昨日滞在した広島では2枚のお好み焼きを食べ歩き、この日訪れた長崎県の西寄りに位置する佐世保では、最近全国的にも注目されるようになった名物、アメリカンサイズの佐世保バーガーを食べ歩くことになった。ベーコンエッグバーガーをたて続けにふたつ平らげたらさすがに腹いっぱいである。昨日はお好み焼き屋のはしごの合間に、広島駅前の愛友市場を歩いたのを思い出し、この日も市場散歩で腹ごなし。ハンバーガーショップの近くで見かけた市場街へとさっそく、足をのばしてみることにした。
佐世保の代表的な市場は、佐世保駅に近い戸尾にある『戸尾市場街』である。開設されたのは戦後すぐと歴史は古く、戸尾中央市場、西海市場など複数の市場がまとまって形成されている。市場、といえば店頭に近くの海で水揚げされたとれたての鮮魚がたくさん並んでいるイメージだが、ここでは入り口付近に鮮魚の店が数軒と、カマボコ屋や乾物の店、さつまあげの店があるぐらいで、それほど多くない印象。通りに沿ってひとわたり歩いてみると、青果、花卉、衣類など生活雑貨といった店も軒を連ね、地元の客向けの生活市場らしいムードだ。乾物屋ではアジやイワシのみりん干しの他、アゴ(トビウオ)の干物や明太子のお徳用切り子など、ご当地らしい品もいくつか。精肉店では平戸牛や五島牛も見かけた。
ざっと一巡した後、珍しいものを扱っていた水産加工品の店2軒を覗いてみることにして、まず市場の入口近くにあるかまぼこ店へと引き返してみた。店頭にはガラスのふたが付いた大きなケースが配置され、中には様々な種類のちくわやかまぼこ、天ぷらなどが並んでいる。手書きの貼り紙に素材などが記されていて、ちくわはイワシ、天ぷらはアジとママカリ入りとある。ひっきりなしに買い物客がやってきては、数種類を数枚ずつまとめ買いしていて結構な繁盛ぶりだ。客の流れが切れたところで店のおじさんに話を聞くと、かつては魚市場がこの近くにあったため周辺にカマボコ屋が多く、この店も荷車で材料を運んでカマボコを作っていたという。
ケースの中の練り物をあれこれ眺めながら、佐世保では練り物の材料になる魚が結構水揚げされるのですか、聞くと、「うちのかまぼこに使うアジは地物。イワシは今はあまりとれなくなったので、よそでとれた物が混ぜてある」。イワシは昔は窒息するほど(?)とれたのに、と笑っている。アジとママカリの天ぷらも昔はアジの方が多かったが、今は混ぜる割合が半々ぐらいとか。「佐世保でここだけ」と貼り紙があるズボかまぼこというのがおすすめだそうで、ズボは島原でとれたのを使っているよ、という親父さん。ズボとは、地元でイワシのことで、このかまぼこも昔はイワシだけでつくっていたが、今はスケソウダラも混ぜてあるのだそう。
結局、イワシのちくわと天ぷらを1本買って、店を後にして再び市場街へ。ちくわはまるでつみれのようなコクのある味で、何とも後をひく。ちくわをほおばりながら、次は市場の中ほどにあった『中林商店』へも足を運んでみた。ここで扱っているのは何と、鯨。小ぢんまりした店内には赤肉をはじめ、鯨の舌「さえずり」や高級な尾の身などが保冷ケースに並び、ほかにも生姜で煮た味つけ鯨、鯨ベーコンの千切りに、ひげに付いたオキアミ瓶詰めといった珍味まで、様々な鯨の部位や加工品が並んでいる。さえずりはゆでて酢醤油やポン酢で頂くと酒の肴に最高、赤肉は刺身で、わさび醤油や生姜醤油で頂くのがいいよ、と奥から出てきた店のお兄さんが教えてくれた。
長崎では古くから捕鯨が盛んで、江戸期より五島の有川や壱岐、対馬、平戸の生月島など、島の浦ごとに「鯨組」が組織され、集団で鯨を捕っていたという。明治30年からは長崎市の近代漁業の礎として、商社を中心に大資本が投下され隆盛を見せた。しかし周知の通り、1986年に国際捕鯨委員会(IWC)の理不尽な決議により、今もなお日本では商業捕鯨が禁止されている。この店では一体、どのように商品を仕入れているのかお兄さんに聞いてみたら、調査捕鯨で捕らえた鯨を入手して販売しているとのこと。調査捕鯨とは商業捕鯨が禁止された後、鯨資源の調査を目的に許可されている捕鯨で、それにより捕れた鯨に限り食用に流通、販売することが許可されている。この店では主に、北太平洋と南氷洋の調査捕鯨で捕らえた冷凍のミンク鯨を扱っているそうである。
そんな貴重な品だけにさすがに値が張るものが多い中、店頭のケースに並んだ「湯かけ鯨」のパックは、値段も1000円程度からと手ごろだ。畝須、皮須、黒皮と記された札があり、それぞれ入っている部位が違う様子。お兄さんによると、「畝」とは鯨の下あごからへその間の、縞がある白い部分のこと。畝の内側の赤身は「須の子」と呼ばれ、畝須とはそれが一緒の部位を指している。皮須は同じく背中の皮とその内側の部分で、比べると畝須の方が皮須よりも脂肪分が少ないという。いずれも煮立った湯で1分ゆがいてから、酢味噌で食べるとうまいとのこと。
黒皮と畝須はシャキシャキ、皮須はしっとりした食感で、この店では混ぜ物でなく元からついた赤身が入っているのが特徴とのお兄さんの勧めに従い、赤身入りの畝須をひと袋買って市場を後にする。今日は熊本泊まりで、学生時代の「飲み仲間」である旧友に会う予定。酒飲みが喜びそうなこのみやげのおかげで、今宵も深酒必至だろう。(2006年2月11日食記)
佐世保の代表的な市場は、佐世保駅に近い戸尾にある『戸尾市場街』である。開設されたのは戦後すぐと歴史は古く、戸尾中央市場、西海市場など複数の市場がまとまって形成されている。市場、といえば店頭に近くの海で水揚げされたとれたての鮮魚がたくさん並んでいるイメージだが、ここでは入り口付近に鮮魚の店が数軒と、カマボコ屋や乾物の店、さつまあげの店があるぐらいで、それほど多くない印象。通りに沿ってひとわたり歩いてみると、青果、花卉、衣類など生活雑貨といった店も軒を連ね、地元の客向けの生活市場らしいムードだ。乾物屋ではアジやイワシのみりん干しの他、アゴ(トビウオ)の干物や明太子のお徳用切り子など、ご当地らしい品もいくつか。精肉店では平戸牛や五島牛も見かけた。
ざっと一巡した後、珍しいものを扱っていた水産加工品の店2軒を覗いてみることにして、まず市場の入口近くにあるかまぼこ店へと引き返してみた。店頭にはガラスのふたが付いた大きなケースが配置され、中には様々な種類のちくわやかまぼこ、天ぷらなどが並んでいる。手書きの貼り紙に素材などが記されていて、ちくわはイワシ、天ぷらはアジとママカリ入りとある。ひっきりなしに買い物客がやってきては、数種類を数枚ずつまとめ買いしていて結構な繁盛ぶりだ。客の流れが切れたところで店のおじさんに話を聞くと、かつては魚市場がこの近くにあったため周辺にカマボコ屋が多く、この店も荷車で材料を運んでカマボコを作っていたという。
ケースの中の練り物をあれこれ眺めながら、佐世保では練り物の材料になる魚が結構水揚げされるのですか、聞くと、「うちのかまぼこに使うアジは地物。イワシは今はあまりとれなくなったので、よそでとれた物が混ぜてある」。イワシは昔は窒息するほど(?)とれたのに、と笑っている。アジとママカリの天ぷらも昔はアジの方が多かったが、今は混ぜる割合が半々ぐらいとか。「佐世保でここだけ」と貼り紙があるズボかまぼこというのがおすすめだそうで、ズボは島原でとれたのを使っているよ、という親父さん。ズボとは、地元でイワシのことで、このかまぼこも昔はイワシだけでつくっていたが、今はスケソウダラも混ぜてあるのだそう。
結局、イワシのちくわと天ぷらを1本買って、店を後にして再び市場街へ。ちくわはまるでつみれのようなコクのある味で、何とも後をひく。ちくわをほおばりながら、次は市場の中ほどにあった『中林商店』へも足を運んでみた。ここで扱っているのは何と、鯨。小ぢんまりした店内には赤肉をはじめ、鯨の舌「さえずり」や高級な尾の身などが保冷ケースに並び、ほかにも生姜で煮た味つけ鯨、鯨ベーコンの千切りに、ひげに付いたオキアミ瓶詰めといった珍味まで、様々な鯨の部位や加工品が並んでいる。さえずりはゆでて酢醤油やポン酢で頂くと酒の肴に最高、赤肉は刺身で、わさび醤油や生姜醤油で頂くのがいいよ、と奥から出てきた店のお兄さんが教えてくれた。
長崎では古くから捕鯨が盛んで、江戸期より五島の有川や壱岐、対馬、平戸の生月島など、島の浦ごとに「鯨組」が組織され、集団で鯨を捕っていたという。明治30年からは長崎市の近代漁業の礎として、商社を中心に大資本が投下され隆盛を見せた。しかし周知の通り、1986年に国際捕鯨委員会(IWC)の理不尽な決議により、今もなお日本では商業捕鯨が禁止されている。この店では一体、どのように商品を仕入れているのかお兄さんに聞いてみたら、調査捕鯨で捕らえた鯨を入手して販売しているとのこと。調査捕鯨とは商業捕鯨が禁止された後、鯨資源の調査を目的に許可されている捕鯨で、それにより捕れた鯨に限り食用に流通、販売することが許可されている。この店では主に、北太平洋と南氷洋の調査捕鯨で捕らえた冷凍のミンク鯨を扱っているそうである。
そんな貴重な品だけにさすがに値が張るものが多い中、店頭のケースに並んだ「湯かけ鯨」のパックは、値段も1000円程度からと手ごろだ。畝須、皮須、黒皮と記された札があり、それぞれ入っている部位が違う様子。お兄さんによると、「畝」とは鯨の下あごからへその間の、縞がある白い部分のこと。畝の内側の赤身は「須の子」と呼ばれ、畝須とはそれが一緒の部位を指している。皮須は同じく背中の皮とその内側の部分で、比べると畝須の方が皮須よりも脂肪分が少ないという。いずれも煮立った湯で1分ゆがいてから、酢味噌で食べるとうまいとのこと。
黒皮と畝須はシャキシャキ、皮須はしっとりした食感で、この店では混ぜ物でなく元からついた赤身が入っているのが特徴とのお兄さんの勧めに従い、赤身入りの畝須をひと袋買って市場を後にする。今日は熊本泊まりで、学生時代の「飲み仲間」である旧友に会う予定。酒飲みが喜びそうなこのみやげのおかげで、今宵も深酒必至だろう。(2006年2月11日食記)