ブログ うつと酒と小説な日々

躁うつ病に悩み、酒を飲みながらも、小説を読み、書く、おじさんの日記

ささきふさ

2012年12月27日 | 文学

 先般、縁あってささきふさという女流作家の「おばあさん」という小説を読む機会に恵まれました。
 浅学非才の身であれば、モガ(モダン・ガール)と呼ばれ、戦前から戦後の風俗を写実的に活写したこの小説家の存在をこれまで知らなかったことは、いたしかたない仕儀と言うべきでしょう。

 「おばあさん」という小説は、都内で長男夫妻と同居する93歳の母親を、伊東に住む末娘夫妻が引き取る話です。
 引き取るとは言っても、表向きは一週間程度伊東で温泉につかったり、おいしい海の幸を食したりして保養するために末娘宅へ旅行する、ということになっています。

 しかしそれは、実は折り合いの悪かった長男夫妻のもとから、末娘夫妻のもとへ死にに行く、死の準備だったのです。

 おばあさんが長男の元を離れなかったのは、大酒のみで独身の次男の存在がありました。
 次男はおばあさんと一緒に長男の家の離れに住んで、庭に畑を作って新鮮な野菜を母親にふるまう孝行息子の側面もありました。
 小説の一節に、

 おばあさんの隱居所は長男の邸内の片隅に在るのだが、本家で百姓につくらす野菜は枯れがれなのに、隱居所の縁先はいつも青あをと、心丈夫な眺めだつた。

 
とあり、それとなく、長男と次男の母親に対する接し方を対比してみせます。


 次男はロシア文学の翻訳を本業としていましたが、ついに成功することなく老母を残してはかなくなってしまいます。
 次男の死が、おばあさんに伊東行きを決心せしめたと言って良いでしょう。

 おばあさんは伊東で朝夕温泉につかり、海の幸を堪能するうち、肌つやもよくなり、体重も少し増えて、いたって健康に楽しく日々を過ごします。

 そんな折、ある出版社から次男が翻訳したロシア文学を出版したい、という話が持ち上がります。
 それも相当の高額報酬つきです。
 それを聞いたおばあさんは、顔色一つ変えず、次男の一周忌に間に合うかしら、などと心配し、高額報酬はすべて末娘にこれまでのお礼として譲る、と言いだします。
 固辞する末娘に、

 そして又不意に冴えざえとした目に戻つて、いたづらさうに云つた。
「いいですよ。私はちやんと遺言に書いておくから。」

 
これがこの小説のラストです。

 おばあさんはその後伊東で幸せに人生を全うしたのか、あるいは長男夫妻のもとに帰ったのか、次男の一周忌まで生きていられたのか、何も書かれていません。

 冷静な筆致のなかに、人間の情というものが、悪い感情も良い感情もさりげなく描かれていて、「東京物語」を始めとする小津安二郎の映画を観るような、抑えた構成が、より一層抑えられない感情を持つ人間の業を感じさせて、不思議な感慨を覚えました。

 今となっては忘れ去られた感のある作家ですが、時代に忘れさられてもなお、時の風雪に耐えた作品が持つ魅力を感じさせられ、深く感銘を受けたしだいです。

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生卵28個

2012年12月27日 | 文学

 チュニジアの20歳の青年が、生卵28個を飲んで死亡した、とのニュースを見かけました。
 もちろん、自殺のために飲んだのではありません。
 仲間内で生卵を飲む賭けを行い、賭けには勝ったが命は落としたそうです。

 しかし生卵を28個飲むなんて、どういう罰ゲームでしょうね。

 日本人は世界の中では破格に生食好き。
 刺身や鮨だけでなく、生卵をご飯にかけて食したりすることを好みますね。
 それにしても28個は異常です。

 不思議なのは、死因が不明なこと。
 日本で流通している生卵を28個飲んでも、死ぬことはないんじゃないでしょうか。
 せいぜい気持ち悪くなってゲロ吐いちゃうくらいでしょう。

 ということは、おそらく古い卵だったか、何らかの菌に侵された卵だったとしか思えません。

 人の死にあたって笑っちゃいけませんが、失笑せずにはいられません。
 豆腐の角に頭をぶつけて死んじゃった、みたいな話のような気がします。

 せめてその青年が、大の生卵好きであったことを祈ります。
 


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だるい

2012年12月27日 | 仕事

 なんだか今日は朝から体調がよくないようです。
 体が重いし、腰のあたりに鈍痛があり、お腹を下しています。
 しかし今日、明日出勤すれば年末年始のお休み。
 明日は13時から会議が入っており、今日はその準備のため休むという選択肢はありませんでした。
 もちろん、会議当日の明日も。

 サラリーマンですら、スケジュールによって休めない日というものがあります。
 これが開業医や理髪師となれば、なかなか休めないでしょうねぇ。
 患者やお客は、定休日以外当然開いていると思っているでしょうから。

 サラリーマンはチームで仕事をしますが、開業医や理髪師は本人だけですから、プレッシャーは大きいと思います。

 精神障害発症時、私は自分がやらねば誰がやる、という誤った考えのもと、無理に出勤を続けて症状を悪化させ、長期の病気休暇を余儀なくされました。

 今は真逆です。
 自分一人休んだってどうってことはない、組織は何の支障もなくまわっていく、と思うようになりました。
 同じ部署の数人がしんどい思いをするだけです。
 そう考えると、ずいぶん気楽になりました。

 よく組織の歯車なんて言いますが、私は歯車なんて立派なものではありません。
 私は組織の便所紙、あるいはせいぜい障子紙くらいなものでしょう。

 障子紙だか便所紙だかに人並みの給料を払ってくれるのは誠にありがたいことです。
 もはや今の職場にしがみついて、もらえるものをしっかりもらって定年まで働きたいものです。


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