無意識日記
宇多田光 word:i_
 



個人的な事を言わせてもらえれば(手前の日記なんだから好きに書けばよかろうに)、いまでもいちばん好みの作風は『EXODUS』だ。プロデュースできるならこういう方向性でいくだろう。しかし、曲の出来がいちばんいいなと感じているのは『HEART STATION』である。最も強烈な瞬間を与えたアルバムというのなら『桜流し』と『真夏の通り雨』を擁する『Fantome』だろう。そしていちばんよく聴くアルバムは『This Is The One』である。ただ、Pop Musicianとしてのヒカルのピークを指し示したアルバムといえば『Single Collection Vol.2』だろう。『Goodbye Happiness』と『Can't Wait 'Til Christmas』はひとつの到達点を示したといえる―

―という風に、Hikaruの作品は単なる個人的な好みだけで語るには余りにも豪華なラインナップが並ぶのだ。単なる「好き」以上の何かを歌が常に運んでくる為、自分の好みにこだわる姿が酷く小さく感じられる。だからといって普段自分の好みを卑下しているのかというとそんな事はなく、寧ろ全開であんなアルバムやらこんな曲やらを買って聴いている。ある意味Hikaruだけが規格外の「惹きつけて止まない何か」を持ち続けていて目が離せない。

今、『大空で抱きしめて』『Forevermore』『あなた』『誓い』と来ている。既に豪華で名作は確定なのだが、一体次作は自分にとってどんなアルバムになるかというと想像がつかない。まぁ曲を全部聴いた後でも「このアルバムは自分にとって何なのか」という問いに答えるのは難しい。今考えても仕方がないのだが、『Single Collection Vol.2』でひとつのピークを作ったヒカルが『Fantome』から新しい山に登り始めている以上、2010年までとは違う新しい何かを模索している段階だとみるのはそこまで間違いではないだろう。こちらの感性の受容度でいえば既に『Fantome』がもうひとつのピークを形成しているようなものなのだが、このアルバムは何だかんだ"隙だらけ"なので、どちらかというと『First Love』の無防備さが近い。ここから煮詰めまくって『DEEP RIVER』以降の隙のない高密度な作品を作れるのだとしたら、身震いするほど恐ろしい。そんな領域はこちらの感性の受容度を遥かに超えて「何が何だかわからないも
の」になっている可能性がある。そこまできたら私も「もっと若い感性で居たかった」と詮無い"後悔"をする羽目になるだろう。

取り敢えず次はまだ『Distance』程度の密度でいて欲しいところだが、次作は『誓い』が収録される以上同じくキングダムハーツシリーズの主題歌を擁する『DEEP RIVER』と『ULTRA BLUE』の"続編"でもある筈なので、その複合的魅力は計り知れないものになるだろうな。全く、嫌になるw

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両面待ちといっても積極的なのか消極的なのかよくわからないんだけどな。

人として、と言っても近年ヒカルからのアウトプットは、主に『Message from Hikki』的な意味で目減りしているから今のヒカルがどういう人なのか、というのは実はよくわからない。が、ツイートの端々から窺える感性は「特にこの人変わってないな」と確認させるに十分な材料だろう。定期的にラジオでもやってくれりゃいいんだけどね。

「当初の誤算」というのは、ある。昔、大体2000年頃位までは宇多田ヒカルという人は天才過ぎて、歌にとどまらない活動に手を伸ばすのではと予想していた。レオナルド・ダヴィンチのように、あらゆる方面で一流の仕事をするような。デビュー作で掛け値なしの頂点に立ったのだから以後どんな活動でもできるだろう、音楽性云々より人として興味がある、という視点に立った場合、こちらに届くアウトプットが存在すれば何でもよく、それが音楽に限られる必要はない、そう思っていた。

だから売れまくってるのに大学に行くときいた時も、嗚呼きっと色んな事がやりたいのだろうなと解釈していたのだがそこらへんから事情(こちらの解釈)が変わる。ますます音楽制作のペースが早くなり、音楽への「これ賭け感」が強まっていった。特に『FINAL DISTANCE』以降のフロー状態、イン・ザ・ゾーンなアウトプットの数々に「命削り始めてない?」という疑問を抱くに至った。ここから3rdアルバム、1st、4th、5thと「これ賭け感」そのままの作品を次々発表していく。思えばこの20代前半に極端に音楽に振り切った生活を営んだ為、有り体に言えば脳の形が決まってしまった。故に「歌は家業」と言われて「ああ納得だよ」と最終的に言うしかなかったのだ。

だからこちらも音楽に、歌にこだわっている。私の中ではそういう順序なのである。それまでは、歌うのはいつでもいいし、小説を書いたり声優に挑戦したり(誰だ笑ってんの)科学者になったり(これは『EXODUS』の頃まで言ってた)と人生を多角的に構成するのについていこう、なんて思ってたのだけど、今やこんな感じ。脳の形が決まる頃に音楽で塗り潰したのだからもう後戻りはできない。

6年半の間音楽以外の活動もあっただろうし一時期はもう曲が書けないのではないかと落ち込んだりもした。でも、総てはもう遅い。音楽以外に携わってもそれは息抜きでしかないし、代わりに歌えば必ず成功する。つまり、歌って成功するか、歌わずに大人しくなるかの二択でしかない。きっと小説を書いたら素晴らしいものが出来上がるだろうが、何年もかけて書き上げた長編小説より2時間で作った歌の方が評価が高くなるだろう。そうなるように生きてきてしまっているのだから。なので人としてみても音楽家としてみても同じなのだった。

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