ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

中棚荘のりんご風呂@小諸

2016年12月07日 | 旅で出会った食メモ
中棚荘主催の小諸視察、今宵は千曲川を望む温泉旅館・中棚荘さんにお世話になった。もとは鉱泉だったが、平成10年に温泉を掘削。アルカリ性単純温泉・38.2度の湯が、毎分250リットルと湧出と湯量豊富な温泉宿である。そのため源泉掛け流しの露天風呂をはじめ、宿内の水は源泉を使用という贅沢さ。飲用や源泉でたてるコーヒーほか、蛇口からの水など水まわりはすべてというから恐れ入る。

温泉のほか、この宿のもう一つの売りは「藤村ゆかりの宿」であること。藤村は明治32年に私塾・小諸義塾の英語教師として、小諸に赴任した縁がある。詩人だった氏が、この地で6年間過ごす中で小説家として転身した契機となったそうで、「千曲川のスケッチ」などゆかりの作品を残すなど、作家活動の転機となる風土があったようだ。とはいえ時の流れのせいか、「最近は『藤村(ふじむら)ゆかりって誰?』 と聞くお客さんもいて」と女将さんが笑うが、「初恋」など広く知られた作品も残しているところに注目したい。

温泉は50段の石段を登っていくが、その労に違わぬ雰囲気と景色の良さ。畳敷きの脱衣所と仕切りなしにつながる浴室は「初恋リンゴ風呂」と称し、たくさんのリンゴの果実がプカプカ浮いているのが、いかにも信州の湯らしいご趣向だ。無色透明の湯はアルカリ泉の滑らかさで、ヌルッとした肌ざわりが独特の感触。ツルツル感と保温性が継続するのが、寒い季節の信濃路の旅には嬉しい。

小諸てくてくさんぽ4

2016年12月07日 | てくてくさんぽ・取材紀行
中棚荘主催の小諸視察、日が暮れるギリギリのタイミングで、市街の小諸城跡と北国街道の宿場の名残を歩いてみた。スタートは市街にある大手門から。 かつて小諸城は本丸ほか二ノ丸、三ノ丸を備えた大規模な城郭だったが、廃城後は三ノ丸があった場所に信越本線が通り、周辺に市街が発達したために名残を留める史跡は限られている。ここは本丸から数えて「四之門」にあたり、穴城と称された小諸城で一番高い場所に位置する。

門は三階建てのつくりで、「瓦門」と称されるが当時小諸では瓦を焼く技術がなく、三河で造られた瓦を牛で運んできたという。かつては料亭や、小諸義塾の仮教室だったこともあるなど、門としての用途を超えた使い方をされた経緯もある。付近には城郭をめぐる石垣「出隅」が一部残り、当時の名残をとどめている。

門のそばにある空き地は、かつて鍋蓋城があった場所。武田信玄が甲斐から東信濃へ侵攻した際、一晩で滅ぼしたといわれる9つの城のひとつである。ここを足がかりに小諸城が築城されていった、いわば小諸の街の起源といえる城跡である。現在は空き地や駐車場などになっており名残はないが、付近はちょうど武家地と町人地が接しており、城跡やその境界を示す石垣が残っている。城よりも街が上にある城下町ならぬ「城上町」の、特殊な街のつくりが伺える。

ここから西へやや入ると、市街を鍵形に突っ切る旧北国街道の五叉路に出くわす。小諸は城下町でもあり宿場町でもある表情をとどめており、沿道には小諸宿の建物がパラパラと見られ旧建築探訪しながらの町歩きが楽しい。昔ながらの木看板を掲げた建物、藤村が使った便箋を扱う紙屋、旧小諸銀行の三階建て・立派なうだつのある商家を用いた骨董屋、藤村の「小諸なる古城のほとり」に濁り酒が唄われた大塚酒造など。新幹線が通らなかったため古い町並みが保持されている側面もあり、駅から近いこともありコンパクトな城下町散歩が楽しめる。

藤村ゆかりの井戸がある藤村プロムナードから、名の通り馬場に隣接する馬場裏の小路を経て大手門へ。冬の黄昏のしんしんとした冷え込みが、信濃の山里の宿場のらしさにより深みを出しているようにも思えたりして。

小諸てくてくさんぽ3

2016年12月07日 | てくてくさんぽ・取材紀行
中棚荘主催の小諸視察、中棚荘が所有しているブドウ畑は、八ヶ岳と蓼科を望む標高830メートルの高台・御牧ヶ原にある。千曲川河岸のロームの地質、寒暖が激しいところから、酸が抜けにくく辛口で味のメリハリがつきやすいのが、こちらのブドウの特徴だそうである。栽培種はマンズワインと同じ3種で、収穫量は全部で2〜3トン程度と、こちらもコンパクト。すべて有機栽培、実は摘果するなどして高品質の実に絞り込むため、1本の木からボトル1本が目安とか。酸味のきいた辛口のワインを目指しているという。

中棚荘ではここで収穫したブドウで、自社ブランドの「中棚ワイン 御牧ヶ原」という銘柄を扱っている。「牧」は牧場の意で、ブドウ畑がある場所はその跡地。現在はマンズワインに醸造を委託しているが、将来的には自社ワイナリーによる生産を目指しているという。その工場予定地からの景色がまた、秀逸! 正面には山腹が夕陽に燃ゆる浅間、背後には霞に浮かぶ八ヶ岳連峰。好天に恵まれれば、北アルプスの冠雪を抱く峰々も控え、レストランもぜひ併設してほしい、魅力の立地だ。

小諸てくてくさんぽ2

2016年12月07日 | てくてくさんぽ・取材紀行
中棚荘主催の小諸視察、マンズワイン小諸ワイナリー見学の後半は、加工施設から試飲へ。醸造棟には中〜小型のタンクが並び、割とコンパクトな印象を受ける。使用するブドウは年間80トンほど、年間醸造量は6万本ほどと、小規模な生産量にあった丈の設備といえる。作業工程は、まず土日に収穫された契約栽培のブドウが月曜に入り、機械と選果台により選別を行う。選果台での工程は10人がかりの手作業で、茎や葉のほか赤い実は味に影響するので除外、最終的には真っ黒でぷりぷりの実のみに絞り、圧搾に進める。「ソラリス」用のブドウでは「雑物は100パーセント除外します」と案内の方が断言、ワイン醸造ではかなり重要な作業のようである。

樽熟成庫は樽詰めされたワインがズラリ並び、足を踏み入れるとブドウが発酵したいい匂いが漂う。酸化を避け満量にした樽に栓をした際、ちょっとこぼれたワインが香るとのことで、見学時の嬉しいおまけである。樽はフランス産で、丸型のブルターニュと細身のボルドーと形が異なるのが面白い。少量生産のため容量は230リットルと小型で、ひと樽で300本分程度の量だそうだ。ワイン醸造の設備は選別や絞る機械やタンクがあれば充分、品質の鍵はブドウが握っており、そのポテンシャルを最大限に引き出すのが醸造家の仕事、との、オリエンテーションでのレクチャーが実感できるシンプルかつ無駄のない設備といえる。

最後はお楽しみの、売店の試飲コーナーへ。「ソラリス」各種勢ぞろいしており、白から赤へ軽いのから重い順に味わわせていただいた。一番ライトな「信濃リースリング」は酸味強くとがり目、一番ヘヴィな「東山カヴェルネソーヴィニョン」は樽の熟成香がどっしりしたボディに薫る。私的には見本畑のブドウを用いた「小諸シャルドネ」が、酸味と甘みのバランスが良く飲みやすいか。

小諸てくてくさんぽ1

2016年12月07日 | てくてくさんぽ・取材紀行
中棚荘主催の小諸視察、昼食後はマンズワイン小諸ワイナリーを見学した。ここはワイナリーとしては比較的小規模で、年間の生産量は7万本ほどと、山梨県勝沼の同社の醸造所と比べると数パーセント程度。その特性を生かしてハイクラスの品を目指しており、日本のブドウによる国産ワイン「プレミアム日本ワイン」にこだわる。トップブランドの「SOLARIS」の生産に特化、3500〜7000円の価格帯が中心となっている。

自社所有の畑で栽培される種は、シャルドネ、メルロー、カヴェルネソーヴィニョン。小諸は晴天率が高く寒暖差があるので、雨に弱い欧州種のブドウ栽培に向いているという。場内には30アールの見本林があり、1/3のみ残す「収量制限」して糖度を上げたり味をよくするなど、品質の良化を図っている。そのため収穫量が限られるが、欧州に匹敵する基準に精査しているのだとか。つまんでみると渋みがなく甘みが強靭、これはしっかりしたボディの基礎となっていそうだ。

また「レインカット」という雨よけがされているのも、マンズワインの畑の特長。実のみならず木の幹にもあたらないようにカバーいるのは、欧州よりはるかに多雨なのに対する備えである。梅雨が長いこと、収穫時期の秋も長雨が多いことから、過保護気味ながら品質保持のためには必須のようである。

園内にある「万酔園」は、フランスのシャトーには庭園があるのをなぞらえしつらえた日本庭園。信州をイメージした丘や千曲川をモチーフにしており、植え込みのドウダンツツジはグラスからこぼれる赤ワインのイメージなのだとか。園内には半地下のかつて使われていたセラーがあり、冷え込んだ中を歩いて入ると、温度が穏やかに安定しているのが体感できる。中には70年代後半醸造のワインがズラリ並んでおり、昔の技術の品なので飲めないが、オブジェとしてLEDにより照らされる演出が幻想的である。奥の特別室には善光寺ブドウを模したシャンデリアが灯り、秘密基地のような怪しさがそそる。