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タイムリミット─宗方仁と日隅一雄

2012-06-20 23:16:36 | Weblog
初めての同人誌『ひろみをねらえ!』では山本鈴美香さんの『エースをねらえ!』の中で力の入った描写で登場しながらも、だんだんと物語中に埋没しがちになってしまった英玲(はなぶされい)というサブキャラに光を当てたんですが。

あとがきでも、当時のエースは魅力ある人物が次々と現れるインフレ状態だったこともあり、主人公・岡ひろみの同年のライバルとして現れ、言動などでもひろみとは対照的でひろみを否定する要素のある宝力冴子が、それゆえにひろみの自覚や成長を促し、物語を展開させる役割で重宝されたのに対し、「あなたのなにもかもが好き」とひろみを肯定してしまう英玲は埋没してゆくのを避けられない運命だったのでは─と記し。

にしても宝力冴子というのは、どうも山本さんがご自身を投影していた部分が大きいのではないか─とも思われるくらいに生き生きと輝いて見える。
わりと古風なところのあるひろみに対し、男勝りで開けっぴろげ、ひろみにメイクのやり方を教えるとか、「魅力たっぷりの大人の男性」としてひろみのコーチ・宗方仁に注目し、彼に大胆にアプローチするとかのやり方も、いかにも現代的でおしゃれ。

宝力冴子でも一冊作れたらな─というか、宝力さんが宗方仁に抱く憧れは、そのまま当時の山本さんや読者の思いでもあったのでは。
強烈な大人のムードを漂わす宗方仁が、しかし誰よりも見込んだのは、お蝶でも(実妹の)お蘭でも宝力でもなく岡ひろみであった─ということこそ『エースをねらえ!』の肝であったといえよう。
女の英玲はともかく、男の登場人物もほとんどがひろみに魅力を覚えてひろみを求める。それをエコヒイキだと嫉妬していじめる敵役たち─という黄金の構図。

しかし少女たちを熱狂させたその構図は、なぜズブの素人の岡ひろみがいきなり選手として抜擢され、宗方や藤堂や千葉やレイノルズ氏やら揃いも揃って夢中にさせるほど求心力を持ち得るのかという一つの大きな疑問を生む。それらの疑問や、ひろみを大人の宗方と結ばせるわけにはいかないという難題まで一挙に解決する手段こそ、【選手生命を絶たれ死期を悟った宗方仁が、自分のすべてを注ぎ込める相手として岡ひろみを見いだした。男としても愛しているが、それ以上に親が子を愛するような見返りを求めない愛なのだ】という設定を加えることだったのではないだろうか。




いいと思うんです。理由なんて後付けでも。
死期が近いから。時間が限られてるから。手塚治虫さんの『ブッダ』ではアッサジという子どもが、自分が何年何月何日何時何分にオオカミに食べられて死ぬという運命を知っており、そのとおりに死んでいく。
オシャカさまでもそれはあんまりだ、自分には無理だっていうくらいなのだが、凡人のわれわれであっても時期は分からないが誰もがいずれは必ず死ぬ。
アッサジや宗方仁のように死を直視せずに済むのは、残り時間がはっきり分からないからに過ぎない。

先ごろ亡くなった日隅一雄という元産経記者の弁護士さんも、末期がんの告知を受けたので、弁護士の職務は棚上げし、福島第一原発事故に際し情報を隠して原子力ムラの利権の温存を図る勢力との闘いに身を捧げることになった。
先日TBSで「バッジとペンと」と題して彼の最期の日々を捉え(↓画像)、その中で日隅さんは心残りとして、電力会社が広告を出すことによってお金でマスコミをコントロールすることの是非を弁護士として法廷でハッキリさせたかったと。

海外では公共事業には厳しい制約が課される例が多いらしいのだが、日本はそのへん癒着してるからなあ。ともに自殺大国のロシアでは汚職などを暴こうとするジャーナリストが続々暗殺されてしまうくらいなので、さらに巧妙なやり方で政・官・財・学・マスコミが岩盤カルテル化してるわが国では、末期がんでも患わないと歯向かえないということかも─










「主権在官」打ち破れ─東電・政府の会見監視 弁護士・日隅一雄さん
国民が知るべき情報を官僚が隠し、残さず、ときには操る。東日本大震災と福島第一原発事故以降、あらわになったのは憲法の国民主権を骨抜きにする「主権在官」の構造だ。3年前の政権交代を経ても、その構造は生き延びている。末期がんと闘いながら、東京電力と政府の記者会見を監視してきた元新聞記者で、弁護士の日隅一雄さん(49)に日本の病巣を聞いた。 ─(聞き手・小嶋麻友美)


●官僚の情報隠し 震災機に表面化

─昨年3月の事故直後から、東電と政府の会見に通い続けたのはなぜですか。
資料もろくに用意せず、記者の質問を意図的にはぐらかす。国民に必要な情報が出ていないと感じ、ならば自分でただそうと思ったからです。がんの治療で途中、約1ヵ月入院しましたが、延べ100回ほど足を運んだでしょうか。
とにかく情報を隠そうという姿勢でした。国民主権の理念など全く感じられない。政治家、特に当時首相補佐官だった細野豪志さんは割ときちんと答えようとしていた。問題は官です。政治家は選挙もあり個人名で動くが、官僚は匿名。だから責任を取らない。彼らに有利な情報しか出さず、常にメディアをコントロールしようとする。日本の民主主義は上っ面だけ。「主権在民」ではなく「主権在官」なのです。

─国民が必要な情報を得られない。問題の根っこは。
制度です。隠す余地のある制度だから、彼らは隠そうとする。政府の原子力災害対策本部などで議事録を作っていなかった問題も、公文書管理法に反するかと言えば、難しい。会見で「文書に残してくださいよ」と何度も指摘してきたが、官僚は「法令上の作成義務はない」という姿勢です。法律で細かく定め、解釈の余地をなくさなければいけない。

─制度を変えるためにも政治主導が期待されたはずですが、首相の交代もめまぐるしい。
鳩山由紀夫さんは、沖縄の基地問題も含め頑張ったと思う。でも官僚の抵抗でつぶれてしまった。菅直人さんも倒れ、野田佳彦さんになり、自民党時代と同じ官僚主導の政策決定になってしまった。結局、官僚は強いんです。
他国には民主主義の優れた制度がたくさんある。日本の小選挙区制は、少なくとも先進国では最悪です。小選挙区でも米国には予備選挙があり、有権者が候補者選びに関与できる。情報公開制度も、例えばニュージーランドでは、文書自体が残っていなくても行政は回答しなければいけない。官僚は各国の制度を研究しているはずなのに、変えようとしません。

─主権を国民の手に取り戻すにはどうすれば。
情報の流通と共有が何より大事だと思います。海外の制度を知れば、日本ではいかに国民が主権者として扱われていないのか、よく分かる。分かれば「主権を行使しよう」という機運が高まり、政治家も変わり、国民に必要な政策が採用され─という具合に回っていくはずです。
政権交代で民主党がやるべきことは、民主主義を実りのあるものにすることだった。国会内に民主主義を検討する委員会をつくるべきです。根本の制度が変われば、個別の問題も変わりやすくなる。
国民が政治家を支えることも必要です。現状は投票に行く以外、何もしていない。毎日、政治家の事務所に行って「ムダを削って」などと盛り上げていれば、民主党も市民の側についたでしょう。でもそれができず、政は官にすり寄るしかなかった。なぜできなかったのか。主権を行使できない制度があるからです。がちがちに縛られた中で国民が声を上げ、意思を反映させるのは難しい。

─国民が官を疑い、主権者として考えるきざしは出てきました。
事故の犠牲が大きかった分、何か獲得しなければという意識は国民の間に高まっています。戦後と似た状況ですが、当時はマスメディアしかなかった。今はインターネットという道具がある。これで官僚お任せシステムを打ち破れるんじゃないか。マスメディアも変わらざるを得なくなる。
新聞記者に始まり、今、再び伝える活動に専念していることに因縁を感じます。病気にならなければ本業が忙しく、会見に通って本を書くこともできなかったでしょう。これが今、果たすべき役割なんだなと、自分を納得させています。


■審議会委員公募 透明性の確保を
国民が主権を行使するためには、【1】判断に必要な情報を得る【2】判断に基づいて国会議員らを選ぶ【3】議員の政策決定に国民意思を反映させる【4】行政をチェックする制度がある【5】主権者としてのあり方─の5つの視点を日隅さんは提示する。
官僚が政策を操る一例が、再生可能エネルギーの買い取り価格を算定する有識者委員会の人事の問題だ。資源エネルギー庁が内々で決めた委員の多くが原発維持論者だと分かり、委員会の中立性が疑われている。
政府の審議会や委員会は本来、第三者の立場から政策に民意を反映させる役割を期待されている。だが実態は、事務局を務める行政当局が御用学者や官僚OBを委員に選び、事務局案の追認になりがちだ。
これに対し英国が採用しているのが、審議会や独立行政法人などの委員を実力本位で選ぶための「公職任命コミッショナー制度」だ。
日隅さんによると、採用基準を明らかにした上で公募し、任命するまでの手続きで透明性を確保。手続きが適正に行われたかどうかをチェックする監査人もいる。




◆ひずみかずお 第二東京弁護士会所属。元産経新聞記者。NHK番組改変訴訟、沖縄返還密約情報開示訴訟などに携わる一方、弁護士やジャーナリストらで設立したインターネット市民メディア『NPJ (News for the People in Japan』編集長を務める。2011年5月、末期の胆のうがんと告知され、闘病中。今年1月、共著で『検証 福島原発事故・記者会見』を出版。近く『「主権者」は誰か 原発事故から考える』を刊行予定。 ─(東京新聞2月5日、日隅一雄さんは6月12日に死去しました)



検証 福島原発事故・記者会見――東電・政府は何を隠したのか
日隅 一雄,木野 龍逸
岩波書店

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