三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

イマキュレー・イリバギザ『生かされて。』

2007年05月29日 | 

1994年のルワンダ大虐殺を生き延びたイマキュレー・イリバギザという女性の手記が『生かされて。』である。

牧師にかくまわれ、7人の女性とトイレに三ヵ月間隠れて、何とか助かったのだが、両親と兄弟は殺された。
母と兄を殺し、自分も殺そうとした首謀者とイマキュレーは刑務所で会う。
彼をどうしてもよかったが、イマキュレーは「あなたを許します」と言う。
同席した地方長官は「何で許したりするんだ」と激怒するが、「許ししか私には彼に与えるものはないのです」と答える。

神様が私の魂を救い、命を助けてくれたのには、きっと意味があるのでしょう。
私が私の話を他の人に話すように、そして、愛と許しがもたらす癒しの力のことを可能な限りたくさんの人に話すようにと。


憎しみの連鎖を否定し、「許し」を強く訴えているこの本をぜひともお薦めしたいところだが、どうも素直に感動できなかった。

というのも、推薦の言葉を書いたウエイン・ダイアー博士は心理学者ということだが、「イマキュレーは、意識のとても高いレベルに生きていて、彼女に出会ったすべての人のエネルギーレベルを高めています」と、頭の痛くなることを書いている。
訳者のあとがきを読むと、訳者はスピリチュアル系の人らしい。
出版はPHP研究所で、本の最後にはブライアン・L・ワイスの『未来世療法』の広告がある。
ということで、ついつい偏見の目を持って読んでしまった。

イマキュレーは熱心なカトリックで、この本にも神について何度も書いている。
神を疑う気持ち、フツ族を怨む気持ちはイマキュレーにもある。

彼らは、自分たちがどんなに恐ろしい苦痛を与えているかわかっていないのです。何も考えずに人々を苦しめ、兄弟、姉妹を迫害しているのです。彼らは、神を傷つけているのです。そして、自らをどんなに傷つけているかわかっていないのです。(略)
神様の目には、殺人者たちでさえ、彼の家族、愛と許しを受ける対象なのです。
私は、神の子どもたちを愛する気がないのならば、神の私への愛も期待することはできないとわかったのです。
その時です。私は、殺人者たちのためにはじめて祈りました。彼らの罪をお許し下さいと

いつ殺されるかわからない極限状況の中で、ひたすら神を信じていないと精神を保てないということは理解できるが、その考えには共感できない。

ひっかかったことは他にもある。

私は、神様は何か大きな目的があって私を生かしているのだと感じ、それがどういうことなのかわからせて下さいと毎日祈っていました。(略)
私は、これから神様がどんな人生を私のために用意しているにしても、人が誰かを許すことを助けることこそが、私の人生の仕事の大きな意味なのだと気づきました。


自分が生き延びたことをこういうふうに意味づけするのもわかる。
しかし、100万人もの人たちが殺されたのは、どういう目的が神様にあったのか。

私は、神様が、私を血に飢えた殺人者の大鉈の下で長いあいだもだえ苦しみながら死なせるようなことは決してないし、また、何かとるに足りない小さな病気で死なせるはずもないことを知っていました。

では、神様はイマキュレーを選び、他の100万人を選ばなかったのか。

イマキュレーは願いはかなうというポジティブ・シンキングの信奉者である。
結婚したいと思い、こういう男性をお願いしますと神に頼んだら、ピッタリの男性が現れて結婚。
そして、国連で仕事をしたいと願ったら、その願いも叶ったという。

イマキュレーの父親はフツ族の攻撃から避難してきたツチ族にこう言う。

私たちには何も武器がありません。もし政府が私たちを殺そうとするならば、私たちに出来ることは祈ることだけです。
残された時間、懺悔をし、私たちの罪の許しを乞いましょう。もし死ななければならないのなら、綺麗な心のままで死ぬのです。

何千という群衆は、彼の言葉に従って祈り始めた。
さらに、父親はこう言った。

神のご加護を願いましょう。同時に自分たちで守らなければなりません。槍を探しなさい。武装しなさい。しかし、誰も殺してはいけない。我々は彼らとは違う。殺しはしない。しかし、ここにただ坐ってむざむざ殺されるのを待っているということもしない。
勇気を出して、強くなりましょう。そして、祈りましょう。

そして、みんな殺されてしまうのである。
なぜ神様の加護がなかったのだろうか。

イマキュレーが日本に来た時に安倍昭恵首相夫人と会談した。
安倍昭恵は「いじめに悩み自ら命を絶つ日本の若者に重要なメッセージを与えてくれる」とイマキュレーを讃えたそうだ。
イマキュレーは「許し」を訴えているのだから、安倍昭恵の言うメッセージとは「いじめた人を許しなさい」ということなのだろうか。
(追記)
安倍昭恵もスピリチュアルがお好きなようです。
https://blog.goo.ne.jp/a1214/e/2bcfb4a8974a6ff6b54601ca607841ad
https://blog.goo.ne.jp/a1214/e/d18b1c1184e8e324a6274a807d87dde6

コメント (21)
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