三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

南京事件 1

2009年10月24日 | 戦争

笠原十九司『南京事件論争史』を読んだので、ついでと言ってはなんだが秦郁彦『南京事件 増補版』(2007年刊)も読む。
南京事件について私が今まで読んだ本は
阿羅健一『聞き書 南京事件』(『「南京事件」日本人48人の証言』)と秦郁彦『南京事件』(1986年刊)ぐらいなもので、本音を言うと南京大虐殺懐疑派だった。
というのも、『聞き書 南京事件』は将校や新聞記者たち35人にインタビューし、30数人と手紙のやりとりをしたものだが、ほとんどの人が虐殺を否定しているのである。
その一人がなんと
『生きている兵隊』を書いた石川達三。

「昭和五十九年十月、インタビューを申込んだが、会うことは出来なかった。理由は後でわかったが、それから三ヵ月後の昭和六十年一月に石川氏は肺炎のために亡くなった」
そのおり、阿羅健一氏は次のような返事をもらっている。
「私が南京に入ったのは入城式から二週間後です。
大殺戮の痕跡は一片も見ておりません。
何万の死体の処理はとても二、三週間では終わらないと思います。あの話は私は今も信じてはおりません」

これを読んで、ええっ、虐殺はなかったのか、と思いましたね。

秦郁彦氏はというと、『南京事件』で対象と被害を
Ⅰ 対軍人
a、敗残兵の殺害
b、投降兵の殺害
c、捕虜の処刑
d、便衣兵の処刑
Ⅱ 対住民
a、略奪
b、放火
c、強姦および強姦殺害
d、殺害
e、戦闘に起因する死者
と分類し、そして「第二次世界大戦で、もっともお行儀が悪かったと定評のあるソ連兵も、帰還邦人の回想によると対住民についてはaとcどまりであり、cもほとんど単純な強姦で、殺害にまで至った例は少ないようである。それに対し、日本軍の蛮行はⅠとⅡのa~dをすべて網羅しており、中国からどう責められても仕方のないところだろう」とか、「昭和の日本軍は一段と悪質だった。建前では、強姦が発覚すると処罰されることになっていたので、証拠滅失のため、ついでに殺害、放火してしまう例が多かったからである」とまで断じているのである。
そんなことをはっきりと書いている秦郁彦氏にしても、犠牲者数は4万人としている。
『南京事件 増補版』も、犠牲者数は初版と同じ4万人(軍人捕虜の不法殺害3万人、民間人の不法殺害1万人)とある。
「四万の概数は最高限であること、実数はそれをかなり下まわるであろう」
3万人が殺されたとしても立派な大虐殺なのだが、20~30万人という数字と比べたら、なんだ、それくらいなのか、と思ってしまう。

で、『南京事件 増補版』には「南京事件論争史」が追加されている。
阿羅健一『聞き書 南京事件』について秦郁彦氏は
「阿羅健一『聞き書 南京事件』は、現場にいた陸軍の将校など六六人からのヒアリングを収録したもので、ほぼ全員がシロの証言者だった。
秦は証言者の顔触れを目次で見た瞬間に、「結論はシロだな」と直感した」
と、きついことを書いている。
つまり、虐殺を否定するだろう人を選んでインタビューしているわけだ。
笠原十九司『南京事件論争史』は、証言者の著書では虐殺があったとしているのに、『聞き書 南京事件』では「見なかった」「無かった」としていたり、「虐殺はあった。それを否定してはならない」と言っている人の聞き書きを単行本にする際に削除していると指摘している。

石川達三のことだが、石川達三は南京占領後の1938年1月5日から8日間、南京の警備で駐屯していた将兵たちから聞き取りをおこなって『生きてゐる兵隊』を書いた。
「中央公論」三月号に掲載されたが、内務省から発売禁止され、「新聞紙法」違反で起訴、禁錮四ヵ月、執行猶予三年の判決を受けた。
あるサイトに「読売新聞」昭和21年5月9日に載った石川達三のインタビューが転載されている。
「武装解除した捕虜を練兵場へあつめて機銃の一斉射撃で葬つた、しまひには弾丸を使ふのはもつたいないとあつて、揚子江へ長い桟橋を作り、河中へ行くほど低くなるやうにしておいて、この上へ中国人を行列させ、先頭から順々に日本刀で首を切つて河中へつきおとしたり逃げ口をふさがれた黒山のやうな捕虜が戸板や机へつかまつて川を流れて行くのを下流で待ちかまへた駆逐艦が機銃のいつせい掃射で片ツぱしから殺害し」
「戦争中の興奮から兵隊が無軌道の行動に逸脱するのはありがちのことではあるが、南京の場合はいくら何でも無茶だと思つた」
「何れにせよ南京の大量殺害といふのは実にむごたらしいものだつた」

石川達三が死んだ今となっては本当のところはわからないが、阿羅健一氏が受け取ったという石川達三の手紙、どうもあやしい。
で、単純な私は笠原十九司『南京事件論争史』を読んで史実派にあっさり鞍替えしたのでありました。

コメント
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