毎日新聞9月23日

郵便不正事件で大阪地検特捜部検事がフロッピーディスクのデータを改竄したという事件、ほんとにうっかりミスだという気もするが、それはともかく、
<郵便不正事件>正義見失った敏腕 特捜検事逮捕
 前田検事は東京、大阪の両地検特捜部を歴任した生粋の「特捜検事」。検察庁内では「優秀で、説明がうまい」と評価が高い一方、「功名心が強く、無理な捜査をする」との批判もあった。
 大阪地検のある幹部は「取り調べでは、容疑者の気持ちになって本音を引き出すことがうまい、一級の『割り屋』だった」と話す。「『しゃべらないものはしゃべらない』としっかり言う検事だった」と評する声もある。別の地検幹部も「将来の大阪地検特捜部長。前田に任せておいたら大丈夫という安心感がある」と評価していた。ただ“暴走”を懸念する声もあり、「自信家で自分がこうと思ったら、こだわり過ぎる面がある」とも言われていた。
毎日新聞9月21日
という記事、これはないわなと思った。
容疑者が逮捕されると、同僚や近所の人からこういう悪口を言われている、まわりからもひどい奴だと思われている、とマスコミは必ず報道する。
村木厚子氏が逮捕された時も悪口を書いている。
都内の障害者団体の男性理事は「仕事熱心だが、手段を選ばないところがあった」と明かす。この団体は法案に一貫して反対していたが、同課が与党への説明用に作ったチラシでは「賛成団体」にされていたという。男性は「村木さんからは『名前を載せる』としか説明されなかった。偽造とは言えないが、だまし討ちだ」と憤り、「普段は柔和だが怖い一面もあった」と話す。
 村木容疑者の夫は同じ厚労省のキャリア官僚で、省内では「出世頭の夫を“利用”して自分も出世した世渡り上手」との評もある。(
2009年6月16日

容疑者は逮捕されているのだから反論のしようもない。
まだ有罪だと決まったわけでもないし、事件のこともよくわかっていないのに、人格を非難するコメントを載せていいものか。
推定無罪の原則はどうなってるんだと、毎度のことながら思う。

某氏より「ファイル冤罪」No.09という雑誌をいただいた。
布川事件、狭山事件、足利事件の特集。
警察や検察だけでなく、裁判官も冤罪を作り出している現況にはあきれた。
まず、検察は証拠の開示をしない。
「「証拠開示」とは検察側の手元にありながら検察が法廷に提出せずに仕舞い込んでいる証拠を、弁護側が見せろ=開示せよ、と迫ること」
検察が収集した証拠の中には無実を明らかにする証拠もあるかもしれないが、それらの証拠が法廷に出されることなく、検察の倉庫に眠っている。
しかも、検察がどういう証拠を握っているか容易にわからない。
「推理と勘で弁護団は開示請求に踏み切る」が、検察はあらゆる手を使って隠蔽する。
裁判官も検察に開示を命令することもほとんどないそうだ。
弁護側が証拠を開示しろと要求したら、検察は「不見当」という返事をする。
「不見当」は見当たらないという意味で、「ない」と言ったら嘘になるので、「見当たらない」と逃げるそうだ。

たとえば布川事件
2003年9月、検察から死体検案書が証拠開示された。
変死体があったときは検視をしなければならないと、刑事訴訟法に定めてある。
ところが、布川事件の裁判では検察側から検視調書が提出されていなかった。
再審で開示された死体検案書には「絞殺(推定)」と記されていた。
ところが、犯人とされた桜井昌司さんの自白調書には「両手で上からのどを押さえつけました」とある。
首を絞めて殺した場合、法医学者は「扼殺」と書く。
絞殺とはひもで首を絞めて殺害することである。
死体検案書には「頸部に絞痕あり」、つまり首にひもの痕があると書かれていた。
自白と事実が合致していない、すなわち自白調書はデタラメだということを死体検案書は証明していたからこそ、検察は死体検案書を隠していたのである。

あるいは、事件直後の現場検証の報告書に「被害者の近くから8本の毛髪を採取した」という記録がある。
毛髪が誰のものなのかを当然、鑑定しているはずである。
鑑定書を出せと弁護団は請求し、検察はしぶしぶ鑑定書を開示したのだが、毛髪が被害者のものかどうかという鑑定書は出されていない。
さらに請求してやっと二通目の鑑定書が開示された。
それによると、8本ともに犯人とされた二人の毛髪と一致しない、3本は被害者のものだが、5本は別人のものである。
桜井昌司さんが検察官に「どこにあったんだ」と聞いたら、「ダンボール箱を開けたら出てきた」と答えたそうだ。
前に調べたときは不見当、見当たらなかったというわけである。

もっと驚くのが、ある女性の目撃証言がいまだに開示されていないこと。
この女性は事件が起きた時間に被害者の家に行ったのだが、客が二人いるのに気づき、一人は「あれ、△△さんだなというのが分かった」と証言している。
事件発生から間もなくこの目撃談を警察で話しているにもかかわらず、この女性の証言は開示されていないというのだから、唖然とする。
現場にあった毛髪が△△さんの毛髪かどうかを鑑定していないのだろうか。

そして裁判官。
桜井昌司さんがインタビューでこう語っている。
「一審の裁判長が法廷で俺に言ったんですよ。『どうしてそんな大事な日のことを忘れるんですか』って。(事件当日の桜井さんの記憶があいまいだと叱った)で、俺は言ったんですよ。『どうして大事な日なんですか。俺にとったら普通の日ですよ』と。そうでしょ。犯人にとったら忘れられない日でも、俺には普通の日ですよ」
裁判官は桜井昌司さんを犯人だと決めつけていたから、事件のあった日のことを憶えているはずだと叱ったわけだが、犯人でない人間だったら普通は憶えていない。
このやりとり、ミステリーのネタに使えるんじゃないかと思った。

足利事件のDNA鑑定をめぐるドタバタにはため息が出る。
菅家利和さんは1991年8月に科警研が行なったDNA鑑定で犯人とされた。
ところが1992年12月に、科警研の鑑定方法では正確なDNA型を判定できないという論文を、信州大学の2名の研究者が発表している。
面白いのは、再審で再鑑定した弁護側の鑑定人(筑波大学教授)、そして検察が証人として申請した科警研所長が、この科警研の鑑定方法を批判した信州大学の研究者だったのである。
弁護側の鑑定人はともかく、科警研所長としては、自分がかつて批判した科警研の鑑定方法を法廷で擁護しないといけないわけで、さぞかし困惑しただろうと同情する。

前田恒彦容疑者が不起訴、もしくは無罪になったら、「功名心が強く、無理な捜査をする」と話した人は、布川事件や足利事件の裁判官、検察官と一緒にごめんなさいを言ってほしいと思う。
コメント (11)
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