広島をスタートに、九州を縦断する食べ歩きの旅も、鹿児島でいよいよ最後となった。この日は月曜日、朝の飛行機で鹿児島空港から帰京する予定である。飛行機に乗る前に朝食を済まそうと、やや早めの7時半にホテルをチェックアウトして、駅前のバスターミナルと向かった。周辺に開いている喫茶店でもないか探していると、バスターミナルに隣接してずいぶん賑わっている一角があるのを見つけた。どうやら市場街のようで、ターミナルの向かいには店頭にうまそうな薩摩揚げを各種並べた店、その向こうには仕入れの最中といった感じの鮮魚店も見える。店はさらに先へと並んでいるようで、何か朝飯がわりになりそうなものがあるかも知れない。早起きのおかげでバスの出発時間まで余裕があるので、ちょっと足をのばしてみることにした。
バスターミナルのやや先の細い路地を左に入ると、テントの大屋根の下に農産物を扱う露店がズラリと集まる一角に出くわした。どうやらここが、市場街の中心らしい。鹿児島中央駅のすぐ近くの一角に、およそ70店ほどの露店が軒を連ねるこの『鹿児島駅前朝市』、戦後に近郊の農家が農産品を持ち寄って商売をしたのが起源といわれるだけに、扱う品は野菜や果物、花が中心である。テントの下をぶらぶらと歩いていると、農産品の中でもご当地・鹿児島特産の品が結構目につく。サツマイモをたくさん並べた店では、金時、べにさつき、こがね、こがねむらさきなど、特産だけに種類が豊富だ。店の人に違いを聞いてみたら、こがねは中が白っぽく、こがねむらさきは皮は白っぽいが名の通り中は紫色とのこと。「見かけは様々だけど、味と値段はどれもだいたい同じだよ」と笑っている。サツマイモは主に、温泉で有名な鹿児島市の南寄りにある指宿で栽培しているという。南国の暖かい気候に恵まれているおかげで柑橘類の栽培も盛んで、別の店には店頭にミカンのほかキンカン、ハッサク、巨大なばんぺいゆなど、大小様々なミカンの仲間が。オレンジや黄色などどれも色鮮やかで、何だか明るい印象の市場である。
そしてサツマイモに並ぶ鹿児島特産の野菜といえば、巨大な桜島大根。大根といっても形はカブに似た丸形で、店頭に人の頭より大きいのがゴロリと鎮座しているのが目をひく。店の親父さんに重さを聞いてみたら「これでひとつ10キロぐらい。小さい方で普通は15~20キロ、大きいものだと30キロ以上になる」。主に市街の対岸に浮かぶ火山の島・桜島で栽培しており、ほか鹿児島近郊と山の方でも作っているという。これだけ大きくなるのは、火山灰を含む桜島の土壌と温暖な気候のおかげだよ、とおじさん。調理方法も特別なのかと思ったら、切ってしまえば普通の大根とそれほど差なはなく、煮付けにするとうまいとか。普通の大根と水分量は変わらないのに煮くずれしにくく、煮込むと柔らかく甘味が増すので、おでんや煮物、また漬け物にも適しているそうである。「でも大き過ぎてなかなか食べきれないのか、最近は丸のままだとなかなか売れないね」とおじさんが話す隣には、数個に割ってやや割安で売っている大根もあった。
テントの周辺にも数軒の店が並んでいて、テントの向かいには小規模なスーパー、その店頭にはトロ箱を並べた鮮魚の露店もある。市場には鮮魚や水産加工品の店もあるが、ざっと見たところ3軒ほどと少ないよう。鹿児島は錦江湾と近海を流れる黒潮など優れた漁場に恵まれ、春はカツオ、夏はキビナゴやマダコ、秋はサバやカツオ、冬はブリやマイワシなど、様々な種類の魚が水揚げされる魚どころだけに、ちょっと残念である。鮮魚の露店ではおばちゃんがアジを袋詰め中、札には大分産とあり、20センチぐらいのいい型だ。刺身にすると最高とのことで、ほか高知の本サバも丸々していてうまそうだ。そのとなりの木箱にいっぱい入った小魚は、昨晩天文館の郷土料理の店「熊襲亭」で刺身で食べたキビナゴ。「鹿児島でおいしい魚と言えばこれ。あとはつけあげ(薩摩揚げ)だね」と話すおばちゃんによると、キビナゴは料理屋だけでなく、一般の家庭の晩ごはんのおかずでも出るという。手開きにして刺身にして酢味噌で食べるほか、塩焼きなど総菜にももってこいなのだとか。
店頭を冷やかしながらざっと市場を一巡して時計を見ると、空港へ向かうリムジンバスが出発するまであと30分ほどしかなくなった。そろそろ朝飯を頂く店を決めて、最後の最後のおみやげも仕入れて… と、何だか忙しくなってきたようだ。朝飯と買い物編は、次号にて。(2006年2月13日食記)
バスターミナルのやや先の細い路地を左に入ると、テントの大屋根の下に農産物を扱う露店がズラリと集まる一角に出くわした。どうやらここが、市場街の中心らしい。鹿児島中央駅のすぐ近くの一角に、およそ70店ほどの露店が軒を連ねるこの『鹿児島駅前朝市』、戦後に近郊の農家が農産品を持ち寄って商売をしたのが起源といわれるだけに、扱う品は野菜や果物、花が中心である。テントの下をぶらぶらと歩いていると、農産品の中でもご当地・鹿児島特産の品が結構目につく。サツマイモをたくさん並べた店では、金時、べにさつき、こがね、こがねむらさきなど、特産だけに種類が豊富だ。店の人に違いを聞いてみたら、こがねは中が白っぽく、こがねむらさきは皮は白っぽいが名の通り中は紫色とのこと。「見かけは様々だけど、味と値段はどれもだいたい同じだよ」と笑っている。サツマイモは主に、温泉で有名な鹿児島市の南寄りにある指宿で栽培しているという。南国の暖かい気候に恵まれているおかげで柑橘類の栽培も盛んで、別の店には店頭にミカンのほかキンカン、ハッサク、巨大なばんぺいゆなど、大小様々なミカンの仲間が。オレンジや黄色などどれも色鮮やかで、何だか明るい印象の市場である。
そしてサツマイモに並ぶ鹿児島特産の野菜といえば、巨大な桜島大根。大根といっても形はカブに似た丸形で、店頭に人の頭より大きいのがゴロリと鎮座しているのが目をひく。店の親父さんに重さを聞いてみたら「これでひとつ10キロぐらい。小さい方で普通は15~20キロ、大きいものだと30キロ以上になる」。主に市街の対岸に浮かぶ火山の島・桜島で栽培しており、ほか鹿児島近郊と山の方でも作っているという。これだけ大きくなるのは、火山灰を含む桜島の土壌と温暖な気候のおかげだよ、とおじさん。調理方法も特別なのかと思ったら、切ってしまえば普通の大根とそれほど差なはなく、煮付けにするとうまいとか。普通の大根と水分量は変わらないのに煮くずれしにくく、煮込むと柔らかく甘味が増すので、おでんや煮物、また漬け物にも適しているそうである。「でも大き過ぎてなかなか食べきれないのか、最近は丸のままだとなかなか売れないね」とおじさんが話す隣には、数個に割ってやや割安で売っている大根もあった。
テントの周辺にも数軒の店が並んでいて、テントの向かいには小規模なスーパー、その店頭にはトロ箱を並べた鮮魚の露店もある。市場には鮮魚や水産加工品の店もあるが、ざっと見たところ3軒ほどと少ないよう。鹿児島は錦江湾と近海を流れる黒潮など優れた漁場に恵まれ、春はカツオ、夏はキビナゴやマダコ、秋はサバやカツオ、冬はブリやマイワシなど、様々な種類の魚が水揚げされる魚どころだけに、ちょっと残念である。鮮魚の露店ではおばちゃんがアジを袋詰め中、札には大分産とあり、20センチぐらいのいい型だ。刺身にすると最高とのことで、ほか高知の本サバも丸々していてうまそうだ。そのとなりの木箱にいっぱい入った小魚は、昨晩天文館の郷土料理の店「熊襲亭」で刺身で食べたキビナゴ。「鹿児島でおいしい魚と言えばこれ。あとはつけあげ(薩摩揚げ)だね」と話すおばちゃんによると、キビナゴは料理屋だけでなく、一般の家庭の晩ごはんのおかずでも出るという。手開きにして刺身にして酢味噌で食べるほか、塩焼きなど総菜にももってこいなのだとか。
店頭を冷やかしながらざっと市場を一巡して時計を見ると、空港へ向かうリムジンバスが出発するまであと30分ほどしかなくなった。そろそろ朝飯を頂く店を決めて、最後の最後のおみやげも仕入れて… と、何だか忙しくなってきたようだ。朝飯と買い物編は、次号にて。(2006年2月13日食記)