三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

尊厳死

2006年04月11日 | 日記

富山県の病院で、医師がガンなどで意識不明の末期患者7人の人工呼吸器をはずしたという事件があった。
これに関連して先日の毎日新聞に3人の方が尊厳死について考えを書かれている。

井形昭弘氏(日本尊厳死協会理事長)

延命措置が患者にかえって苦しみを強制し、尊厳なる生を冒す場面が多くみられるようになっている。(略)当協会の立場からみて、外科部長は恐らく末期患者の苦しみを見るに堪えず、慈悲心をもって取り外しを行ったものと察せられる。(略)苦しみを救うのが医師の使命ならば延命措置で患者に延々と苦しみを強制することは許されまい。(略)
尊厳死の容認は尊厳なる生を目指しており、命が軽視されるとの理解は全くの誤解である。



山崎章郎氏(日本ホスピス緩和ケア協会会長)

患者さんたちが、もはや人間としての尊厳が失われたと感じ、これ以上生きる意味はないと考えるようになるのは、死までの時間の長短よりも、病状進行の結果として、排泄、食事、入浴などの基本的な日常生活が、自力では出来なくなり、いやおうなしに他者に依存せざるを得なくなった時が多い。(略)人間の尊厳は身体にではなく心にある。
延命治療の是非や尊厳死を論じても、それは死ぬ間際の、目に見える形だけを論じているにすぎない。



川口有美子氏(筋萎縮性側索硬化症の母の看病をする)

患者が先に諦めてしまう。これ以上、家族に苦労させられないと。(略)家族はまず医師に助言を求めるから、結局は医師の人生観に左右されることになる。(略)医療も介護もろくに受けられない人たちがいるのに、どうして死なせるためのルールを先に考えるのだろうか。


私は尊厳死の考えにうさんくさいものを感じており、井形昭弘氏の意見にもひっかかるものがある。

○苦痛について
昨年、私の伯父(88歳)が肺炎で入院、一ヵ月後になくなった。
見舞いに行くと、非常に苦しそうにしている。
酸素マスクをはずすので、「そういうことしちゃいけんじゃないか」と言うと、「苦しいから早く死にたい」と伯父はしんどそうに言う。
食べれないので点滴をしていたのだが、そのチューブもはずそうとする。
痛み止めをしても、なにせ呼吸ができないので、しばらくするとまた苦しみ出す。
伯父の場合は意識はちゃんとあり、自分で呼吸をするし、話すこともできる。
しかし、誰が見ても助からないのはわかっているし、本人も死にたいと望んでいる。
こういう場合は尊厳死賛成の人はどうするのだろうか。
人工呼吸器を止めてしまえば、呼吸ができなくなり、窒息してしまうから、これは苦しいのではないだろうか。
だったら尊厳死よりも、薬物を注射する安楽死のほうが苦しみから救うことになるのではないか。
尊厳死というのは、人の苦しみを見たくないだけで、偽善っぽいように感じる。

○尊厳について
7年間寝たきりだった人だが、死ぬ前の日に「ご飯が食べたい、便所に行きたい、お風呂に入りたい」と言い、これが最後の言葉だったそうだ。
その人の尊厳は7年間傷つけられていたわけだ。
意識のないまま身体中にチューブをつけて寝ている姿を見るのは、正直なところいいものではない。
患者本人の気持ち、患者本人が苦しんでいるかどうかよりも、まわりの人が不快なものを見るのがいやだから、これじゃ患者の尊厳がない、延命措置をしても苦しめるだけだ、生の尊厳がどうのこうのと言ってるんじゃなかろうか。

○生者の都合
胃ガンだった叔父(67歳)は、酸素マスク、痛み止め、腹水や尿を出すためのチューブ、栄養の点滴などのチューブを身体中につけたスパゲティ状態で亡くなった。
それらチューブを一つでもはずすと、叔父は苦しみながら死ぬことになる。
医者から「あと二、三日」と言われ、心臓が強いものだから、それから十日ばかり保った。
死ぬのをただ待つだけの十日間だった。
そういう時、自分の都合を考えてしまう。
この日は用があるから死んでもらっては困る、どうせなら葬式はこの日がいいとか、医療費、そして介護のこと。
もしも尊厳死が当たり前となったら、生者の都合に合わせるようになることは間違いない。

(追記)
日本尊厳死協会についてはこちらを。
http://blog.goo.ne.jp/a1214/e/b7634a94e5bfede31ae3b512b3d11dc9
尊厳死については児玉真美『死の自己決定権のゆくえ』が参考になります。
http://blog.goo.ne.jp/a1214/s/%BB%F9%B6%CC%BF%BF%C8%FE%A1%D8%BB%E0%A4%CE%BC%AB%B8%CA%B7%E8%C4%EA%B8%A2%A4%CE%A4%E6%A4%AF%A4%A8%A1%A1
川口有美子氏については別のところでも書いています。
http://blog.goo.ne.jp/a1214/e/69bc4cc0d0bac2bd358a6706166b907c

コメント (2)
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