無意識日記
宇多田光 word:i_
 



少し『Face My Fears』の第一印象まで立ち戻ってみる。12月10日のことだ。ライブコンサートの余韻が強すぎて触れられていなかった。

90秒のサンプルを鳴らして歌い始めた時私は思わず呟いた。「そうか、まだここやってなかったか!」と。

ある作曲家の数多の楽曲を長年聴き続けていると“地図”が出来てくる。曲調毎にひとつひとつの楽曲がある種視覚的に配置されていくのだ。この曲は渋くて知的だからシブチの7:5かな、とか馬鹿っぽくてインパクトが強いからバカパクの8:10だな、とか…なかなかインパク知が出ないんだよね…。…ってネタが古すぎましたねすいません。

兎に角、そういう「楽曲分布図」みたいなものが頭に出来上がる。あの曲はここらへん、この曲はその曲に似てるから近いところに…という具合。その中で『Face My Fears』は、「そうだ! ここがポッカリ空いていたな! どうして気付かなかったんだろう!?」と私に思わせる曲だったのだ。

即ち、今までのどの曲とも存在感が重複していない/被っていない曲調でありながら、今まで私の中で描かれてきた地図の中にキッチリ収まってくれる、今まで築き上げてきた宇多田ヒカルらしさから全く逸脱していないと感じさせてくれた楽曲なのだ『Face My Fears』は。本当に絶妙な所を見つけてきたものだ。偉いよSkrillex。

実際、Aメロを歌い始めた時は「『大空で抱きしめて』のBメロと同じ音の運びだな」とは思ったが、それは形式的に“楽譜の見た目が似ている”だけであって、楽曲の表現する感情はかなり別の、『Face My Fears』ならではのものだった。デビュー20周年、実働期間12年以上に及ぶキャリアの中で、らしさから逸脱せずに新しい領域を開拓するとは天晴れとしか言いようがない。どこに出しても恥ずかしくない、堂々と宇多田ヒカルの新曲として世に問えるクォリティーの曲がまた新たに誕生したのだ。

…だからもちっとヒットしてくれないかなーというのが珍しく本音だったりする。主戦場がストリーミングに移行しつつあるのなら、もう少し様子を見なければなりませんが、スタートダッシュとはならなかった訳で来週以降どうなるか楽しみにしておきたく存じます。

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祝四大大会連続決勝進出の大坂なおみの日清アニメCMホワイトウォッシュ騒動。ここで注目すべきなのは大坂本人が「次に私を描くときは私と話をして欲しい」と話してるらしいこと。あたしゃ実際に聴いたわけではないのだけど。

でも、そんなもんだと思う。いちいち自分に関連するビジネスにひとつひとつアプルーブを出していたら本業に支障が出る。その為に信頼できる人を選んでマネージメントやエージェンシーを頼むのだから、今回はその「信頼の連鎖」の中で綻びが出来たということだろう。

ヒカルだって何でも出来るからといって何でもやる訳ではない。既にプロデュース、作詞作曲編曲、歌唱に楽器演奏と八面六臂なんだからそれ以上の仕事を受け持つのは大変な苦労を要する。端々のプロモーションや企画のクオリティー・コントロールまで気が回らない・手が届かない事があっても不思議ではない。受験生ならいきなり試験科目が3つ4つ増えるようなものだし、社会人なら例えば現状でさえ残業や休日出勤をして制作の仕事をこなしてるのに明日から営業の監督もしてくれと言われたらどうするか、みたいな話なのだ。即座に「無理です!」となるだろう。

『Face My Fears』の歌詞が歌詞カードにある『歩きたい』ではなく『ある人に』に聞こえる問題も、本人がチェックしていれば気付いていた案件だったかもわからない。しかし今回はプロデュース筆頭がSkrillex、次にPooh Bear、最後に宇多田ヒカルという順序でしかもミックスはSkrillexだ。基本的に彼が全体の陣頭指揮を執るプロジェクトだったろうことは想像に難くない。その中で日本語のわからない彼がミックス時に本来混ぜてはいけないボーカルパーツを継ぎ接ぎしてしまった可能性は十分に有り得るし、彼がリーダーだったのなら完パケを最終チェックに回すかどうかも彼の判断になる。締切ギリギリだったのならそこを素っ飛ばすこともあったかもしれない。何よりこれはキングダムハーツというビッグプロジェクトの一環なので、締切厳守は間違いないだろうしな。


…というのが目下の私の妄想だ。真実はわからない。いつかヒカルが語ってくれたらいいんだが、こういう話は墓場まで持ってっちゃうかもしれないね。

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