ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

魚どころの特上ごはん26…江ノ島 『富士見亭』の、サザエたっぷりの江の島丼

2006年03月29日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
 江ノ島はここ数年で、ずいぶんと見どころが増えた。大人向けスパ施設の「江ノ島シーサイドスパ」、もと江ノ島植物園と灯台をリニューアルした洋風庭園の「サムエル・コッキング苑」、そしてこの日やってきた、島南部の磯にある海食洞窟を利用した「岩屋」は、照明やオブジェを駆使した神秘的なムード漂うスポットである。ローソクを片手に洞内を拝観した後、天気がいいので稚児ヶ淵の岩場でちょっとのんびり。そろそろ引き返そうと思ったが、何度も上り下りを繰り返した上で江ノ島神社奥津宮にたどり着き、そこから急な石段を延々と磯へと下ってここまで来たことを思い返すと、ついつい歩き出すのが億劫になってしまう。昼時というのもあり、沿道の茶屋のどこかで食事がてら休んでいきたい。

 海を臨む稚児ヶ淵から、島のほぼ頂上の奥津宮までの間には、急な階段に沿って3軒の茶屋が並んでいる。海側から順に見晴亭、富士見亭、魚見亭で、一番上の魚見亭は高い位置にあり景色がいいと思われるからか、3軒の中ではもっとも混んでるらしい。そこで2番目の『富士見亭』を目指して、ぼちぼちと石段を登っていく。創業120年という歴史の古い茶屋らしく、店内は映画「男はつらいよ」で出てくる団子屋のとらやのよう。昔懐かしいレトロムード満点である。客は数組と確かに空いていて、店内の席よりも海が見えるテラス席… というと聞こえがいいが、まるで物干場にテーブルを並べたようなコーナーだ。もちろん眺望はバツグン。水平線が見渡す限り180度広がり、陸はまったく見えない爽快な眺望である。「天気がいいと店名の通り、富士山や伊豆大島まで遠く見渡せますよ」と、お冷やを運んできた店の人が話すが、さっき稚児ヶ淵にいたときの晴天からうって変わって、次第に曇り空が広がってきた。展望がいい分、近づいてくる前線の雲の先端も迫力モノだ。

 これは雨が降る前に食事を済まさなければ、と急いで注文。島内あちこちの茶屋やみやげ物屋の店頭で、サザエやハマグリを焼いているのを見かけ、これでビールを、と思ったが値段が少々割高だ。サザエはともかく、磯に囲まれた江ノ島の周辺でハマグリがとれるのだろうか、と思いつつ食事メニューへと目を向けると、ズバリ「江ノ島丼」なる丼物を発見。当地を名のる品だけに味には期待できるのか、それとも観光客御用達のメニューなのか、と迷ったけれど、その名にひかれてこれと中ジョッキに決めて待つことしばし。ジョッキで乾杯は間に合ったが、江ノ島丼が出てくる前についにポツポツと降り出してしまった。

 店の人に運ぶのを手伝ってもらいながら、急いで店内の窓際の席へと撤収すると同時に江ノ島丼の盆が運ばれてきた。どんぶり飯の上に玉子でとじた具がのっていて、見た目は親子丼かカツ丼風か。ジョッキをグイッとやりながら丼にも箸をのばすと、玉子でとじてあるのは何と、サザエ。弁天通商店街の「ハルミ食堂」がルーツといわれるこの料理、鶏肉の替わりにサザエをつかった以外は親子丼と全く同じで、ほかの具はタマネギのみ、仕上げには刻みのりがのっている。弁天通商店街の飲食店や奥津宮周辺の茶屋など、江ノ島内の飲食店の多くが出している、島ならでは(?)の定番メニューなのである。

 いくつも入っているサザエのぶつ切りの、シコシコした歯ごたえが心地いい。おばちゃんによると、サザエは江ノ島の地物を使っているとのことで、どこでとっているのか聞いたら窓の外を指す。江ノ島の南側の磯あたりでとれるそうで、行けば拾ってこれるか聞いたら沖の深いところにいる、と笑っている。ダシが親子丼らしく甘辛いため、サザエ独特の潮の香りがやや押されているが、玉子丼のおまけにサザエが入っていると思えばちょっとお得感があるか? 玉子の半熟加減がトロリと程良く、ごはんがグイグイと進んでいく。

 丼物だが少々軽めで、あっという間にごちそうさま。再び石段を登って帰ろうと思ったが、雨が本降りになってきた模様だ。もう少し食べたりないこともあり、雨宿りを兼ねて追加のジョッキと、さっき迷ったハマグリ、サザエの焼き物を頼んでみることにするか。窓の外の春の海、そして春の雨でも眺めつつ。(2006年3月19日食記)


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