三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

もう一人のエリザベス・テイラー

2008年05月08日 | 

フランソワ・オゾン『エンジェル』を見てたら、原作者がエリザベス・テイラーとあったのには驚いた。
女優のエリザベス・テイラーが原作を書いたのかと一瞬考えたが、ああ、あれかと思いだした。

というのも、ずっと以前読んだ小林信彦『小説世界のロビンソン』に、
「1983年12月1日づけの朝日新聞夕刊によれば、「1945年以降に、英語で書かれた小説のなかで、ベスト12を選ぶとすれば、なにか」という問いを英国の書籍市場委員会が発し、三人の選者がこの問いに答えたのだそうである」
とあり、なんと選ばれた13冊の中にエリザベス・テイラー『天使』が入っているのだ。
ほかには、ジョージ・オーウェル『動物農場』、ウィリアム・ゴールディング『蠅の王』、ソール・ベロー『ハーツォグ』、グレアム・グリーン『名誉領事』、ウラジミール・ナボコフ『ロリータ』、J・D・サリンジャー『ライ麦畑でつかまえた』などが選ばれており、大したものなのだ。

とはいえ、小林信彦氏も「それにしても、エリザベス・テイラーなんて作家がいたのか」と書いているぐらいで、エリザベス・テイラーという名前の小説家がいるなんて信じられず、私は冗談かと思っていたから、小説家エリザベス・テイラーの名前を再び見ることになるとは思いもしなかった。

で、エリザベス・テイラー『エンジェル』を読んでみました。
ベスト13に入るような傑作かどうかはともかく、これが面白い。
エンジェルは16歳から小説を書いているベストセラー作家。
ただし、美辞麗句がとびかう荒唐無稽な小説という設定である。
エンジェルの書く小説はまるっきりの愚作なのだが、なぜかどれもみなベストセラーになる。
おそらく乙女(にかぎらないが)の夢を描いているからだ。
著者は、それをちょっと離れたところからシニカルに見つめている。

エンジェルは、ユーモアを全然理解しない、無礼で不愉快、とことん恨みつづけるたち、とてつもない虚栄心、絶対に妥協しない気むずかしさ、辛辣、見栄っ張り、融通のきかない頑固な女etcと、著者が言葉の限りを尽くして、知り合いにこんな人がいたら逃げ出したくなるような気にさせる人間である。
文学史上最低最悪の主人公だけども、何となく憎めない、笑ってしまう。
荒れ果てた邸に住む年老いたエンジェルの姿は、ディケンズ『大いなる遺産』のミス・ハヴィシャムを連想させ、哀れみを感じ、いとおしく思えてくる。
著者がエンジェルに悪意を持っていないし、さりげないユーモアをまじえた文章を読んでいると、読者もこういう人はいるなと思い、ひょっとして自分もそうかもと思ったりもする。
映画よりも原作のほうがおすすめ。

コメント
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