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元帥酒造から街道を先ほど歩いた反対方向へ行くと、旧国立第三銀行倉吉支店の蔵を利用した、アートスペースがある。「くらよしアートミュージアム 無心」は、町と福祉と文化の連携による、作品を展示したミュージアム。禅の精神世界「無心」からとった館名には、既存の価値観や評価に左右されない、無心で表現した作品を発信するとの意図が、込められているかのようである。
この施設では現在、『古久保憲満個展 饒舌な街』を開催している。作者の古久保氏が描いた理想の都市像の絵が、蔵の中のスペースに展示。絵は日本を始め世界の都市をモチーフにしており、集積した都市の情報に自らの精神世界も反映・詰め込みながら、独自の都市像を描いている。
古久保氏は小学生のときに、発達障がい(高機能自閉症)と診断を受けた。当時はほかの児童と共にいることができないほどで、グランドで一人で絵を描いていたところ、それを目に留めた教師の勧めもあり絵を描くことに没頭し始める。東京・中野の社会福祉法人愛成会に見出され、次第に作品が認められるようになり、近年ではヨーロッパやアメリカをはじめ、世界的な評価も高まってきた。それに連れて社会との関わりも持てはじめ、展覧会や取材で海外へ行くことも増えたそうだ。
作品は古久保氏が興味を持っている、世界の都市をはじめ船や車、軍艦といった軍隊の乗り物など。スマートフォンなどでデータを収集して描いており、展示の作品はどれも緻密で情報があふれている。描かれている朝鮮やアメリカのオレゴンなど、都市については特に細かく調べており、「きたちょうせんとアメリカのけいむしょをモデルにしたまち」では周囲の鉄条網が国境、壁がアッテカ刑務所を表現。「発展する中国天津市」にはたくさんの高層ビルにタワー、ジェットコースターが書き込まれる。タイトルは自身でつけており、「はってん」「けいざいかくめい」という前向きなワードが印象的だ。
これらが色鉛筆で着色された、明るく華やかなイメージなのに対し、それ以前に描かれた軍艦が中心の「軍隊シリーズ」は、重たく暗い印象がある。最近はフランス、中国の天津など個展や取材で訪れた都市は、現地をしっかりと観察して描いており、作風もどことなく開放的で明るい。絵を描くことで行動範囲や交流範囲が広がった影響といえ、絵が氏にとって人々と、社会との接点となっているのが実感できる。
いずれの作品からも、込められたあふれんばかりの情報が、見る者に文字通り饒舌に語りかけてくる。伝建地区のしっとりした町並みと緩やかに語らった後は、饒舌な街との賑やかな会話を交わして、倉吉さんぽの締めくくりである。