ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

魚どころの特上ごはん24…熊本 『天草』の、地酒「香露」にガラカブとオコゼの造り

2006年03月20日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
 広島でお好み焼きとカキ、博多でモツ鍋に屋台、佐世保でハンバーガーにクジラにカキ筏での焼きガキと、食べ歩きながら西へと流れ熊本へとやってきた。駅から路面電車に乗って、熊本屈指の繁華街である通町筋で下車。パルコの前で学生時代からの旧友と待ち合わせてひと安心である。友人の案内で、熊本の夜を満喫しようとしたところ、「候補の店が3軒あるのだが、どの店がよさそうかたたずまいで決めてくれ」とのこと。各地を食べ歩いている私にすれば、店の玄関をひと目見ただけで、使っている食材も板前の腕もたちどころに分かる… なんてことあるわけない。何ともいいかげん(?)な先達に率いられ、上通りから熊本城に近い下通りへと、お勧め候補を覗きながらぶらり歩いてみる。

 結局、3軒の店全部に立ち寄った結果、下通のアーケードを抜けた花畑町の飲食店街にある居酒屋『天草』に腰を据えることに決めた。暖簾をくぐると週末のせいか、座敷が中心の店内には仕事帰りのサラリーマンでほぼ満席の様子。遅い時間なのに親子連れの姿も見られ、熊本の人たちは週末の夜は宵っ張りなのを思い出す。自分たちも座敷に腰を下ろして品書きを広げると、店名の通り天草周辺で水揚げされた魚介が豊富に揃っている。ほか馬刺しなど熊本名物の一品料理もあり、これら数品とせっかくだから天草の地魚の造りをドン、と頼むことにした。注文をとりにきたおばちゃんに、おすすめの天草の魚を造りにしてほしい、とお願いと頼むと、「ならガラカブとオコゼがおすすめ。でもちょっと高いよ」。ともに1匹で数千円する、と、ご親切に財布の中身に気を使ってくれる。

 先に運ばれてきた馬刺のレバ刺しとゴマサバの胡麻醤油和えを肴に、久しぶりの再会を祝してさっそく乾杯。ゴマサバの胡麻醤油和えには、長崎で水揚げされた脂がよくのったゴマサバを使っており、九州特有の甘い醤油がサバの濃厚なを強調している。馬刺しのレバ刺しは胡麻油で頂く仕組みで、たっぷりのゴマに胡麻油の香ばしい風味のおかげで、歯ごたえシャックリと食べやすい。ビールの中ジョッキなどあっという間で、友人のすすめで地酒の「香露」を追加する。熊本では貴重でちょっと高価な酒、と話す友人によると、代表的な吟醸酒として越の寒梅と並び称されるほどの酒とのこと。醸造元の熊本県酒造研究所は、「吟醸酒の神様」といわれる野白金一氏が、吟醸酒作りに欠かせない熊本酵母を作り出したことで知られる。こってり味のサバやトロリとスタミナ満点のレバ刺しの合間にグッといくと、切れ味が良くすっと飲みやすい。

 予算に気を遣ってか、おろすまえに「ガラカブとオコゼはこれぐらいのでいい?」と、おばちゃんがやや小さめなのを選んで桶に入れて持ってきた。桶を覗くと1匹は真っ黒で、頭が大きく背びれがグッと張り出している。浅い海でとれるのは黒く、深い海には赤いのもいるとおばちゃん。そしてもう一匹はトゲだらけの体にでこぼこの頭、大きな口とちょっとグロテスクだ。ともに少々個性的な外見とは対照的に、大きめの角皿には白身の造りがキモの造りと一緒に、2匹分たっぷり盛って運ばれてきた。どちらも不知火海や有明海、東シナ海を漁場とする天草で水揚げされる魚介の中でも、指折りの高級魚なのだ。

 ポン酢と甘めの醤油、薬味はショウガと紅葉おろしが添えてあり、まずはガラカブを数切れポン酢につけてひと口。ガラカブは日本の各地に棲息する磯魚で、関東ではカサゴ、関西ではガシラ、博多や長崎ではアラカブと呼ばれている。冬が旬で脂肪が少ない淡泊な白身のため、鍋や汁物に向いているが、造りにするとまた上品。白身はシコシコと濃厚な味、キモはしゃっきりと瑞々しい。身でアサツキを巻いて食べるのが地元流、と友人が勧めるのでやってみると、身の甘味がひき立ってなかなかいける。そしてオコゼもまた、白身の味の上品さは特筆もの。こちらも造りはもちろん鍋や汁物、唐揚げにしてもうまいという。キモはとろり、白身はさっぱりしていて、後味に潮の香りがする。皮の部分は湯引きにしてあるので、旨味が強調されシコシコとうまい。

 くせのないあっさりした味わいのおかげで、皿の上の造りがなくなるのはあっという間。一緒に「香露」も程良く進んだ後の締めくくりに、頭と中骨を味噌汁にしてもらえるのがうれしい。甘い白味噌仕立てで骨に付いた身をしゃぶると、ガラカブの皮のゼラチン質がトロリとうまい。連日連夜の食べ歩きとはしご酒で少々くたびれ気味なので、今日はこれにて早じまい… といきたいところだが、友人が夜はまだまだこれから、といった感じである。お気に入りのショットバーがあるというので、もちろんのことお付き合い。酒飲み同士の久々の再会で旧交を温めるには、1軒2軒ぐらいではまだまだ足りなそうである。(2006年2月11日食記)

町で見つけたオモシロごはん29…新宿 『京王百貨店・駅弁大会』の、タイの駅弁に鯨カツ弁当

2006年03月18日 | ◆町で見つけたオモシロごはん
 今年で41回を数える京王百貨店の駅弁大会が、最初に催されたのは昭和41年。以来、毎年欠かさずに続いているという歴史、参加する駅弁業者や扱う駅弁の種類、さらに人出と売上額も含めて、日本一の駅弁大会といっても過言ではない。単に駅弁を並べて売るだけにとどまらず、様々な名物企画があるのもここならではの魅力だ。昼時になり人ごみが激しい会場の中、家族のリクエストに応じた弁当を買い揃えながら、せっかくだから自分はこの「企画モノ」の駅弁を狙ってみることに。並んだり待ったりしながらも、何とか5つの駅弁を買うことができ、とりあえずひと安心である。

 会場を後にして駅弁が入った紙袋を提げて地下鉄に乗ると、同じように膝の上に大きな紙袋をのせた乗客の姿もちらほら見られる。家に帰って家族で駅弁でお昼ご飯、といった感じだろうか。こちらはこの後ひと仕事で帰るのは夕方になるため、買い求めたみんなの駅弁は晩飯用。自分の分のうちひとつは昼飯代わりのため、仕事先でお先に頂くことにした。作業デスクの上で開いた折は、駅弁といっても何と、海外の駅弁。独特の書体のタイ語の文字に、駅に到着する列車を描いた墨絵風のイラストが、ほかの駅弁とは異なり実に異国情緒満点だ。

 京王百貨店駅弁大会の名物企画のひとつ「海外駅弁」は、今回が第3弾である。タイのアユタヤ駅で売っている、「ガパオラートカーオサイクロン」なる駅弁で、豚ひき肉と「ガパオ」というタイのハーブを炒めた弁当。2001年の第1弾のときに出したタイのいかめしの調理を担当した、高田馬場などにタイ料理店を出す「スパイスロード」が調理したもので、ふたを開けると、豚肉にタケノコとピーマンをチリ、ニンニク、カキ油で炒めたおかずと、目玉焼きがのったご飯が詰められていた。アジアンフードならではのスパイシーな香りが独特で、これは食欲をそそる。面白いのが、金属製のれんげ付きなこと。よく見るとシマウマの絵柄に「ThaiLand」と刻印がされていて、ちょっとうれしいおまけである。

 タイのグリーンカレーにちょっと似た感じだな、とれんげでおかずをすくってご飯に載せ、まぜごはんのようにしてひと口。やや甘い味付けのひき肉に、歯ごたえサックリのタケノコがごはんによく合い、ピリッと刺激的な辛さでどんどん食べられる… と思ったら、後からじわじわと辛味が広がってきた。数種類の唐辛子が混ぜ込んであるようで結構刺激的、目玉焼きをくずして混ぜるのが地元流とのことで、やってみるとマイルドになって食べやすい。長めに切ってご飯にのっている青ネギをかじると、爽やかで口直しになる。食べ進めるにつれ、次第に汗が全身からじわっと噴き出してきて、真冬日でかなり冷え込んでいるというのに体がほてるほど。本場ではアジア特有の暑さが厳しく湿度の高い中で、汗だくになって食べる料理なのだろう。

 仕事を終えて夕方に自宅に帰ったら、家族みんなが駅弁をお待ちかねの様子。さっそくリクエストに合わせて買ってきた駅弁を、みんなにひとつずつ配る。家内と娘は注文どおり、イクラがたっぷりのった宮古駅の「かにちらし弁当」、息子は黒豚の味噌漬けがおかずの鹿児島県出水駅の「かごしま黒ぶた弁当」。そして自分の本日2個目の弁当は、長崎駅の「ながさき鯨カツ弁当」だ。パッケージには歌川國芳画の「宮本武蔵と巨鯨」画が描かれ、大きな鯨にまたがって鯨と対決する宮本武蔵の姿がユニーク。紙箱を開くと炊き込みご飯の上に、ご飯を覆い隠すほど大きな鯨カツがのっていて、見るからにボリューム満点である。

 こちらの弁当は、京王百貨店駅弁大会のもうひとつの名物企画「駅弁対決」でとりあげられているものだ。駅弁対決はこれまで、富山駅の「ますのすし」対日光の「鱒寿司」のマス対決、福井駅の「越前かにめし」対釧路の「たらば寿司」のカニ対決、豊橋駅の「うなぎ飯」対高松駅の「あなご飯」のウナギVSアナゴなどが行われており、いずれも売り上げ増につながっている目玉企画なのだ。そして今年は、カツ対決とカニ対決の二本立て。鯨カツ弁当の相手は、名古屋名物の味噌カツが入った名古屋駅の「びっくり味噌カツ弁当」で、ちらしには「受験シーズンに向けて、陸対海のカツ(勝つ)対決」と銘打ち、対決ムードを盛り上げている。

 ひと切れつまむと思いのほか柔らか、かみしめると肉汁があふれるほど中はしっとりしていて、なかなか上品な味わいでうまい。調整元である長崎の「くらさき」は、市街で4代続く鯨専門店で、中でもながさき鯨カツはここの看板商品。駅弁は長崎駅で販売されており、1日に数が決まった限定品という。長崎はかつて、捕鯨が盛んな土地だったが、現在は商業捕鯨禁止のため、弁当に使われているのは鯨資源の調査のために認められている「調査捕鯨」で捕獲した、南氷洋のミンク鯨。これを秘伝のタレに漬け込んで揚げてあるため、くせがなく食べやすいのはいいが、鯨独特の風味にやや欠けるのがちょっと物足りないかも。鯨肉は牛肉や豚肉に比べ、赤身が多く脂肪が少ないため高タンパク低カロリー、健康にもいいのがありがたい。

 鯨カツや鯨そぼろをつまんではビールをあおり、さらに鯨の本皮をご飯と炊き込んだ「鯨飯」もかきこんで、と、鯨のうまさを存分に楽しんでごちそうさま。食後、家内に昼に食べたタイの駅弁のことを話したら、珍しいものなので食べてみたいと興味津々の様子だ。大会は来週の水曜までなので、もう一度行ってみるか。その時にはもうひとつの駅弁対決である「カニ対決」の、ズワイ・タラバ・花咲ガニそれぞれの駅弁も試してみることにしよう。(2006年1月食記)

町で見つけたオモシロごはん28…新宿・京王百貨店の、『元祖有名駅弁と全国うまいもの大会』

2006年03月16日 | ◆町で見つけたオモシロごはん
 以前、自宅近くのスーパーで開催された駅弁大会の話を書いたとき、京王百貨店の「元祖有名駅弁と全国うまいもの大会」についてちょっと触れた。書き込むときにいろいろと調べたり、それについて書かれた光文社新書刊の「駅弁大会」を読んだりしているうちに、この日本随一の歴史と規模を誇る駅弁大会を、ぜひこの目で見たい気持ちになった。毎年1月の中旬から行われるため、年が明けて1月の2週目の週末に訪れることにして、家族の晩飯の買出しも兼ねて家内から軍資金の補充も完了。新宿駅を降りて京王百貨店1階へと入ると、館内には鉄道唱歌が流れていてムード満点である。

 まだお昼前なのに、エレベーターにのって7階で降りると、会場の大催場方面はすでにすごい混雑だった。会場の入口には何と「総合案内書」が設けられていて、扱う駅弁が掲載された宣伝ちらしほか、買った駅弁を入れるための紙袋を無料で頂けるのがうれしい。昔の京王新宿駅を模した飲食スペースや近くの階段では、腰を下ろして弁当を広げている客の姿も。まずは会場を一巡することにして、混雑の真っ只中へいざ足を踏み入れる。向かって左が全国の物産の物販コーナー、右側が駅弁売り場になっていて、ちらしによると扱う駅弁の種類は200種類というから、さながら駅弁屋街といった様相だ。業者ごとにブースが設けられ、並べて売っているほか実演販売も結構多いよう。折に詰めたご飯の上に肉をのせたり、イクラやウニをどっさり盛り込んだりと、これは食欲をそそる。すでに行列が出来ている店もあり、駅弁大会では定番人気の、森駅の「いかめし」、横川駅の「峠の釜飯」の行列には「ここが最後尾」という看板が立つなど、何だかディズニーランドのアトラクションのようだ。峠の釜飯など、「残りあと50個です!」と、もうカウントダウンが始まっている。

 ざっと歩いて会場の様子が分かったところで、家族それぞれのリクエストの弁当を買い求めることにした。家内と娘が好物のイクラが入った弁当は、結構あちこちの店で見かけたな、と捜し歩くうち、店頭の大きな桶に持ったイクラにひかれ、函館の「谷ふじ」という店の行列についてみた。ずらり並んだ弁当の折にイクラのほかウニ、カニ、イカをこぼれんばかりに盛り付けていて、これは大したボリュームだ。「夢物語」というシリーズで、具によって値段が異なる数種の弁当を実演販売しているが、順番が近づき品書きが見えてくると、1400~1800円と思いのほか値が張る。これは補充してもらった軍資金では少々心もとなく、あえなく退散。

 全体的に人気なのは海鮮をベースにした駅弁のようで、谷ふじのほか福井駅の番匠本店の「越前かにめし」にも長い行列が出来ている。やはり実演をしているブースに客が集まるらしく、実演をしていない長万部駅のカニめしや、イクラに数の子、カニ、ホタテを盛り合わせた旭川駅の「まんざいどん弁当」は、客の姿が少ない。海鮮の中でもイクラ、ウニ、カニの人気は高く、ツブ貝を炊き込んだ静内駅の「日高つぶめし弁当」や、イワシの握りに大根の酢漬けを載せた釧路駅の「いわしのほっかぶり寿司」、厚岸名物のカキをたっぷり使った「氏家カキめし」など、個性的でうまそうな北海道の海鮮駅弁はちょっと苦戦している様子である。結局、空いていた上に値段も手ごろだったので、宮古駅の「かにちらし弁当」をふたつ購入。かにの身肉数本に加え、イクラもたっぷりのっているので、家内も娘も満足してもらえるだろう。

 一方、食べ盛りの息子のリクエストは肉の弁当。山形県産の黒毛和牛のタレつきロースとそぼろがのった、米沢駅の杵屋自慢の「牛肉どまんなか」は、実演販売の効果もあり相当な行列ができている。海鮮でイクラやウニが人気なら、肉で人気なのは牛肉、しかも銘柄牛肉で、ほか松阪駅の「モー太郎弁当」や、一関駅の「前沢牛めし」のブースあたりも賑わっている。一方で小倉駅の「かしわめし」や徳島駅の「阿波地鶏弁当」など、こちらも鳥肉や豚肉の弁当は苦戦の様子だ。別に判官びいきな訳でなく単に人混みが苦手なので、これまた行列の店を避けて鹿児島県出水駅の「かごしま黒ぶた弁当」を息子に購入。味噌漬けの豚ロース肉が4枚のっていて、食欲旺盛でもボリュームは充分である。

 駅弁が3つ入った大きな紙袋を提げて人ごみの中を歩くのは結構しんどいので、このあたりで自分の分も買って退散することにしたい。この後で仕事にも行くため、出先で頂く昼食の分と家で家族みんなと食べる夕食の分とふたつ買うことにした。ひとつは今は希少なクジラのカツがどん、とのった長崎駅の「ながさき鯨カツ弁当」、もうひとつは何と、タイのアユタヤ駅で売っている「ガパオラートカーオサイクロン」なる駅弁。ともに京王百貨店駅弁大会恒例のイベントの対象で、鯨カツ弁当は今年の「駅弁対決」で、「ガパオ…」は「海外弁当シリーズ」でとりあげられているものだ。このふたつの超個性的駅弁の味と、京王百貨店駅弁大会恒例のイベントについては… 以下次号。(2006年1月食記)

魚どころの特上ごはん23…長崎・佐世保 『マルモ水産』の、海上カキ筏で頂く九十九島ガキ

2006年03月14日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
 ビッグサイズの佐世保バーガーをふたつも平らげ、食後に戸尾市場街で友人へのみやげに珍味の鯨を買って、佐世保の食はすっかり満喫。少し海辺をドライブしてから、今夜の目的地である熊本へ向かうことにして、展望地の展海峰からさっき見下ろした九十九島の沿岸へと向かった。アップダウンとカーブが続く道を進んでいく途中、沿道に「海上カキ小屋」の赤い看板がいくつも見られる。ちょうど昨日の今頃は、広島で最近話題のカキ料理屋で焼きガキをつついていたな、と思い出したらもうどうしようもなく、看板の案内を追ってどんどんと海沿いへ。船越漁港という小さな漁港へと到着し、クルマを停めて海沿いを歩いていくと、子ども達が岩場でカキをとっているのが見えた。澄み切った海を覗いてみると、海中の岩にもカキがいっぱいついているようで、これは何だか期待できそうだ。

 案内の看板に従って進んだ先には、海上に大き目の筏が浮かんでいた。この上で焼きガキを食べさせているのだろうか、と思いつつゆらゆら揺れる渡し板を注意して渡って筏上へ。カキを水揚げして外したり殻を磨く作業場に隣接して、炭火焼の炉が並んだ屋根付きの席があり、さらに海寄りにはバーベキューコーナーのようなオープンスペースまである。この『マルモ水産』の自慢は、海上に浮かんだイカダの上で頂く焼きガキ。隣接する養殖筏のカキを、炭火焼きで頂くことができるのだ。焼きガキをはじめサザエ、イカ、ヒオウギガイなどの魚介も用意されていて、カキは通年扱っているのがうれしい。今日は少々風があるが、多島海を眺めながらの焼きガキもいいな、とオープンスペースの方に席をとることに。さっそく注文をしようとするが、長靴に合羽のおじさん、おばさんは忙しそうに行き来していてなかなかつかまらない。

 九十九島のカキは、昨日の広島や仙台の松島、さらに北海道の厚岸などに比べると全国的な知名度は低いものの、最近はその味の良さで徐々に知られるようになってきた。食をテーマにした雑誌で取り上げられたり、首都圏のオイスターバーで扱われるようになるなど、その評価も高まってきているようだ。九十九島は海岸線の出入りが激しいリアス式の海岸や、200もの島が浮かぶ多島海など、海流の流れが複雑で潮の干満の差が激しくカキの養殖に適した環境にある。加えて海のすぐ近くまで迫る緑豊かな山から、カキの栄養となる植物性のプランクトンが豊富に海へ流れ込んでくる。そんな環境で成長したカキは、よそに比べて小粒だが身入りがいいのが特徴で、生だと味が濃く、焼くと甘みが爽やかになるという。

 カキやサザエなどを焼いてはつついている先客を見ていると、こちらも気がはやるというもの。手が空いたおじさんにようやく手渡された品書きを見ると、焼きガキは1キロで850円と安い。数を聞いたら20個ぐらいとのことで、すぐに水揚げされたばかりの殻つきカキがザルいっぱい運ばれてきた。焼き方を聞くと、平らのほうを上にして網に置き、黄色っぽい殻の表面が乾いて白っぽくなったら食べごろとのこち。軍手をしてから網にずらりとカキを並べ、待つことしばし。しばらくするとくつくつと煮えた音とともに、湯気が立ちのぼり汁を吹いてきた。ここが食べ頃、とばかりつかんでナイフを差し込み、貝柱を切って開けるが、殻も熱い上に熱々の汁もこぼれて「あつっ!」となかなか難しい。

 何とか殻を開くと粒の大きさはほどほど、身はつやつやと乳白色でうまそうだ。醤油とレモン汁をちょっとたらしてひと口、すると身はホクホクと甘くジューシーで、塩ならぬ潮がほどよく効いた自然のままの味。まさに海の味が口いっぱいに広がるようだ。この養殖所ではカキを水揚げ後、丸1日太陽の紫外線で殺菌処理された海水のプールへ入れる「減菌処理」をした上で出荷されるという。これによりカキの中の水がすべて入れ替わり、泥や不純物が放出されるので、安全面はもちろん、味の面でも優れているという訳だ。次第にむくのにも慣れてきて、スープをこぼさずにうまく開いては身をつまみ、殻にたまったエキスたっぷりのスープをすする。次第に醤油とレモン汁をかけるのが面倒になってきてそのまま食べると、海水の塩味だけでもシンプルでうまい。

 1キロは結構多いと思ったがどんどんと手が伸び、ザルのカキは次第に減っていく。遅まきながら自販機でビールを買ってきて、グッとやっては焼いたカキをつまみ、と繰り返す。これぞまさに、究極の産直! 海風に吹かれ、寄せる波で筏がゆらりと心地よく揺れ、気分は最高である。(2006年2月11日食記)

町で見つけたオモシロごはん27…横浜 『横浜八景島シーパラダイス』の、秋田フェアで見つけたキリタンポ

2006年03月12日 | ◆町で見つけたオモシロごはん
 それにしても今年の冬は寒かった。特に日本海側を中心に積雪量は記録的な多さで、秋田では新幹線が丸1日運休、スキー場が雪が多すぎるため閉鎖されてしまうほど。そんな秋田から、全国で唯一雪の影響を受けなかった首都圏に、わざわざ雪を運んできてイベントを行っていると聞き、横浜八景島シーパラダイスの「秋田フェア」へとやってきた。水族館の横に設営された巨大なかまくらがシンボルで、高さ2メートルほど、中には3~4人は楽に入れるぐらいの大きさ。試しに入ることができるので、遊園地や水族館へ向かう客で結構な行列ができている

 かまくらも面白そうだが、お目当てはかまくらのある広場で催されている観光物産市で、様々な特産品を扱うテントが並んでいる。まずはサービスの甘ったるい甘酒でひと息ついたら、さっそく中を覗いて歩くことにした。「ほれ、見てってげれ」と声をかけられて立ち寄った店は男鹿半島のコーナーで、試食の漬物にあれこれと手を伸ばしてみる。いろりの上に吊るして煙でいぶした、いわば「スモークたくあん」といった感じの名物・いぶりがっこや、キュウリに大根、ヤマゴボウの漬物など、かなり種類が多い。そしてどれもしょっぱいこと。「寒い雪国のつけものだから、辛いでしょう」と話すおばちゃんによると、手作りの醤油を使ってピリッと辛めに仕上げてあるという。この「鬼っ子漬け」をまず購入、パッケージのなまはげのイラストがぎょろりとにらんでいる。

 これはご飯にもあうが、日本酒の肴にもいいな、と考えていると、すぐ隣にもっといいものを発見。小魚のみりん干のようで、試食してみると頭も骨も柔らかく丸ごとかじれ、香ばしい中にほんのりした甘みがあり、これは後をひく。小魚の正体は、秋田のキング・オブ・地魚のハタハタだ。かつて乱獲の影響で水揚げ量が激減したこの魚に対する、秋田の人たちの思い入れはとても強く、丸3年間完全に禁漁にすることで資源回復を試みたという話は有名である。現在も漁獲制限や漁期を設けるなどしているおかげで、比較的安定した水揚げが確保されるようになってきた。ハタハタは秋田沿岸だけでなく広く日本海沿岸、さらに中国や韓国でも漁獲される魚だが、秋田で水揚げされるのはよそのとはモノが違う、と地元の人はこだわりを見せるとか。日本海で水揚げされたハタハタを魚醤で焼き上げたこの「浜焼き」10匹入りをひと袋買い、これで飯のおかずも酒の肴も確保完了である。

 物販店のテントに隣接して、秋田の味のテイクアウトコーナーがあり、あたりにいいにおいが漂っている。寒冷地ならではの引き締まったツルツルな食感の稲庭うどんに、最近話題の目玉焼きがのったご当地焼きそば・横手やきそばなど、香りに誘われてふらりと店頭を覗いてみると、串焼きにしたキリタンポを焼いているコーナーがあった。網にのせてあぶられ、仕上げに刷毛で味噌を塗られている。キリタンポといえば鍋が有名だが、もともとは山で働く人たちが弁当として持っていったもので、こちらもちょうど昼時なので弁当代わりに1本頂くことにした。店の人によると、材料は100%あきたこまちをつかっているとのことで、みそを何度もぬってもらって焼き立てを手渡してもらう。きりたんぽは串に炊いたご飯をまきつけたような感じだが、食べてみると味噌が甘く、みたらしだんごか焼きおにぎりのような味わい。かじるとごはんの粒々が分かるぐらいのつぶし加減で、昔秋田の郷土料理の店で食べた際に、女将さんが「米を半分ほどつぶしているので、地元では『半殺し』と言うんです」と、物騒なことをにこやかに話していたのを思い出す。

 冷めてもレンジで暖めて食べればおいしいですよ、と聞いて、持ち帰り用にさらに2本購入。会場の一画には福引コーナーがあり、買い物のたびにたまっていた券を持ってチャレンジしてみることにした。酒の肴やごはんのおかずはあれこれ買ったから、狙うは秋田の地酒か、はたまた銘柄米の「あきたこまち」か。(2006年1月食記)