無意識日記
宇多田光 word:i_
 



「新鮮さ」。早い話が、こういうのは何度も練り込んで歌い方を精微にしていったものよりは、特別なフィーリングを捉えたパフォーマンスを録音する事に腐心すべきだ、と。

ヒカルのカバーの中でいえば、例えば尾崎豊の「I Love You」がある。2004年に尾崎のトリビュートアルバムが出る(青と緑だっけか)という事でヒカルも「I Love You」を歌うべくスタジオに入ったが、結局アルバムに収録されたのは『Bohemian Summer 2000』で歌ったライブバージョンだった。(正確には、ライブでの歌唱のトラックと伴奏のトラックを重ね合わせたもの、だったですが)

この時、21歳のヒカルがスタジオで歌ったものより17歳のヒカルがライブで歌ったものの方が評価が高かった訳だ。必ずしも恵まれた環境や、より鍛えられた歌唱力などがよいテイクに必要だとは限らない。ライブ・パフォーマンス一般に言える事ではあるのだが、特にシンガーソングライターが他人の書いた歌を歌う時というのはこの観点が余計に顕著になるのだ。したがって、「丸の内サディスティック」を再録音したからといってラジオのカラオケを上回る出来になるかといえば案外未知数なのだ。


しかし、今回は普段のカバーとは大きな違いがある。言うまでもなく、なりくんの存在だ。

ズバリ、この1年でなりくんの歌唱力が飛躍的に向上していれば、たとえヒカルの歌唱に何の上乗せがなかったとしても、デュエットテイクの完成度も増強される。そこに期待するのが現実的だろう。

勿論、ヒカルの歌唱に「何の上乗せもない」事態がある可能性も相当低い。1年を無為に過ごしてきた訳がない。特に今はツアーに向けて歌唱を鍛えている時期かもしれない。更にパワーアップした歌唱も当然期待できる。ただし、それを確約する所にまで行くつもりは、ない。

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先週、ヒカルが椎名林檎姐様のトリビュートアルバムになりくんとのデュエットで参加する事が発表された。曲は「丸の内サディスティック」。昨年の3月、嗚呼もう1年前なんだね、にヒカルがなりくんのラジオ番組に出演した折、林檎姐から直接カラオケ音源を借り受けて同曲の「Exro Ver,」を歌ったが、今度はそういうクレジットがない為、オリジナルの丸サになるのではないかと予想される。

早速、そのラジオでの2人のカラオケぶりを思い出して、「カラオケでここまでなら正式版はもっとクォリティーが上がるに違いない」と期待に胸を膨らませる人たちが続出している。結構な事だ。

が、そううまくいくのかなと少々疑義を感じたのが第一印象だ。カバーというのは既に出来上がった楽曲をある程度なぞる作業である。故に、自分でいちから作り上げた楽曲を歌う時とは異なるアプローチが必要となる。

往々にして、余程凝ったカバーでない場合は、カバーを歌った時にいちばんいい出来が最初のテイクだったりするものだ。鍵は新鮮さにある。自作曲は隅から隅まで知り尽くしていて、レコーディングの段階では新鮮さというより「実際どうなるのだろう?」とか「うまくいくかな」といった観点から歌いがちである。

カバーを歌うとなると、そのオリジナルを聴いた時に「うわ! いい曲! 歌ってみたい!」となるのが本道だ。なれば、やはりその新鮮な感動を持ち込んでレコーディングするのが得策となる。

今度のバージョンではその"新鮮さ"が担保されていたかどうかがポイントとなる訳である。

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