三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

オリバー・ストーン『ブッシュ』1

2009年10月15日 | 映画

できの悪い息子が尊敬する父親にほめられ、認められ、愛されたいとがんばるのだが、酒好きで女好きだし、父親のコネで仕事についても長続きしないので、両親からは優秀な弟といつも比較され、ついには父親から「失望したよ」とまで言われてしまう。
オリバー・ストーン『ブッシュ』を見てたら、なんだかブッシュ前大統領がかわいそうになってきた。

町山智浩『アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない』を読んで『ブッシュ』を見ると、なるほどね、こういうことかと思うことがいくつかある。

まず、イラク侵攻について閣僚の中でパウエル国務長官だけが反対するということ。
なぜか。
富裕階級の軍隊経験者が激減しているそうだ。
1956年、プリストン大の卒業生750人中400人が軍に志願している。
ところが、プリストン大2004年の卒業生1100人中、軍隊に入った者は10人。
アイビーリーグの大学全体でも同じ割合である。
アメリカの上下院議員のうち軍隊経験者は5%、自分の子どもを軍隊に入れている議員は7人しかいない。
ブッシュ政権の閣僚の多くは兵役を逃げたり、軍隊の楽な部署にいた。
世界各国に派遣されている米兵の多くは、大学に進む学費を稼ぐために志願した貧しい家庭の出身なのである。
「デューク大学の調査によれば、大統領の閣僚や議員に軍隊経験者が少ない時ほどアメリカは戦争を起こしやすくなるという。自分や身内が兵士でないと、戦争の痛みはわからない」

その一方で、アメリカ兵の質が落ちているという。
捕虜の虐待や一般人の殺傷などの不祥事が起こるのはストレスのためばかりではなく、刑罰の軽減を求めて入隊する者が増えているということもある。
その背後には深刻な新兵不足がある。
「軍では入隊時に適性検査で情緒や倫理観に問題のある者をふるい落とすが、05年に、適性検査のハードルが下げられ、最低評価の「4」でも採用できることになった。さらに新兵訓練もゆるくなった。05年まで、訓練の過程で新兵の18%以上が落とされたが、今では半分以下の7.6%になっている」
「世界に20万人のアメリカ兵が派遣されているが、05年だけで、「人格障害」で除隊になった米兵は1038人にのぼる」

これは正規軍の話。
イラクやアフガニスタンなどには多くの傭兵がいるそうだ。
冷戦後、アメリカ軍は縮小されたので、正規軍の兵員不足を埋め合わせる民間企業が増えている。
2007年9月、バグダッドで兵士が渋滞の車列に銃を乱射し、イラク市民が14人負傷、11人が死亡した。
この虐殺を行ったのは米兵ではなく、ブラックウォーターという警備会社の警備員である。
ブラックウォーターはアメリカ政府から約700億円に上る契約をしている会社で、兵士2万人、戦闘ヘリなど航空機を20機以上擁している。
イラクにはこのような警備会社が世界中から50以上参加し、約5万人が働いているそうだ。

傭兵については『ブッシュ』に出てこないと思うが、これを読んで、『消されたヘッドライン』という映画を思いだした。
イラクやアフガニスタンで軍事業務を請け負う傭兵会社を公聴会で追及しようとしていた下院議員が女性スキャンダルに巻き込まれて、というお話だが、企業がアメリカの軍事を仕切るようになるというのは空想上の話ではないわけだ。

あるいは、『ブッシュ』の中で、ブッシュがチェイニー副大統領と国内では拷問が禁じられている云々という会話をする。
これは『アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない』に書かれている次のことを指しているに違いない。
CIAに拉致され、中東に密かに移送されて拷問を受ける人たちがいるという。
「この行為をCIAはエクストラオーディナリー・レンディション(特殊容疑者移送)と呼んでいる。米国内でテロ容疑者を拘束しても期限内に自白が得られなければ釈放するしかない。しかもアメリカの法律は拷問を禁じている。そこでCIAは容疑者をエジプトやヨルダン、モロッコ、シリアなどに送り始めた。警察による無期限拘禁や拷問が容認されている国で代わりに拷問してもらうのだ」
「EUの調査では欧州内でCIAに拉致されて行方不明になった人数は100を超えるという」

えっ、こんなことが本当に行われているのか、という話だが、こんな事件があった。
イタリア:CIA工作員に拉致事件で求刑…ミラノ地裁公判
イタリアで03年、米中央情報局(CIA)工作員とイタリア軍情報機関員計33人が、ミラノ在住のエジプト人聖職者、ハッサン・ナスル氏を拉致しカイロへ連行したとされる事件で、ミラノ地裁の裁判が先月30日、結審した。検察は米側工作員26人全員に誘拐罪で懲役10~13年を求刑。イタリア側には4人に懲役3~13年を求刑、残る3人の赦免を求めた。
ナスル氏はテロ容疑者として連行され、米当局者らによる尋問の際、拷問を受けたと訴えている。ミラノの検察当局は不当拘束とみなし、当時のローマ駐留CIA指揮官らを起訴。07年6月に審理が始まった。ミラノ地裁は被告の米国人に逮捕状を発行したが、米政府は起訴内容を全面否定し、裁判は被告欠席のまま行われてきた
。(毎日新聞10月1日
これじゃあ北朝鮮に強く言えないはずです。

コメント
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