暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

小さくなってしまった君へ

2022-12-06 | 心から
心拍数が上がった時、私は努めて深呼吸することにしています。
大きく息を吸い、肺に空気を満たし、
ゆっくりと、時間をかけて息を吐き出すのです。
近頃は寒くなりましたから、空に向かい息を吹きかけたなら、
それは白い靄となって高くぼやけた天へ上ってゆきます。
眺めていると、ほんの少し落ち着いたような気がするのです。生き急ぐ鼓動にかかわらず。

私は思うのです。
大きく息を吸って、吐き出したとき、
魂もそのまま抜けていってしまえたらいいのに、と。
私の魂は私という肉体を棄てて白い靄となり、
自由きままに天という虚空へ上ってゆき、
そうして掻き消えていく。
どれだけ幸いでしょう。
どれだけ、楽になることでしょう。

ですが、絵空事は当然絵空事に過ぎません。
私の愛したものたちは誰もが魂を吐き出し、上ってゆきましたが、
たとえその間際が、まるで深呼吸をするかのように容易く行われたように見えたのだとしても、
彼らと私の間には天よりも遠い隔たりがあります。
私の肉体は重い。心臓は懸命に生きている。
私は、私を見捨てられないのです。
彼らに憧れながら、天へ掻き消えていった彼らの魂に焦がれながら、生きていくしか出来ない能無しです。
もしも私がそれを成せたとして、
私に愛を遺してくれた彼らへの侮辱に他なりません。

だから、夢を見させてください。
空に絵を描かせてください。
心拍数が上がったとき、肺に満たした、私のありったけの魂を、
かりそめでも天へ送らせてください。
重くなっていく体も、悲鳴をあげる心臓も、
そうすれば、少しは楽になる気がしているのです。

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