水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

疑問ユーモア短編集 (17)気分

2020年01月21日 00時00分00秒 | #小説

 同じ物事(ものごと)でも気分で結果が変化する。どのように変化するのか? という疑問を解(と)くのも面白い。年が明けたというのに、あんたの頭はまだ明けてないのかっ! と言われればそれまでだが、それもそうなので多くは語らない。^^
 とある町の商店街である。朝から気分がいいのか、八百屋の店主が
鼻唄交じりに店頭で品出しをしている。そこへご近所のご隠居が通りかかった。
「♪~~~♪」
「やあ! 朝からご精が出ますなっ!」
「! ああ、これはこれは向こう三軒隣の横丁を入って、右に折れたところを突き当たった家のご隠居!」
「ははは…なにを、まどろっこしいことをっ! ほんそこのご隠居でいいじゃないかっ!」
「いやぁ~こりゃどうも。あっしね、ご隠居。気分がいいと舌が流暢(りゅうちょう)に滑(すべ)るんですよっ!」
「ほう! そうかい。ははは…なんとも気分屋の舌だねっ!」
「そうなんですよっ! そうしますと、上手(うま)くしたもので客足が伸びましてねっ! えへへ…」
「そりゃ、いいことじゃないか。で、気分が悪いと、どうなるんだい? 客がつかんか?」
「ええ、その通りなんで…。そこら辺、ご隠居、どうお思いになられます?」
「どうもこうもないじゃないか。それはねっ、あんたの身体(からだ)から見えないオーラが出てるんだよ、きっと」
「そうでがしょうか?」
「ええ、そうでがすよっ! 気分がいいと+[ブラス]、悪けりゃ-[マイナス]!」
「ご隠居、ほんとですかぁ~?」
「そりゃ、そうさっ! 当の本人が信じないで、誰が信じるっていうんだいっ!」
「ははは…、そりゃ、そうだっ! どうも、すいません! …おやっ! あっし、なぜ謝(あやま)ってんでしょうねっ! とんだ疑問だっ!」
「勇み足だよっ! あんたの負けっ!」
 気分がいいと、勇み足で負けて謝ることになるようである。それがなぜか? という疑問は解けない。^^

                             完


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疑問ユーモア短編集 (16)自由

2020年01月20日 00時00分00秒 | #小説

 誰もが自由に生きたい…と思うだろう。だが、そんなに世の中は甘くない。いくら財産のある人だって、もちろん、普通に暮らしている人や貧乏な人も含むのだが、そう簡単にすべて自由になれる・・ということは、生きている以上、不可能なのである。世の中は目に見えない魔の力で私達の自由を削(そ)ごうと虎視眈眈(こしたんたん)とつけ狙(ねら)っているのである。それが何故(なぜ)なのか? という疑問が湧(わ)くが、たぶん魔は人を幸せにはしたくないのだろう。^^ これが、魔の魔たる所以(ゆえん)なのだが…。^^ そんな疑問を吹き飛ばすには自由にならず物事に拘(こだわ)らないことだが、これがどうしてどうして、なかなか難しく、私達は小さなことについ拘ってしまい、いつの間にか自由から遠ざけられている。お金を持っていても使わなければなんの価値もない、ただの紙切れや金属に過ぎない。魔は自由に使わせないないよう、マインド・コントロールという悪辣(あくらつ)な手法で使う自由を削いでいるのである。^^
 とある街通りに一人の男が寝そべっている。
「どうされました?」
 自転車で通りかかった交番の巡査が、不審に思えたのか訊(たず)ねた。
「どうしたって? 見りゃ、分かるだろっ! 寝てんだよっ! 疲れたから寝てるの…」
「ここは人が通ります。通行の邪魔になりますから…」
「分からねえ巡査だなっ! どこで寝ようと人の自由だろっ!」
「そんなことはないんですっ! ここは自由に寝られません。交通妨害は立派な法律違反なんですよっ!」
「あっ! そうなの? だったら、もっと早くそう言ってよっ! ちっとも知らなかったなぁ~! 道路じゃ自由に寝られないんだ。どうも…」
 男は申し訳ないように立つと、楚々(そそ)と巡査にお辞儀して立ち去った。
 このように真の自由とは、疑問が湧くほど少ないのである。^^

 ※ 考え方には個人差があります。^^

                             完


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疑問ユーモア短編集 (15)御手洗(みたらし[い])

2020年01月19日 00時00分00秒 | #小説

 日本語の読みには疑問が湧(わ)くことが多い。以後の回もそんな話題を書くとは思うが、今回は御手洗(みたらし[い])という言葉を話題にしたい。そう読むんだからそう読むんだっ! と大上段に振り翳(かざ)されれば、そうです…と頷(うなず)く他はないが、よくよく考えれば、音訓的には、とてもそうは読めないのである。[御]の字を[お]と書いて、[お手洗]とすれば、訓読みは、どう考えても[おてあらい]となるだろう。[おたらい{し}]の読みは100%ないのだ。^^ 言語学者以外は、まっ! どうでもいい話なのだが…。^^
 とある公園のイベント会場前で、多くの人が並んでいる。そうなれば当然、トイレも混むことになる。
 二人の男がでイベント会場の列(れつ)に並びながら語らっている。
「御手洗(みたらし)なんですがね…」
「ちょっと見てきましょうか?」
「お願いします…。入場券は取っておきますから」
「さよでっ! そいじゃ、お願いしますっ!」
 そう言うと一人の男は駆け出し、列から姿を消した。そして、しばらくすると、ニヤけた顔で戻(もど)ってきた。手には、みたらし団子を両手に二本ずつ、合わせて四本を持っている。
「ありましたっ! みたらしっ! はいっ!」
 男は片手の二本を手渡そうとした。そうじゃないんですっ!! と言えない男は、笑顔で受け取らず、姿を消した。もちろん、お手洗である。
 御手洗[みたらし]という読みが誤解を招いた馬鹿馬鹿しい話だが、なぜそんな読みになったか? が疑問となる。^^

                             完


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疑問ユーモア短編集 (14)メディア

2020年01月18日 00時00分00秒 | #小説

 昨今、世の中はメディア[媒体]による意思疎通[コミュニケーション]で影響を、もろに受ける時代となっている。ラジオしかなかった時代に比べれば、情報媒体もかなり増え速い速度で私達の目や耳に届く時代である。そうすると、私達は別に思わなくてもいいのに、まったく関係がない出来事に思ってしまうことになる。^^ ニュースでアナウンサーが、「ドコソコの国道△□線で接触事故があり、タレントの○○○○さんはショックのあまり行き先を忘れました…」などというニュースは読まれないだろうが、^^ 余り関係のない事件や事故を報道されても、視聴者サイドは『…フゥ~~ン、そうなんだ。あのタレントが…』くらいの気分で終ってしまう。ところが、タレントの所属事務所は、それどころの話ではなく、ド偉いことが報道されたぞ…と人気落ちの心配気分になるのである。メディアによる影響だ。妙なことに、事実でない報道が、さも事実のように広がり、拡散するうちに虚偽事実が事実に変化するのには疑問が湧く。恋愛のスキャンダラスな話だと、飛ぶように売れるネタなのだろうが、事実でないから、いつしか下火となる。すると、上手(うま)くしたもので、メディアは、両者は破局! などの落ちにして、無かった話にしてしまう訳だ。^^ これは、メディアの力を利用した実に巧妙なお商売だが、それが成立する時代なのだから、そら怖ろしい。^^
 年明けの、とある都会の街通りである。福袋目当ての人の列でごった返している。その中を、まるで他人事(たにんごと)のように興味なさ気に楚々(そそ)と通り過ぎる二人の老人がいる。
「なんですっ? この列はっ?」
「ああ、福袋ですよ、福袋っ!」
「ああ! そういや、今朝のチラシ広告に出とりましたっ!」
「そう、それっ! メディアの影響ですなっ!」
「福袋って、そんなにいいんですか?」
「ははは…そうでもないんでしょうが、メディアによって、より以上によくなってしまった・・ということでしょうな」
「品物というより福袋を買うとか?」
「そう、それっ! メディアの影響ですなっ!」
「やはり、メディアの力ですか?」
「そう、それっ!」
 説明する老人は、そう、それっ! を多用してメディアを強調した。
 なぜメディアにそのような力があるのか? は疑問だが、人をその気にさせる影響力を持つのは確かなようだ。^^

                             完


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疑問ユーモア短編集 (13)自然と強制

2020年01月17日 00時00分00秒 | #小説

 物事には成りゆきに任せた自然な進行と、強制して進行させる二つのやり方がある。どちらも完成を目指すのは同じだが、自然な進行は、どうなるか分からず不安定で、いつ結果が出せるか分からない難点がある。ゆとりがあるときは、いいが、緊急時には不向きだ。それに対し、強制で進行させる場合は結果が案外早く、確実でもある。それなら、すべて強制で…という疑問が湧くが、それがいいとも言えないのだ。強制は長続きせず、頼れば偉いことになるデメリット[不利]を抱(かか)える。その点、自然は長続きするメリット[利点]があり、時と場合で使い分けられるか? ということだ。私は自然も強制もしない…という自由主義者の方は、美酒に酔い痴れて下されば、それでいい。^^
 とある高校のサッカー部の部活である。競技場で二人の選手がサッカーのパス練習をしている。それを遠目でコーチと監督が見守る。
「あんな自然に任せたパス回しなのに得点率が高いのが疑問なんですよ」
「返って計算していないからじゃないか。計算し尽くして、強制してパスを通しても、相手は計算どおり動いてくれるかは分からないだろ」
「ああ、なるほど。それは監督が言われるとおりですね」
「だから、なんじゃないか」
「強制は、ある種の賭(か)け・・ですからね。裏目に出りゃ、潰(つぶ)されます」
「ああ。そうなりゃ、結果的にボール・ポゼッションは相手チームが上回るよな」
「はい…。強制より自然ですか?」
「ははは…まあな。そういや、君の強制力は失敗に終わったそうじゃないか」
「知ってられたんですか。もう少し、告りは遅らせた方がよかったようです。彼女に逃げられた理由です」
「ははは…俺は自然に任せて、なるようになったぞっ!」
「今の奥さんですか。私も見習います、ははは…」
 二人はサッカーに関係ない話で盛り上がった。
 どうなるか先が分からない疑問は、急がず自然に任せた方が好結果を得られるようだ。^^

                             完


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疑問ユーモア短編集 (12)出来る!

2020年01月16日 00時00分00秒 | #小説

  出来ないと思っていることでも、出来る! という気持でやれば出来るのはなぜか? という疑問を考えたい。年末のこのクソ忙しいときにっ!他にやることはないんかいっ!! と怒られる方もおありだろうが、これでもキチンとやることはやっているからご安心
を願いたい。^^
 とある高校の柔道大会が行われている総合体育館である。観客席で、柔道部の先輩二人が話し合っている。
「いやぁ~、ナニには勝てんだろっ、いくらなんでも…」
「まあ、番狂わせ・・ということもあるっ! アレは普通の者(もん)では出来ん石段跳びをやってたからな」
「ほう! そんなに足腰が強いか?」
「いや、他の者と、そうは変わらんが、根性(こんじょう)だけは全然、違う。聞いた話によると、出来る! と自分に念じているそうだぞ」
「それは、すごい! なら、ひょっとすればひょっとするか?」
「ああ、ひょっとすれぱ…。いや、アレなら出来る! ぞっ、ははは…」
 アレとナニは順当に勝ち進み、二人は決勝戦で合間観えた。その結果、前評判を覆(くつがえ)し、アレはナニに勝って優勝したのである。
 勝てる! 心意気だけで、なぜ勝てたのは疑問だが、それだやり遂げようとする人の根性は強いということだろう。受験生の皆さん! 出来る! と思えば、必ず合格出来る! がんばれっ!^^

                             完


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疑問ユーモア短編集 (11)意識

2020年01月15日 00時00分00秒 | #小説

  意識すればするほど、思っていたことが思い通りにならないのには疑問が湧(わ)く。実力があるにもかかわらず、いざ本番で意識する余り失敗してしまうことになる。もっと分かりやすい例だと、ホの字、要は惚(ほ)れてしまうことだが、^^ 意識して、相手に思いの丈(たけ)を伝えられず、ぼ、僕は…などと噛(か)むのが、それだ。^^
 とある下町の定食屋である。看板娘の美代ちゃんに、すっかり絆(ほだ)されたサラリ-マンの奈島は日参するように食べ通うようになっていた。ベタ惚れ状態である。^^ 美代ちゃんも少なからず分かっていて悪い気はしなかったが、自分から言い出すことはなかった。
「おいっ! まだ11;30だぞっ! もう昼飯かよっ!」
 奈島の課では、同僚が飛び出ていく奈島を冷やかした。それもそのはずで、会社から定食屋までは30分以上かかったのである。
「困った奴(やつ)だ…」
 課長も奈島の情報は得ていて、定食屋へ日参していることは分かっていたから、遠回しにニヤけた顔で嫌味を言った。課長にも同じような過去の意識した出来事があった・・ということもある。
 そんなことが繰り返され、一年が過ぎていったある日のことである。ついに、意識する奈島に奇跡が起きた。意識しない別の奈島が姿を現したのである。
『今日は、俺が行ってやるよ。お前のダサさは見ちゃいられねえからなっ!』
「はあっ? あ、ああ頼みます…」
 そして一時間後である。
『話はつけてやったぜ。OKだとよ。あとはお前がやりなっ!』
 そう告げると、意識しない奈島は意識する奈島の前から忽然(こつぜん)と消え失せた。
 二年が過ぎ、奈島は美代ちゃんはパンパカパ~~ンと、めでたい曲が流れることになった。
 どうしてそうなったかは疑問だが、ともかく、意識する人にも意識しない反面の心が潜(ひそ)んでいるようだ。^^

                             完


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疑問ユーモア短編集 (10)黒白(こくびゃく)

2020年01月14日 00時00分00秒 | #小説

  黒白(こくびゃく)をつける・・という言い回しがある。申すまでもなく、その行為が間違っているか否(いな)かを明確にする意味である。だが、人の世では曖昧(あいまい)な行為が認められ、善悪どちらも通用しない・・というのが疑問だ。偏(かたよ)れば生き辛(づら)いのが世の中・・ということになる。^^

 高校生の息子とその父親が、いがみ合っている。
「そこまで言うなら、黒白をつけようじゃないかっ!」
「ああ、いいよっ!」
 父親の勝負に、息子はあっさりと乗った。
「じゃあ、お母さんを呼んできなさいっ!」
「分かった!」
 息子は勢いよくキッチンへと消えた。しばらくして、母親と息子が居間へ入ってきた。
「母さん、今夜は石狩鍋だよな」
「石狩鍋ってことはないよ、絶対っ! 鳥スキ!」
「えっ? なにっ? 二人とも違うわよっ! 魚スキ!」
「…」「…」
 親子の黒白はつかず、灰色で終った。
 まあ、こんな平和な黒白のつけ方なら、大いに望むところで、疑問が生まれる余地はないだろう。^^

                             完


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疑問ユーモア短編集 (9) 世間体(せけんてい)

2020年01月13日 00時00分00秒 | #小説

 私達、日本人には世間体(せけんてい)を気にする人が多い。それがどういう訳かは疑問だが、ともかく外国の人々に比べると多いのは確かだ。その辺(あた)りが外国から移住した外国の人々には不思議に思えるらしい。外国では周りの人々がどう思おうと、自分が納得できればそれでいい…的な発想らしい。独自性[アイデンティティ]が世の中で許されている訳である。そこへいくと、日本では世間に馴染(なじ)まないと変な人として白眼視されがちだ。実は、その白眼視する人達が変な人達なのである。そのことに当の本人達は、まったく気づいていないのだから困(こま)る。^^
 とある町の歳末風景である。雪が舞っている。別に舞わなくてもいいのに舞っている。^^
「このクソ忙(いそが)しいときにっ!」
 小忙(こぜわ)しそうに街路を歩く一人の男が、ボソッ! と愚痴った。どう見ても、クソ忙しそうには見えない男だったが、その男の脳裏(のうり)には歳末は忙しいもの・・という世間体独特の思い込みがあったのである。そのとき対向から別の一人の男が歩いてきた。
「やあ! これはお隣の湯屋(ゆや)さんっ!」
「ああ! 禿山(はげやま)さんでしたか…」
 湯屋は禿山に声をかけられ、小忙しさを瞬間、忘れた。
「どこぞへ?」
「いや、まあ…。正月ものでも・・と思いまして…。それにしても小忙しいですなっ!」
「ええ、まあ…。年の瀬ですから」
「お宅は?」
「いや、夜勤の帰りです」
「それはそれは…。お疲れのところを」
「いえいえ。それじゃ!」
 歩き去る禿山の後ろ姿を見ながら、湯屋は小忙しくする世間体に、ふと疑問が湧いた。

 ※ 禿山氏は、私小説[あんたはすごい!]に登場した人物で、本作はスピンオフ作品です。^^

                                 完


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疑問ユーモア短編集 (8)完璧(かんぺき)

2020年01月12日 00時00分00秒 | #小説

 誰だって、やっていることは完璧(かんぺき)にやってしまいたいだろう。^^ ところが、どこかに間違いがあったり、どこかで間違えたりして、完璧な仕上がりは夢に終ってしまう。それだけ完璧は、なかなか成し遂げられない成果なのである。棋界なら、九段は大勢おられるが、十段はお一人だけ・・みたいなものだろう。^^ 事後になり、なぜ間違えたんだ? と、疑問を抱くことになるが、当然、本人に間違えるつもりはなく、完璧を目指していたのだから、疑問はその間違えた瞬間、何がそうさせたか? ということになる。^^
 春のポカポカ陽気の中、どこにでもいそうなご隠居の二人が、縁側の座布団に座り、庭を愛(め)でながら話し合っている。
「最近は、どうもいけません! 自分じゃ完璧にやったつもりなんですがね、どういう訳か忘れとります」
「そうそう、私もありますな」
「この前も、『おいっ! シャンプーがないぞっ!』って疑問が湧き、妻に問いましたらね。『あんた! 今、頭に立ってる泡(あわ)は、なによっ!』って、こうですよっ! 完璧に頭も洗えなくなってしまったか…と思いますとね、ぅぅぅ…」
「なにも泣くこたぁないじゃありませんかっ!」
 泣きつかれた老人は、慰(なぐさ)めながらハンカチを取り出し、手渡そうとした。
「いや、大丈夫です…」
 泣きついた老人はハンカチを受け取らなかった。決して大丈夫ではなかった老人だが、受け取ろうとしたハンカチが完璧に汚れていたのだ。
「そうですか?」
 手渡した老人は綺麗なハンカチ…と完璧に思っていたから疑問が湧いた。しかし、それは三日前で、完璧に記憶が飛んでいたのである。
 完璧とは、まあこんな疑問が湧く曖昧(あいまい)なものなのだ。^^

                                完


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