無意識日記
宇多田光 word:i_
 



歳をとってくると打率が落ちる。ピークの高さは昔と変わらないが、当たる回数、頻度が落ちてくる。これが創作系の傾向だ。

決まった手順で決まった結果を出すタイプの職人芸は恐らく60歳位までは平気で上達し続ける。しかし、新しいものを生み出す力は、頻度の減少や間隔の拡大などの局面で衰えをみせる。

ミュージシャンなら、歳をとるごとにアルバムのリリース間隔を大きくしていけばアルバムとしてのクォリティーは保てる。都合のいい事に、10年20年と第一線で活躍を続けていればベテランになる頃にはツアーが馬鹿長くなっている。世界的なミュージシャンやバンドともなればアルバムを一枚出して2年とか3年(ずっとではないにしても)くらいかけて世界中を回るものだから、オリジナルアルバムのリリース間隔は5年位になってくる。創作頻度が減退しても、ある意味困らない。それでいいともいえる。

10年前の『HEART STATION』の密度、打率の高さは異常である。これだけの曲をたった1人で2年足らずで揃えたというのは常軌を逸している。ザ・ビートルズなどは4人で(まぁ主に2人だけど)寄って集ってアルバムを作っていたから毎年名作をリリースできていたのだ。初期は半分カバーだしな。ヒカルはほぼ独力でフルアルバムを作るという行為を何度も、短期間で成し遂げてきている。まぁなんというか、3周まわって呆れるよ。

『Fantome』がどれくらいの期間で制作されたかは正確にはわからない。とどめの一撃である『桜流し』がかなり早いタイミングで作られている点も考慮に入れる必要がある。しかし、次のアルバムは少なくとも2016年10月以降に作り始めたというのは間違いないのだし、となると恐らく2年弱でフルアルバムの曲を揃えてくる事になる。それでもし『HEART STATION』や『Fantome』のような密度を達成しているとなると「宇多田ヒカルは老いない」のだと本気で考え始める必要がある。ちょっと、やっぱり考えられない。


週末にインスタグラムで英国の女性コーラスグループと写真に収まっているとの"通報"があった。ライトハウスファミリーやサムスミスらと仕事をしている子たちらしいが、写真をみて最初に疑問に思ったのは「一体いつ撮った写真なのだろう?」という点だった。キャプションや髪型、痩せ具合を詳細にみて「あぁつい最近の写真だな」という結論を出せはしたのだが、若い。一瞬見せられただけなら10年前の撮影だと言われても信じてしまうほど、若い。やっぱりヒカルは老いないのかと本気で考え始めている。イチローなどは完璧なメンテナンスを四半世紀続けてきていても顕著に衰えているのに、ヒカルは妊娠出産を経てもこれである。いや流石に老化が始まってもいい頃だし皺が増えたりしても私からみりゃ可愛さに味が出てきた程度にしか捉えず何らネガティブな事ではないのだが、ただひたすら事実として、若い。次作も若いままなのかな?

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『HEART STATION』アルバムから10年、か。もうこの歳になるとあっという間とか長かったとか短かったとかまだとかもうとか思う事すらない。まさにただの数字だわ。10年、ね。

まだまだ普及率はわからないが、昨年末から(Spotifyは今年初頭から)定額配信も始まった事だし、新しくファンになってくれてる皆さんもこのアルバムに触れれる機会が多いかもしれない。1時間弱12〜13曲収録のアルバムでここまで楽曲の密度が濃い作品は他にあるのやら。定額配信だと曲ごとにつまみぐいをするのが普通かもしれないが、せっかくなのでフルコースでフルアルバムを堪能してみて欲しい。

フルアルバムの意義が揺らぐ、というのは定額配信の普及に伴い言われてきた事であって特別な事は特にない。アルバムでのリリースをやめプレイリスト主体に新曲をプロモーションする人も居る。ヒカルに関してはファン層の推移からして相変わらずアルバム重視、しかもCD主体という最早前時代的というフォーマットでこれからも推移していくだろう。人はなかなか慣れ親しんだフォーマットを変えようとはしない。こちらからしたらCDだって昔は"新しいフォーマット"だったんだが。30年以上前の話だからね。


というのはいつも言ってる話だな。今後はCDでアルバムをリリースするのはある程度継続しつつ、定額配信内でどうやって存在感をアピールするかも重要になってくる。オフィシャルのプレイリストにどれだけ需要があるかは未知数だが、過去20年近い財産があるのだからそれに応じたプレイリストを作っていくのも面白い。

今の流れでいくとなりくんとどう絡めていくか、というのも課題の一つだろう。まだファンの温度感として彼を全面的に応援しよう、とはなっていないかな。4月のフルアルバムの出来次第、そして次々と出演する夏フェスの評判次第、か。押し付けがましい抱き合わせはなりくんの評判もヒカルの評判も落とすのでくれぐれも慎重に。

シングル曲のダウンロード配信販売ですら馴染めない層が一定数居る中でストリーミングオンリーをなりくんのみならずヒカルも始めないかという懸念はある。突然ダウンロード配信販売が無くなる事は考えられないが、例えばストリーミング先行程度ならあるかもしれない。特に『誓い』&『Don't Think Twice』に関してはゲームのプロモーションが世界規模である事からある程度公開方法に縛りがかかるかもしれない。いずれはCDアルバムに収録されるのだから、というのは真実としても、「いち早く」とか「一刻を争って」とかいう気持ちが強い向きは、Spotifyでもどこでもいいからまずは何かの定額配信サービスを試してみるのがよいだろう。

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