暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

無関心

2019-07-01 | つめたい
目を開いてこちらを見ろ
私の姿を、目を開いて
無かったことにするために
私の喉は切り取られた

私の声が聞こえるか
(何も聞こえない)
私の叫びが聞こえるか
(何も聞こえない)
私は無を発している
私の声が聞こえるか
(何も聞こえない)

目を開いて鏡を見ろ
お前の姿を、目を開いて
無かったことにするために
お前の耳は潰された

この声が聞こえるか
(何も聞こえない)
この叫びが聞こえるか
(何も聞こえない)
肋の骨に押し付けた
震えがお前に伝わるか
(何も、聞こえない)

目を開いて外を見ろ
彼らの姿を、目を開いて
無かったことにするために
彼らの目はくり抜かれた

私の声が聞こえるか
(何も見えない)
私の叫びが聞こえるか
(何も見えない)
私の声になってくれ
お前の叫びを聞かせてくれ
(何も、何も見えない)

目を開いて、鏡を見ろ
私の姿だ、言うまでもなく
何も無かった空洞を
無かったことにするための

私の声が聞こえるか
(何も届かない)
私の叫びが聞こえるか
(何も聞こえない)
誰もが嘆きに感じ入る
隣の座標は遥かに遠い
(何も見えない)

蟲の壷

2019-01-04 | つめたい
いやだわ
指がてらてらと光っているの
はしたないわ
脂は中々落ちないもの
舐っても舐っても
くちびるの刺が捲れるばかり
汗を拭った隈取が
垢黒いのも当然のことよ
だって指先がこんなにも
てらてらと光っているんだもの
いやだわ
はしたないわ
次はあなたが咥えて頂戴

それは君自身

2018-09-10 | つめたい
君が愛しいと言っていた花を手折る
萎れていく花びらを見ながら
君は悲しむだろうかと考える

僕はとても悲しかった
君はそんな僕を見て
どんな気持ちでいたのだろう

誰かの言葉を思い出す
自分の嫌なことは他人へするな
復讐なんて何の意味もない
決してそうは思わない
経験しなければ伝わらないのだ
そういった人もいる

私の気持ちなんてわからないくせに、
君は僕の大切なものに唾をかけた
あなたのためを思っているの、
君は僕の大切なものを燃やした
君は僕を包んだのかもしれない
けれど肌は血まみれだ

茎から流れる緑の血
君が泣いて叫ぶ場面を想像する
僕を責めてなじる姿を

喉から流れる血は透き通っていて
君は僕の大切なものをまた壊すだろう
だから僕は君の一番大切にしているものを

安い言葉

2018-05-31 | つめたい
平野にあなたは立たされる
街もなければ道もない
わたしは天の声となり
さまようあなたを眺めている

心を亡くして殺されていた
あなたに似合いの場所だろう

窮屈なものに押し込められ
身動きひとつとれないでいた
あなたに似合いの場所だろう
ここはとてもとても広い

狭い路地を縫って歩く
わたしにあなたは声をかけた
ぎちぎちに詰まった箱の中から
どうか私を助けてほしいと

わたしはあなたの手を引いて
雑然とした街路を駆け抜けた
楽しかったろう、わたしのように
かつての無邪気なわたしのように

あなたは夢想を話して聞かす
永遠に叶うことなどないのだと
まるで言い聞かせるかのようだ

この街をひとりで歩きたい
でも私にはあなたがいるから
ひとりでなくとも大丈夫だと

「とても助かるわ、あなたがいて」

わたしが手を離したならば
あなたはどれほど望みを絶やし
泣き崩れることだろうか
わからないわからないと呟いて

わたしがあなたにもらったものは
たったひとつのことばきり
箱詰めのあなたの得た幸せを
聞かされるのにはうんざりしている

さあここは広い平野
あなたの手は何をも持たず
かつての理想のことばのままに
あなたはひとり平野にいる

(あなたのように自由に動けたら)
(あなたはあなただからわからないだろうけど)
(私は動けないからあなたが)
(あなたが私を動かして)

望むのならばその平野
あなたを裸に剥いてもいい
大声で吠えさせることもできる
三日三晩踊り狂わせることも

けれどわたしはあなたのことを
ただただ眺め続けよう
街もなければ道もない
あなたがさまようその姿を
理解できずさまよい続け
努力もせずに嘆き悲しみ
何にも成さずに死にゆく姿を
生きて帰って来れたなら
めでたくゲームクリア、ただそれだけ

世間話

2018-05-23 | つめたい
流れを止めた水を飲み
美味そうに舌鼓を打つ
ぺちゃりくちゃりと喋る口
停滞するのは水だけか

軽く嘯くその舌は
人の死などは構わないと言う
それは確かに道理でもある
死にゆく魚も見捨てるのだから

あるのは己の快不快
随分おおきな新生児だろう
皺にまみれたその肌と
よだれの散る口もさながらだ

さぞやさぞや不快だろう
濁った水は安寧の宿
すべての水を入れ替えたなら
魚はたやすく死ぬのだから

さぞやさぞや快かろう
追従の笑みと賛同こそは
深く刻まれつつある皺が
ぴくりひくりと震えている

ただ満たされたいだけだろう
淀んだ水には淀んだ水を
そこがあなたの棲む世界なら
そこでしか息を継げぬと言うのなら

どうぞそこで死に絶えるがいい
わたしの水が毒と言うのなら
入れるつもりなどないと返そう
あなたはあなたの世界の中で

ひっそりと生きて死ねば良いのだ
わたしをどうぞ迎え入れるな
毒はどちらも同じこと
顔を歪めたのはあなたではない

文化的生存の滅び

2018-04-27 | つめたい
強き者なら刃を振るい
蹂躙するのを許される
刃をためらうな、弱き者よ
振るえないのはおまえの恥だ

淘汰されるが自然の摂理
この大地の摂理なのだ
(違う、それは論点が違う)
(こことあそこは環境も違う)

血を流せ、弱き者よ
刃を敵に振るえぬならば
いたずらに始まる児戯にさえ
深い傷を作るのならば

呪うな、妬むな、祝福するのだ
おまえはわたしのために死ね
弱きおまえの肉を糧に
強きわたしは生き残る

死にたくなければ刃を振るえ
敵へ、親へ、隣人へ
くだらぬ誇りを抱き続けるなら
わたしの土壌を肥やすがいい

虚実

2018-03-23 | つめたい
思い悩む人がいる
わたしはそれに手を添えて
軽く背中を叩いてやるのだ
転落、誰もがそう呼んだ
彼らは昇っていったにすぎない
天上でもなければ地下でもない
虚へ昇っていったのだ
ごらん、彼らの見開いた目は
一体どこを見ているというのか
どこも見ず
何をも見ず
ただ残骸を晒すのみ
彼らの懊悩は解き放たれて
しかし在るのはこの表情
答えておくれ、愛しい骸よ
いいや答える必要はない
所詮骸は骸に過ぎず
生者もまた実には至らず
わたしはわたしの中に在るだけ
取って代わりはしないのだから
彼らの懊悩は好ましく
蜜は蜜より甘やかで
彼らが虚へ向かう路を
胡乱な目で彷徨う様を
不在の道程へ至る苦悩を
眺め、記録し、手を添える
たったそれだけで構わないのだ
転落、果たしてそうだろうか
わたしの手を振りほどく者は
これまで一人もいやしない
ならば私は背中を叩き
優しく囁くだけでいい
存在しない虚数を選び
可視できぬ実を捨てていく
あるいはわたしのことをして
誰かはおそらく言うのだろう、
死にたがっているのはお前の方だと
実のところ、わたしは常に
背中を押されたがっている
さあ押すがいい、か弱き背中を
わたしは決して苦悩しない
わかっている、彼らは虚へと
虚へと昇って逝ったのだと

えせびと

2018-03-12 | つめたい
あなたは案山子
立っているだけでいい
綿布でできた皮を開けば
頭の中は藁でいっぱい
決して肉も詰まっていなければ
回路の巡る脳神経もない
ならば藁を詰めた方が
何倍も人の役に立つでしょう
立っているだけで許される
なんて羨ましいあなた
あなたは案山子
あなたを人とは
認めない

天国の扉

2018-02-15 | つめたい
地獄の門が開く鐘
(いいや、あれは単なるファンファーレ)
亡者がわらわら這い出てくる
(その言葉に間違いはないさ)
慄く人は斧を持ち
(なんだっていい、殺せるならば)
かの者の頭を叩き割る
(なんて愉快な催しだろう)

たとえば彼は生きていた頃
大切にしていた娘がいた、
花の大好きだった娘、
腐敗した頭に不似合いな
花冠は無残に散る

(ならばあなたは)
争いの起点など判別もつかず
(生きた者に死ねというのか)
結局誰の水かはわからないまま
(くずおれれば死んでそれまで)
靴には血と泥が跳ね返る
(神にでも祈っていろ)
折り重なる死者と死者

ようこそ、地獄へ
(生きてるみなさま)
ようこそ、地獄へ
(亡者のみなさま)
ようこそ、みなさま
(祈るなら今だ)
さよなら、みなさま
(どれに祈る?)

(あなたは知らないかもしれないが)
(あの花冠の亡者の脳を割ったのは)
(まだ幼さの残る娘だったよ)
(無理もない、無理もない、)
(面影もない悪魔が自分の父だと)
(いったい誰が信じるのだろう?)
(ああ、心地よい、)
(心地よい鐘の音だ)

大層なご身分ですこと

2016-10-14 | つめたい
舟を漕いで
会いにいく

ぎしぎしと鳴る櫂、
吹き付ける潮風、
まとわりつく潮の匂い、
赤く腫れて苦い舌根、
水があるというだけの砂漠、

死に場所を
思い出した

耳に残る海鳴り、
ささくれだつ舟の軋み、
鼻腔を抜けるおのれの血、
塩辛い、塩辛い、
うねりざわめく海流、

倒れる暇は
ないはずだ

耳障りな乾咳、
ひたひたと腿を濡らす海水、
手垢と古木の混じった臭い、
舌を乾かす死の風、
水があるというだけの砂漠、

(あのひとはどこへ行ったのだろう)
(元気でやっているだろうか)
(うちの子供も会いたいと言っている)
(何しろ自由な人だったから)

舟を漕いで
会いに行く

最後にひとめ
見て死のうと

水の叫び、水の冷たさ、水の刺激臭、水の晩餐、水の中、
舟があんなに遠くへある、血の色の泡がのぼっていく、犯される、犯されていく、

(虫がいい人だった)
(私はあの人、嫌いだったわ)