台風らしからぬ台風が行ってしまい、しかし台風一過らしい暑さがやってきました。
私が執務する部屋は西日があたり、エアコンをかけていても午後はむうっとする暑さです。
お手討ちの 夫婦(めをと)なりしを 更衣(ころもがへ)
与謝蕪村の句です。
更衣は夏の季語。
不義密通の罪で処刑されるはずのところ、罪一等を減じられて他国へ落ち延び、ようやっと二人で更衣の季節を迎えられた、といったほどの意でしょうか。
色っぽくも切ない内容で、夏の句らしからぬ情趣を感じます。
涼しさや 鐘をはなるる かねの声
こちらも与謝蕪村の句。
鐘がなるたびにその音は離れていく、ということで、爽やかな印象とともに、どこか寂しさも感じます。
郷愁の詩人と呼ばれた面目躍如といったところでしょうか。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (岩波文庫) | |
萩原 朔太郎 | |
岩波書店 |
私は俳人のなかではこの人の句を最も愛好しています。
蕪村俳句集 (岩波文庫) | |
尾形 仂 | |
岩波書店 |
ただ、わが国の文人の例にもれず、この人も夏を詠んだ句は少ないようです。
夏と言う季節は、わが国の詩歌の美意識に合わないのかもしれませんね。
暑すぎて閉口しますから。
日傘の影 うすく恋してる
と詠んだのは、20代半ばで亡くなった自由律の俳人、住宅顕信でしたか。
住宅顕信読本―若さとはこんな淋しい春なのか | |
辻 仁成,小林 恭二,石井 聡亙,香山 リカ,長嶋 有 | |
中央公論新社 |
住宅顕信全俳句集全実像―夜が淋しくて誰かが笑いはじめた | |
池畑 秀一 | |
小学館 |
惜しい人を亡くしました。
せめてあと10年長生きすれば、さぞかし多くの秀句を残したことでしょう。
なぜか自由律の俳人は早死にする人が多いようです。
尾崎法哉は40代前半、種田山頭火は少し長くて、60ちょっとだったと記憶しています。
自然を詠むことが多い定型俳句に比べて、おのれの心中を馬鹿正直に吐露する自由律というのは、命を縮めるのかもしれません。
そのストレスに耐えかねてか、大酒飲みが多いのも特徴ですね。
これからしばらくは暑い日が続きますね。
暑いのは本当に嫌ですが、この国に生まれたのだから、夏には夏の楽しみを味わいたいものです。
もっとも、海水浴に出かけて日焼けしながらひと夏の恋を求めるような年はとうに過ぎてしまいましたが。