広島でお好み焼きとカキ、博多でモツ鍋に屋台、佐世保でハンバーガーにクジラにカキ筏での焼きガキと、食べ歩きながら西へと流れ熊本へとやってきた。駅から路面電車に乗って、熊本屈指の繁華街である通町筋で下車。パルコの前で学生時代からの旧友と待ち合わせてひと安心である。友人の案内で、熊本の夜を満喫しようとしたところ、「候補の店が3軒あるのだが、どの店がよさそうかたたずまいで決めてくれ」とのこと。各地を食べ歩いている私にすれば、店の玄関をひと目見ただけで、使っている食材も板前の腕もたちどころに分かる… なんてことあるわけない。何ともいいかげん(?)な先達に率いられ、上通りから熊本城に近い下通りへと、お勧め候補を覗きながらぶらり歩いてみる。
結局、3軒の店全部に立ち寄った結果、下通のアーケードを抜けた花畑町の飲食店街にある居酒屋『天草』に腰を据えることに決めた。暖簾をくぐると週末のせいか、座敷が中心の店内には仕事帰りのサラリーマンでほぼ満席の様子。遅い時間なのに親子連れの姿も見られ、熊本の人たちは週末の夜は宵っ張りなのを思い出す。自分たちも座敷に腰を下ろして品書きを広げると、店名の通り天草周辺で水揚げされた魚介が豊富に揃っている。ほか馬刺しなど熊本名物の一品料理もあり、これら数品とせっかくだから天草の地魚の造りをドン、と頼むことにした。注文をとりにきたおばちゃんに、おすすめの天草の魚を造りにしてほしい、とお願いと頼むと、「ならガラカブとオコゼがおすすめ。でもちょっと高いよ」。ともに1匹で数千円する、と、ご親切に財布の中身に気を使ってくれる。
先に運ばれてきた馬刺のレバ刺しとゴマサバの胡麻醤油和えを肴に、久しぶりの再会を祝してさっそく乾杯。ゴマサバの胡麻醤油和えには、長崎で水揚げされた脂がよくのったゴマサバを使っており、九州特有の甘い醤油がサバの濃厚なを強調している。馬刺しのレバ刺しは胡麻油で頂く仕組みで、たっぷりのゴマに胡麻油の香ばしい風味のおかげで、歯ごたえシャックリと食べやすい。ビールの中ジョッキなどあっという間で、友人のすすめで地酒の「香露」を追加する。熊本では貴重でちょっと高価な酒、と話す友人によると、代表的な吟醸酒として越の寒梅と並び称されるほどの酒とのこと。醸造元の熊本県酒造研究所は、「吟醸酒の神様」といわれる野白金一氏が、吟醸酒作りに欠かせない熊本酵母を作り出したことで知られる。こってり味のサバやトロリとスタミナ満点のレバ刺しの合間にグッといくと、切れ味が良くすっと飲みやすい。
予算に気を遣ってか、おろすまえに「ガラカブとオコゼはこれぐらいのでいい?」と、おばちゃんがやや小さめなのを選んで桶に入れて持ってきた。桶を覗くと1匹は真っ黒で、頭が大きく背びれがグッと張り出している。浅い海でとれるのは黒く、深い海には赤いのもいるとおばちゃん。そしてもう一匹はトゲだらけの体にでこぼこの頭、大きな口とちょっとグロテスクだ。ともに少々個性的な外見とは対照的に、大きめの角皿には白身の造りがキモの造りと一緒に、2匹分たっぷり盛って運ばれてきた。どちらも不知火海や有明海、東シナ海を漁場とする天草で水揚げされる魚介の中でも、指折りの高級魚なのだ。
ポン酢と甘めの醤油、薬味はショウガと紅葉おろしが添えてあり、まずはガラカブを数切れポン酢につけてひと口。ガラカブは日本の各地に棲息する磯魚で、関東ではカサゴ、関西ではガシラ、博多や長崎ではアラカブと呼ばれている。冬が旬で脂肪が少ない淡泊な白身のため、鍋や汁物に向いているが、造りにするとまた上品。白身はシコシコと濃厚な味、キモはしゃっきりと瑞々しい。身でアサツキを巻いて食べるのが地元流、と友人が勧めるのでやってみると、身の甘味がひき立ってなかなかいける。そしてオコゼもまた、白身の味の上品さは特筆もの。こちらも造りはもちろん鍋や汁物、唐揚げにしてもうまいという。キモはとろり、白身はさっぱりしていて、後味に潮の香りがする。皮の部分は湯引きにしてあるので、旨味が強調されシコシコとうまい。
くせのないあっさりした味わいのおかげで、皿の上の造りがなくなるのはあっという間。一緒に「香露」も程良く進んだ後の締めくくりに、頭と中骨を味噌汁にしてもらえるのがうれしい。甘い白味噌仕立てで骨に付いた身をしゃぶると、ガラカブの皮のゼラチン質がトロリとうまい。連日連夜の食べ歩きとはしご酒で少々くたびれ気味なので、今日はこれにて早じまい… といきたいところだが、友人が夜はまだまだこれから、といった感じである。お気に入りのショットバーがあるというので、もちろんのことお付き合い。酒飲み同士の久々の再会で旧交を温めるには、1軒2軒ぐらいではまだまだ足りなそうである。(2006年2月11日食記)
結局、3軒の店全部に立ち寄った結果、下通のアーケードを抜けた花畑町の飲食店街にある居酒屋『天草』に腰を据えることに決めた。暖簾をくぐると週末のせいか、座敷が中心の店内には仕事帰りのサラリーマンでほぼ満席の様子。遅い時間なのに親子連れの姿も見られ、熊本の人たちは週末の夜は宵っ張りなのを思い出す。自分たちも座敷に腰を下ろして品書きを広げると、店名の通り天草周辺で水揚げされた魚介が豊富に揃っている。ほか馬刺しなど熊本名物の一品料理もあり、これら数品とせっかくだから天草の地魚の造りをドン、と頼むことにした。注文をとりにきたおばちゃんに、おすすめの天草の魚を造りにしてほしい、とお願いと頼むと、「ならガラカブとオコゼがおすすめ。でもちょっと高いよ」。ともに1匹で数千円する、と、ご親切に財布の中身に気を使ってくれる。
先に運ばれてきた馬刺のレバ刺しとゴマサバの胡麻醤油和えを肴に、久しぶりの再会を祝してさっそく乾杯。ゴマサバの胡麻醤油和えには、長崎で水揚げされた脂がよくのったゴマサバを使っており、九州特有の甘い醤油がサバの濃厚なを強調している。馬刺しのレバ刺しは胡麻油で頂く仕組みで、たっぷりのゴマに胡麻油の香ばしい風味のおかげで、歯ごたえシャックリと食べやすい。ビールの中ジョッキなどあっという間で、友人のすすめで地酒の「香露」を追加する。熊本では貴重でちょっと高価な酒、と話す友人によると、代表的な吟醸酒として越の寒梅と並び称されるほどの酒とのこと。醸造元の熊本県酒造研究所は、「吟醸酒の神様」といわれる野白金一氏が、吟醸酒作りに欠かせない熊本酵母を作り出したことで知られる。こってり味のサバやトロリとスタミナ満点のレバ刺しの合間にグッといくと、切れ味が良くすっと飲みやすい。
予算に気を遣ってか、おろすまえに「ガラカブとオコゼはこれぐらいのでいい?」と、おばちゃんがやや小さめなのを選んで桶に入れて持ってきた。桶を覗くと1匹は真っ黒で、頭が大きく背びれがグッと張り出している。浅い海でとれるのは黒く、深い海には赤いのもいるとおばちゃん。そしてもう一匹はトゲだらけの体にでこぼこの頭、大きな口とちょっとグロテスクだ。ともに少々個性的な外見とは対照的に、大きめの角皿には白身の造りがキモの造りと一緒に、2匹分たっぷり盛って運ばれてきた。どちらも不知火海や有明海、東シナ海を漁場とする天草で水揚げされる魚介の中でも、指折りの高級魚なのだ。
ポン酢と甘めの醤油、薬味はショウガと紅葉おろしが添えてあり、まずはガラカブを数切れポン酢につけてひと口。ガラカブは日本の各地に棲息する磯魚で、関東ではカサゴ、関西ではガシラ、博多や長崎ではアラカブと呼ばれている。冬が旬で脂肪が少ない淡泊な白身のため、鍋や汁物に向いているが、造りにするとまた上品。白身はシコシコと濃厚な味、キモはしゃっきりと瑞々しい。身でアサツキを巻いて食べるのが地元流、と友人が勧めるのでやってみると、身の甘味がひき立ってなかなかいける。そしてオコゼもまた、白身の味の上品さは特筆もの。こちらも造りはもちろん鍋や汁物、唐揚げにしてもうまいという。キモはとろり、白身はさっぱりしていて、後味に潮の香りがする。皮の部分は湯引きにしてあるので、旨味が強調されシコシコとうまい。
くせのないあっさりした味わいのおかげで、皿の上の造りがなくなるのはあっという間。一緒に「香露」も程良く進んだ後の締めくくりに、頭と中骨を味噌汁にしてもらえるのがうれしい。甘い白味噌仕立てで骨に付いた身をしゃぶると、ガラカブの皮のゼラチン質がトロリとうまい。連日連夜の食べ歩きとはしご酒で少々くたびれ気味なので、今日はこれにて早じまい… といきたいところだが、友人が夜はまだまだこれから、といった感じである。お気に入りのショットバーがあるというので、もちろんのことお付き合い。酒飲み同士の久々の再会で旧交を温めるには、1軒2軒ぐらいではまだまだ足りなそうである。(2006年2月11日食記)