ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

町で見つけたオモシロごはん29…新宿 『京王百貨店・駅弁大会』の、タイの駅弁に鯨カツ弁当

2006年03月18日 | ◆町で見つけたオモシロごはん
 今年で41回を数える京王百貨店の駅弁大会が、最初に催されたのは昭和41年。以来、毎年欠かさずに続いているという歴史、参加する駅弁業者や扱う駅弁の種類、さらに人出と売上額も含めて、日本一の駅弁大会といっても過言ではない。単に駅弁を並べて売るだけにとどまらず、様々な名物企画があるのもここならではの魅力だ。昼時になり人ごみが激しい会場の中、家族のリクエストに応じた弁当を買い揃えながら、せっかくだから自分はこの「企画モノ」の駅弁を狙ってみることに。並んだり待ったりしながらも、何とか5つの駅弁を買うことができ、とりあえずひと安心である。

 会場を後にして駅弁が入った紙袋を提げて地下鉄に乗ると、同じように膝の上に大きな紙袋をのせた乗客の姿もちらほら見られる。家に帰って家族で駅弁でお昼ご飯、といった感じだろうか。こちらはこの後ひと仕事で帰るのは夕方になるため、買い求めたみんなの駅弁は晩飯用。自分の分のうちひとつは昼飯代わりのため、仕事先でお先に頂くことにした。作業デスクの上で開いた折は、駅弁といっても何と、海外の駅弁。独特の書体のタイ語の文字に、駅に到着する列車を描いた墨絵風のイラストが、ほかの駅弁とは異なり実に異国情緒満点だ。

 京王百貨店駅弁大会の名物企画のひとつ「海外駅弁」は、今回が第3弾である。タイのアユタヤ駅で売っている、「ガパオラートカーオサイクロン」なる駅弁で、豚ひき肉と「ガパオ」というタイのハーブを炒めた弁当。2001年の第1弾のときに出したタイのいかめしの調理を担当した、高田馬場などにタイ料理店を出す「スパイスロード」が調理したもので、ふたを開けると、豚肉にタケノコとピーマンをチリ、ニンニク、カキ油で炒めたおかずと、目玉焼きがのったご飯が詰められていた。アジアンフードならではのスパイシーな香りが独特で、これは食欲をそそる。面白いのが、金属製のれんげ付きなこと。よく見るとシマウマの絵柄に「ThaiLand」と刻印がされていて、ちょっとうれしいおまけである。

 タイのグリーンカレーにちょっと似た感じだな、とれんげでおかずをすくってご飯に載せ、まぜごはんのようにしてひと口。やや甘い味付けのひき肉に、歯ごたえサックリのタケノコがごはんによく合い、ピリッと刺激的な辛さでどんどん食べられる… と思ったら、後からじわじわと辛味が広がってきた。数種類の唐辛子が混ぜ込んであるようで結構刺激的、目玉焼きをくずして混ぜるのが地元流とのことで、やってみるとマイルドになって食べやすい。長めに切ってご飯にのっている青ネギをかじると、爽やかで口直しになる。食べ進めるにつれ、次第に汗が全身からじわっと噴き出してきて、真冬日でかなり冷え込んでいるというのに体がほてるほど。本場ではアジア特有の暑さが厳しく湿度の高い中で、汗だくになって食べる料理なのだろう。

 仕事を終えて夕方に自宅に帰ったら、家族みんなが駅弁をお待ちかねの様子。さっそくリクエストに合わせて買ってきた駅弁を、みんなにひとつずつ配る。家内と娘は注文どおり、イクラがたっぷりのった宮古駅の「かにちらし弁当」、息子は黒豚の味噌漬けがおかずの鹿児島県出水駅の「かごしま黒ぶた弁当」。そして自分の本日2個目の弁当は、長崎駅の「ながさき鯨カツ弁当」だ。パッケージには歌川國芳画の「宮本武蔵と巨鯨」画が描かれ、大きな鯨にまたがって鯨と対決する宮本武蔵の姿がユニーク。紙箱を開くと炊き込みご飯の上に、ご飯を覆い隠すほど大きな鯨カツがのっていて、見るからにボリューム満点である。

 こちらの弁当は、京王百貨店駅弁大会のもうひとつの名物企画「駅弁対決」でとりあげられているものだ。駅弁対決はこれまで、富山駅の「ますのすし」対日光の「鱒寿司」のマス対決、福井駅の「越前かにめし」対釧路の「たらば寿司」のカニ対決、豊橋駅の「うなぎ飯」対高松駅の「あなご飯」のウナギVSアナゴなどが行われており、いずれも売り上げ増につながっている目玉企画なのだ。そして今年は、カツ対決とカニ対決の二本立て。鯨カツ弁当の相手は、名古屋名物の味噌カツが入った名古屋駅の「びっくり味噌カツ弁当」で、ちらしには「受験シーズンに向けて、陸対海のカツ(勝つ)対決」と銘打ち、対決ムードを盛り上げている。

 ひと切れつまむと思いのほか柔らか、かみしめると肉汁があふれるほど中はしっとりしていて、なかなか上品な味わいでうまい。調整元である長崎の「くらさき」は、市街で4代続く鯨専門店で、中でもながさき鯨カツはここの看板商品。駅弁は長崎駅で販売されており、1日に数が決まった限定品という。長崎はかつて、捕鯨が盛んな土地だったが、現在は商業捕鯨禁止のため、弁当に使われているのは鯨資源の調査のために認められている「調査捕鯨」で捕獲した、南氷洋のミンク鯨。これを秘伝のタレに漬け込んで揚げてあるため、くせがなく食べやすいのはいいが、鯨独特の風味にやや欠けるのがちょっと物足りないかも。鯨肉は牛肉や豚肉に比べ、赤身が多く脂肪が少ないため高タンパク低カロリー、健康にもいいのがありがたい。

 鯨カツや鯨そぼろをつまんではビールをあおり、さらに鯨の本皮をご飯と炊き込んだ「鯨飯」もかきこんで、と、鯨のうまさを存分に楽しんでごちそうさま。食後、家内に昼に食べたタイの駅弁のことを話したら、珍しいものなので食べてみたいと興味津々の様子だ。大会は来週の水曜までなので、もう一度行ってみるか。その時にはもうひとつの駅弁対決である「カニ対決」の、ズワイ・タラバ・花咲ガニそれぞれの駅弁も試してみることにしよう。(2006年1月食記)