三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

オリバー・ストーン『ブッシュ』2

2009年10月18日 | キリスト教

それにしても、アルコール依存症で、40歳ぐらいまでちゃんとした仕事をしていなかった人物がどうしてテキサス州知事となり、そしてアメリカ大統領になり、おまけに二期も務めることができたのか。
『ブッシュ』のエンドクレジットの一番最後、十字架がW(原題)になる。
のだろう。

ブッシュ前大統領は1985年にビリー・グラハム牧師と出会ってアルコール依存症を克服したそうだ。
アール・ハッド師という牧師が『ブッシュ』に出てくるが、おそらくビリー・グラハム師がモデルだろう。

で、ビリー・グラハム師についてレイチェル・ストーム『ニューエイジの歴史と現在』にはこんなことが書いてある。
「道徳に関するビリー・グラハム理論では、犠牲者は犯した罪に対する責任を負ってその犠牲を担っているのだ、と考える。だから、黒人は、人種差別の罪を負っているし、北ベトナム人たち自身が、自分たちの国に破壊をもたらしたのだ。こうしたことはすべて、罪を犯した者が地獄を作り出す、という原理に基づいている」
どんな目に遭おうとも、それは因果応報だというわけである。
こういう発言をするビリー・グラハム師ではあるが、上坂昇『神の国アメリカの論理』によると宗教右派の中では穏健派だというのだから、頭が痛くなる。

上坂昇氏によると、宗教右派という言葉は、アメリカでも決まった定義がなく、保守的なクリスチャンやキリスト教右翼(右派)などを指すあいまいな表現だという。
ボーンアゲイン、福音派(エバンジェリカル)、その過激派ともいえるファンダメンタリスト(原理主義者、根本主義者)、場合によってはユダヤ教右派までもが含まれていることがあるそうだ。

宗教右派は、クリスチャン・シオニズムにおけるイスラエル支援、中絶の禁止、反同性愛の運動を共和党に働きかけることで実現しようとしている。

宗教右派の代表的な指導者がジェリー・ファルウェル師だった。
「ファルウェル師のファンダメンタリスト的な姿勢は、建国当時のアメリカの価値観をよみがえらせ、リベラル派が支配した1960年代から始まった伝統的価値観の崩壊を食い止め、公立学校での祈りを復活させ、妊娠中絶と同性愛を禁止することだった。ソ連の軍事力に対抗するために、アメリカの軍事力増強や核使用も辞さないという頑迷な反共主義者でもあった」

『ブッシュ』でも、父ブッシュの大統領選の際、子ブッシュが宗教右派の力を借りるよう父を説得するシーンがある。
どうして宗教右派が共和党を支配する勢力になり、大統領候補の指名や党綱領の採択などの重要な活動に多大な影響力を発揮できたのか、上坂昇氏はこう指摘する。
「その秘密は大統領選挙制度にある。たとえば、1998年大統領選挙の予備選挙の平均投票率はわずか19%であり、党員集会への出席率にいたっては3%にすぎない。つまり、アメリカの有権者は一般的に、本選挙では投票するが、それまでの党の活動には無関心である人が多い。熱心な活動家をもつ草の根の組織であれば、党の地方の代議員に選ばれ党大会に参加することは、それほど難しいことではない」

困ったことに宗教右派はハルマゲドンが起きると信じている人が多い。
「イエスと反キリストが対決するハルマゲドンが起こるかどうかに関する『ニューズウィーク』誌の世論調査では、起こると答えた人は、アメリカ人の成人全体では40%である。しかし、クリスチャンは45%、そのうちエバンジェリカルは71%である」
ブッシュ前大統領がイラクに侵攻したことを非難するより、核兵器を使わなかったことを喜ぶべきかもしれない。

ブッシュ前大統領は人から好かれるタイプなんだそうで、つき合ってみると面白い奴だろうなと、『ブッシュ』を見て思った。
それに、記者会見で「大統領としてどんな間違いを起こしたか」という質問に真面目に答えようとして答えにつまってしまうシーンが『ブッシュ』で描かれ、誠実な人柄だと感じさせる。
しかし、父ブッシュが「人間には器というものがある」と言ったと子ブッシュがつぶやくように、残念ながら大統領の器ではなかった。
『ブッシュ』を見て、麻生前首相がブッシュ前大統領とだぶってきた。

コメント
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