三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

スーザン・A・クランシー『なぜ人はエイリアンに誘拐されたと思うのか』1

2009年01月10日 | 問題のある考え

いつだったか「私は宇宙人に誘拐された」というような題の本の広告を見て、いくらオカルト好きの私でもあほらしいと思ったものだ。
ところが信じられないことに、アメリカでは、自分は宇宙人に誘拐されて人体実験されたとかセックスを強要されたなどと信じている人が数千人はいるそうだ。
そんなことを言う人が詐欺師か頭のおかしい人なのだったら話は簡単だが、彼らは普通の人であり、「ほかの人とちがうのは、特定の奇妙なことを信じているという点だけだ」とスーザン・A・クランシーは言う。

心理学者であるクランシーは、偽りの記憶を作り出すメカニズムの研究のため、催眠療法によって子どものころに受けた性的虐待の記憶を思い出した人の調査をする。
ところが、性的虐待を否定するのかという批判を受けてしまう。
宇宙人に誘拐されたということなら絶対にあり得ないのだからと、次にアブダクションン(誘拐という意味だが、訳者はどうしてアブダクションとかアブダクティーというカタカナを使うのだろうか)の研究をする。

「ふつうの人がなぜエイリアンに誘拐されたと信じるようになるのかを気にかけなくてはいけない理由は、すくなくとも三つある」とクランシーは言う。
1、人間が風変わりな考えを持つようになるメカニズムの解明
2、奇妙なことを信じていると、その人にとってよくないかもしれない
なんでも信じるおめでたい人はペテン師に簡単に食い物にされてしまう危険がある。
3、なぜ人は奇妙な話を信じたがるのかを理解する

この三点は、迷信やインチキ宗教に関する問題と通じており、はなはだ興味深く読んだのだが、最後はスピリチュアルのススメになっていて、何というか困った本なのである。

宇宙人に誘拐されたなどというとんでもないことをどうして思いつくのかということだが、アメリカではアブダクションはそうトンデモな話というわけではないらしい。
アメリカ人は85%がほかの惑星にも生命体が存在するじゅうぶんな証拠があると信じていて、そのうち半数はエイリアンが人間を誘拐することもありえると思っている。
80%は政府が地球外生物の存在を隠していると信じている。
というのが、1947年、ニューメキシコ州のロズウェルの近くで農場経営者が地面に落ちている残骸を見つけた。
米軍は気象観測気球だったと発表したのだが、1978年、残骸は壊れた宇宙船の一部だったという元少佐の証言がタブロイド紙に載り、そして1980年には、その場所で発見されたエイリアンの死体をオハイオの空軍基地で保存しているという内容の本がベストセラーになった。
というわけで、アメリカ人の65%が宇宙船は本当にニューメキシコに墜落し、政府が隠蔽したと思っている。
ロズウェルには年間およそ9万人の観光客が訪れているそうだ。
そして、ハーバード大学教授のジョン・マックは94年に『アブダクション』を出版し、ベストセラーになった。
ジョン・マックは当事者に催眠療法を使い、エイリアンに誘拐されたと言っている人たちは真実を語っていると明言している。

クランシーはこう言っている。
「現在のアメリカでは、エイリアンがどんな姿をしていて、誘拐した人間にどんなことをすると言われているかについて、知らない人はほとんどいない」
「アブダクションは私たちの社会でよく耳にする話であることを考えると、なぜもっと多くの人がエイリアンに誘拐されたと思わないのか不思議でさえある。現代では、こういうことを信じていると公言しても〝頭がおかしい〟とはみなされない」

まずはアメリカがそういう状況なわけである。

「十年後には、エイリアンを信じたり、エイリアンがわたしたちのそばにいると考えたりすることは、おそらく神を信じるのとおなじくらいふつうのことになるだろう」
とクランシーは言っているが、これが冗談とは思えないところが怖い。

コメント
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