フォ・ジェンチイ『故郷の香り』という映画は、10年ぶりに村に帰ってきた男が、昔つきあっていた女と再会する話である。
中国版『私が棄てた女』だが、男にとっては棄てたというより、次第に疎遠になったという気持ちでいる。
だが、それなり穏やかに暮らしていた女と唖の夫との生活に、男が現れたことで波風を立つ。
それなのに最後は、男の「いろいろあったが、今は幸せにやっているようだからよかった」という独白で終わり。
あまりにも勝手な言いぐさに、あれはないだろうと思った。
原作は莫言の『白い犬とブランコ』という短編。
莫言の小説ならあんな終わり方ではないはず、原作を読みたいと思いつつ、一年が経ってしまった。
で、『白い犬とブランコ』をようやく読んだ。
映画ではブランコの綱が切れて、女はビッコになるが、原作では目に枝が突き刺さって失明するところがまず違う。
男が女の家に遊びに行くと、夫は唖で(原作では夫とは初対面)、三つ子の男の子がいる(映画では女の子が一人)。
帰り道、女はつらい思いを味わってはおるまい、あれこれ心配していたのも杞憂だった、と男はのんきに考える。
ところが、女はコーリャン畑の中で待っていて、三つ子が生まれて、倒れそうになるくらいだった、一人ぐらいは口がきけて話し相手になってくれるよう祈ったが、三人とも唖だった、話ができる子がほしい、今はちょうどできる時だ、と女がくどくどせまる。
男は言葉が出ず、最後の行は「………」で終わる。
何とも言えない後味が残る。