T.NのDIARY

写真付きで、日記や趣味をひとり問答で書いたり、小説の粗筋を纏めたブログ

1580話 [ 「思い出が消えないうちに」の紹介 ] 11/21・水曜(曇)

2018-11-20 14:21:58 | 読書

「内容紹介」

 川口俊和著による「コーヒーが冷めないうちに」、「この嘘がばれないうちに」に続いてのシリーズ第3作。

(Amazonサイトより)

 伝えなきゃいけない想いと、どうしても聞きたい言葉がある。

 心に閉じ込めた思い出をもう一度輝かせるために、

 不思議な喫茶店で過去に戻る4人の物語。

 ‥‥‥

 とある街の、とある喫茶店の、

 とある座席には不思議な都市伝説があった。

 その席に座ると、望んだとおりの時間に戻れるという

 ただし、そこにはめんどくさい………

 非常にめんどくさいルールがあった。

 

 1.過去に戻っても、この喫茶店を訪れた事のない者には会う事はできない。

 2.過去に戻って、どんな努力をしても、現実は変わらない。

 3.過去に戻れる席には先客がいる。

  その席に座れるのは、その先客が席を立った時だけ。

 4.過去に戻っても、席を立って移動する事はできない。

 5.過去に戻れるのは、コーヒーをカップに注いでから、

  そのコーヒーが冷めてしまうまでの間だけ。

 

 めんどくさいルールはこれだけではない。

 それにもかかわらず、今日も都市伝説の噂を聞いた客がこの喫茶店を訪れる

 あなたなら、これだけのルールを聞かされて、

 それでも過去に戻りたいと思いますか?

 

 この物語は、そんな不思議な喫茶店で起こった心温まる四つの奇跡

 第一話「ばかやろう」が言えなかった娘の話

 第二話「幸せか?」と聞かなかった芸人の話

 第三話「ごめん」が言えなかった妹の話

 第四話「好きだ」と言えなかった青年の話

 

 あの日に戻れたら、あなたは誰に会いに行きますか?

 

「登場人物」

◉「喫茶ドナドナ」の店主・時田ユカリの家族・従業員

◎ 時田ユカリ(ときた・ゆかり)……

   函館の「喫茶ドナドナ」の店長で、流の母親。数の母の時田要の実姉。

   アメリカへ人探しの手伝いに行っている。

   息子しか生んでいないため、現在も時間移動できるコーヒーを淹れられる。

◎ 時田 流(ながれ)……

   東京の喫茶店「フニクリフニクラ」のマスター。ユカリの息子。

   母・ユカリが渡米中なので、その間、「喫茶ドナドナ」の店長代理を務めている。

◎ 時田 計(けい)……

   流の亡き妻。ミキの母親。

   東京の喫茶店「フニクリフニクラ」にて、15年前の生前に2030年の未来に向かって、

   娘に会いに来た。

◎ 時田ミキ……14歳

   流と計の娘。時間移動の能力を受け継ぐ。

   2030年現在、東京の喫茶店「フニクリフニクラ」の運営を、

   常連客の二美子と五郎と共に一時的に任される。

◎ 時田 数(かず)……37歳

   東京の喫茶店「フニクリフニクラ」のウエイトレス。流の従兄妹。ユカリの妹の時田要が母親。

   女の子を産んだため、時間移動の能力を失った。

   現在、流と共に「喫茶ドナドナ」のウエイトレスで手伝っている。

◎ 時田 刻(こく)……

   数の夫。幸の父。時田家に婿入りした。

   世界的に有名な写真家で世界を飛び回っていて、本書では登場しない。

   写真家として活動時は旧姓、新谷(シンタニ)を名乗る。

◎ 時田 幸(さち)……7歳

   数と刻の娘。時間移動の能力を数から引き継いでいる。

   母・数と共に「喫茶ドナドナ」を手伝っている。

   読書が好きで、普段から難しい本を読んでいる。

◎ 小野怜司(おの・れいじ)……

   「喫茶ドナドナ」のアルバイト店員。ルールの説明になれている。

   函館大学に通う学生。松原菜々子の幼馴染み。芸人を目指している。

◉常連客

◎ 松原菜々子(まつばら・ななこ)……

   「喫茶ドナドナ」の常連客。函館大学に通う学生。小野怜司の幼馴染み。

   今どきのオシャレ女子。実はある病を抱えている。

◎ 村岡沙紀(むらおか・さき)……

   「喫茶ドナドナ」の常連客。函館のとある総合病院の精神科医。

◉客

◎ 瀬戸弥生(せと・やよい)……20歳

   大阪の施設育ち。亡き両親が「喫茶ドナドナ」で撮った写真をもっている。

   中学から不登校。高校は行かずアルバイト生活でネットトカフェ難民。

◎ 瀬戸美由紀(みゆき)……

   弥生の母親。敬一の妻。

◎ 瀬戸敬一(けいいち)……

   弥生の父親。美由紀の夫。

◎ 林田コータ(はやしだ)……43歳

   お笑いコンビ「ボロンドロン」のメンバー。芸人グランプリ優勝者。

◎ 轟木ゲン(とどろき)……

   お笑いコンビ「ボロンドロン」のめんばー。芸人グランプリ優勝者。

   皆から「ゲンちゃん」と呼ばれている。失踪中といわれていた。

◎ 轟木世津子(せつこ)……

   轟木ゲンの妻。旧姓、吉岡。5年前に死亡。

   轟木と林田とは幼馴染み。献身的に売れない夫を支えた。

◎ 布川麗子(ぬのかわ・れいこ)……

   妹が亡くなったことを受け入れられず睡眠障害を患う。婚約も破棄した。

◎ 布川雪華(ゆきか)……

   麗子の妹。「喫茶ドナドナ」の元アルバイト店員。

◉幽霊

◎ 黒服の老紳士……

   過去に戻れる席に座る幽霊。静かに本を読んでいる。

   シルクハットを被り、燕尾服を着ている。

 

    「あらすじ」へ続く

 

 

    

                                           

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

1579話 「 ダイヤモンド婚 」 11/20・火曜(晴)

2018-11-19 18:09:15 | 日記・エッセイ・コラム

                                                                                            

 今日は、私たち夫婦の結婚60周年の記念日。

 おかげさまで、元気にダイアモンド婚を迎えることができたことを、

 周囲の人々に感謝しています

 

 昭和33年(1958)11月20日、現住所市内の日本旅館で結婚式を挙げた。

 今のように友人知人も入っての披露宴はなく、親戚だけの結婚式と披露宴であった。

 当日の夜、宇高連絡船に乗り、岡山から特急に乗って雲仙へと新婚旅行に行った。

 翌日、雲仙に着いて一泊し、翌々日は長崎に一泊して帰着した。

 岡山から雲仙への特急は、寝台列車はなく、今の普通列車並みのものであった。

 当時、新婚旅行に行くのは、珍しいことでもあったので、

 今では、いい思い出になっている。

 現在、3人の子供たちも夫々結婚して、みんな東京で住んでいる。

 私たち夫婦は、親の故郷の当地で、老人の生活を元気に営んでいる。

 後日、今年中に、この60年間のことを「夫婦史」として、記述する予定にしている。

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

1578話 「 墓参 」 11/18・日曜(晴)

2018-11-18 10:59:43 | 日記・エッセイ・コラム

                                   

 10日早い母親の命日墓参に行ってきた。

 母は昭和47年(1972)11月28日、享年63歳で死亡。

 この日は小雪が舞いみぞれが降っていたことを思い出す。

 今年は少し暖かいといっているが、自然はどうなるかわからない。

 そんなこともあり、10日早く墓参した。

 写真に見えるように、今日は全くの快晴。

 気温も墓参した午前の最高気温が17.7℃。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

1577話 [ 「下町ロケット・ヤタガラス」の粗筋 10/10 ] 11/13・火曜(曇)

2018-11-13 11:04:19 | 読書

下町ロケット・ヤタガラス

「あらすじ」

「最終章 関係各位の日常と反省」

-1-(台風来襲で殿村の父は稲本に古いコンバインを貸す)

 秋の収穫時期である。例年ならひと月ほどかけてゆっくりと刈り取っていくのが常だが、今年は四国の南海上を強い台風が東進してきている。

 刈り取りが残っている田んぼは、あと二町歩弱ある。

「どう思う、オヤジ。今日、全部やっちまうか」

 殿村は農道に軽トラを止め、父の正弘に問うた。

「本来なら、刈り取りはもう少し後だが―――」といいながら、稲を見て、風のざわめきに耳を澄ませる。

「よしっ、一気に刈るぞ」

 決断の声が殿村を振り向かせた。

「すぐにコンバインを入れてくれ」、その正弘の判断に、殿村は自宅へ軽トラを急がせた。

 午後3時過ぎである。無人コンバインの「ランドクロウ」なら、夜っぴて収穫が可能なのだ。

 正弘の勘が的中し、台風が関東方面へと進路をとり始め、上陸の可能性があると報じられた。

 翌日の昼過ぎのことであった。殿村家の田圃では、無人コンバインによる正確な収穫作業の真っ最中だ。

 いま田んぼに立って、「ランドクロウ」の運行状況を見ていた殿村の脇に軽トラが止まると、クルマの窓から稲本が、「古いコンバインでいいから、済んだ後でいいから貸してくれないか。いつ頃終るか。間に合わないんだ」といった。

「どのくらい残っているのか」

「十町歩ぐらいだ。朝から有人コンバイン3台でやっているのだが、とても間に合わないのだ」

 そこへ農林協の吉井が来た。稲本に、「何処もコンバインを貸してくれない。夕方までにどれぐらいのか」と問う。

「六町歩は残ると思う」と稲本の顔面は蒼白だ。

「殿村さんから借りるんですか。たかだか六町歩じゃないですか。稲本さんとこ農業法人でしょう」

 吉井のひと言に、殿村は、はっと視線を向けた。

「ふざけんじゃねえぞ」

 稲本が大声で吉井を怒鳴りつけた。「オレたちがどんだけ真剣に米作ってると思ってんだ。損しなきゃいいとか、そういう問題じゃねえんだよ。大切に育てた米を少しでも収穫したいっていう気持ちが、お前にはわかんねえのか。とっとと失せろ」

 吉井は逃げるように去って行った。

「おい、稲本君」

 正弘が声をかけた。「古いのでよければ貸すぞ。使ってくれ。困っているときにはお互い様だ」

「有難うございます。すぐに取りに来ます。―--殿村、ありがとな」

 稲本の軽トラは、猛スピードで走り去っていった。

 

-2-(製造部製小型トランスミッションの評価Cで、奥沢は面目なし)

 この日、開かれた経営企画会議の主役は、財前道生であった。

 当初、苦戦していた無人農業ロボットの売上げは、今や計画比を上回る快進撃を続けている。

 とくに、財前が評価されたのは、その戦略の緻密さにある。

 ただ無人のトラクターやコンバインを売るだけではなく、ICT農業の在り方やライフスタイルを売るーーー。

 そのための手厚いコンサルティングまでを含めた事業展開によって、いま帝国重工は農業界においてその地歩を築きつつあった。

 会議室から廊下に出るや、会長の沖田は、製造部長の奥沢を自室に呼びつけた。

「なんだあの財前の報告は。いまだエンジンやトランスミッションは下請け頼みだ。君はトランスミッション専門だろう。よくあんな発表を黙って聞いていられるな」

 沖田の怒りの激しさに、息を呑んで硬直していた奥沢だが、

「ご安心ください、会長。すでに、当部で無人農業ロボット用の小型トランスミッションを開発済みで、近々予定している枚チェンジのタイミングで載せ替えを検討しております。エンジンも同様に開発しておりますので少々お待ちください」

 沖田が向けてきたのは疑わしい目だ。それを和らげるように奥沢は続けた。

「先日、モーター科研にサンプルを送っておりまして、間もなく結果が入るかと思っています。我が社に相応しいトランスミッションができたと自負しております」

 沖田はようやく納得した表情を見せた。

「マイナーチェンジなど待つ必要はない。評価を得たらすぐに載せ替えろ。いいな」といったあと、的場のその後のことを聞いた。奥沢は知りませんと答える。

 的場俊一は、取締役を辞任後、関連会社の社長の椅子を蹴り、帝国重工を退職していた。その後の的場の消息は杳(よう)として知れない。

 製造部に戻った奥沢が奥沢が直行したのは、企画課長の小村のデスクである。

「モーター科研の検査結果、来たか。もうそろそろだろう」と問うた。

 小村は、その件なんですかと、返答に窮したが、まず、

「総合評価 C」と記載されている資料を見せた。

 奥沢の手は震え出した。

 

-3-(伊丹の再起)

 その年の「アグリジャパン」が開かれたのは、10月最終週とのことであった

 帝国重工のブースは人で溢れ、展示された「ランドクロウ」の回りには常に人だかりができる人気である。

「シマちゃん」

 島津が振り返ると半纏を着込んだ伊丹大が立っていた。

「その節はありがとうございました」

 改まった調子で頭を下げた伊丹の後方に、「ダーウィン・プロジェクト」のブースが見える。

 島津から元気にやっているかと聞かれ、伊丹は、「何とか生きているよ」と返事をする。

 佃製作所がライセンス契約をして同プロジェクトを助けたのは、つい昨日のようだが、早一年近い月日が過ぎている

「ダーウィン」のリコールのために、ギアゴーストは相当の費用を負担し、一時は会社の存続さえ危ぶまれるほどであった。伊丹は、それを経営感覚で何とか乗り切ったのである。

「自業自得」

 伊丹は苦笑いを浮かべた。「だけど倒産するわけにはいかなかった。オレたちを信用してくれた農家の人たちに迷惑をかけられないし、そんなことになれば、せっかく助けてくれた佃さんにも顔向けできないからな。ーーー感謝しているよ。佃さんにも、シマちゃんにも。ひと言、礼を言いたくてさ。―--ありがとな、シマちゃん」

 島津は少し笑い、「なに他人行儀なこといってんの」という。

 だが、伊丹は真剣そのものの眼差しを島津に向けていた。

ライセンス契約のときにさ、佃さんにいわれたんだ」

 伊丹は続けた。「あんたたちを信じた人たちを裏切るな。過ぎたことは、もういいじゃないか。日本の農業のために一緒に頑張ろうや、って。涙が出た。あれが下町の心意気ってやつなんだな」

 そういうと伊丹は、涙を一杯に貯めた目で空を見上げたのであった。

 

       

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

1576話 [ 「下町ロケット・ヤタガラス」の粗筋 9/? ] 11/11・日曜(晴)

2018-11-10 13:23:37 | 読書

下町ロケット・ヤタガラス

「あらすじ」

「第九章 戦場の聖譚曲」

-1-(財前から佃に的場の辞任情報が伝わる)

 学会があるから上京すると、北海道農業大学の野木から連絡を受けたのは、9月上旬のある日のことであった。

 人形町にある和食の店で顔を合わせる。野木とは、およそ二月ぶりてあった

「今回の的場さんのやり方は酷すぎた。あそこまでやる必要はなかったんだ」

「同感だな。もっと我々の技術力を信じて欲しかったと思う」

 野木はそう言いながら、足下のカバンの中から最新号の科学雑誌を引っ張り出した。

「月刊メカニカルサイエンス」。機械工学分野の権威ある専門誌だ。

 ―――自動走行制御システムの徹底比較、といったタイトルの記事が載っていた。

 それは、編集部が「ランドクロウ」と「ダーウィン」のトラクターを借り、20もの項目で比較、点数化したもので、「ランドクロウ」が圧勝していた。さらに、両方のトラクターを各々実際に使っている農家や販売している農林協を取材したものであった。

 野木はいった。「こんな形で自分の研究の評価が下されるなんて面白いじゃないか。僕の研究はいってみれば実学だ。実学であるのなら、農業に携わる人たちの評価を真摯に受け止めるべきだと思う。それこそが僕の研究に対する真の評価なんだ

 佃は心から同意しつつも、身の引き締まる思いであった。佃もまた、常に市場の評価にさらされている。必要がないものを作れば、あっという間に淘汰され、世間の荒波に消える運命にある。

 ポケットの中で、佃のスマホが着信を告げたのはそのときだ。

 クルマの騒音に、財前の言葉はきれぎれに聞こえた。「先ほど、弊社は緊急の記者会見を行い、的場俊一取締役の辞任を発表しました

 佃は言葉を失い、店内の野木を振り返った。

 

-2-(重田の的場への復讐の終焉)

 帝国重工の緊急記者会見を伝えるニュース映像を重田は眺めている。

 下請法違反の事実を全面的に認め、担当取締役として深々と頭を下げた的場の姿に、無数のフラッシュが焚かれる。画面で見る的場は、意思のない人形のようであった。

 弱々しく許しを請う哀れな男の姿を見つめる重田は、これがオレの勝利なのか、と愕然としている。

 こんな男への復讐のために、ひたすら怒りを燃やし、自らを鼓舞して来たのか。

 ここには期待した歓喜も想像した達成感もない。あるのはただの虚しさだった。

 

-3-(的場の辞任が、伊丹の人生の節目になる)

 伊丹は社長室にあるテレビで従業員たちと共に的場を見ていた。

 かつて自分を裏切り、帝国重工を追い出した男ーーー。この男に対する憎悪のために、島津と決別し、ダイダロスの重田と手を結んだ。

 だが、そこまで自分を駆り立てたものは何だったのかと、いま伊丹は考えた。

 的場から受けた仕打ちへの怒りか。裏切られ騙されたことへの恨みか。無論それもあるだろう。だが、このとき、気づいたことがあった。

 それは、自分が許せないのは的場ではなく、実は自分自身だったのではないかということだ。

 ―――会社なんか興すもんじゃない。カネに縛られるほど無様なことはない。

 いまでも、この父の言葉はまざまざと伊丹の脳裏に蘇てくる。

 小さな町工場を経営していた父は、自らの人生を顧みつつ、与え得る最大の教訓を伊丹に授けてくれた。

 だが、父が与えてくれたその尊い教えに、伊丹は背いた。背かざるを得なかった―――的場のために。

 そんな風にしか生きられなかったことを伊丹はずっと心のどこかで悔いていたのだ。

 そしていまーーー。その男は―――無惨に倒れた。

 人生の節目と呼べるものがあるとすれば、いまがまさにその瞬間に違いない

 そう思っているとき、

「社長、お電話です。ヤマタニの入間さんから」

 アシスタントの坂本の声に、伊丹は目を開いた。

 入間の声は重々しい響きを伴っていた。「『ダーウィン』のトラブル報告が多すぎるんだよ。トランスミッションに構造的な欠陥があるんじゃないか

「トラブルについては把握しておりますが、現在、原因については確認中でして―――」

「だったらすぐに確認してくれないか」

 電話の声に苛立ちが混じった。伊丹が最も怖れるひと言が吐き出されたのは、その直後である。

「こんなことは、言いたくないがね。場合によっては、リコールを検討するべきだと思う」

 

-4-(「ダーウィン」のトランスミッションの欠陥を解決する技術の特許が佃製作所に)

「どうだ。何かわかったか」

 取引先から帰社した伊丹は、真っ先に社屋の二階にある小部屋に入った。

 その小部屋のワークデスクで、先日から1台のトランスミッションが分解され、精査されている。

 帝国重工「ランドクロウ」に搭載されている佃製トランスミッションの、リバースエンジニアリングだ。

「この遊星ギア、ウチのと比べてみてください」

 並べてみせたのは、「ダーウィン」に搭載しているギアゴースト製トランスミッションである。

同じ働きをする部品ですが、佃製作所のほうはかなり特殊な形状になってるんです。ギアの形状や周辺パーツにも工夫がある。この辺りに何かしら理由が隠されている気がします」

「要するにウチの構造だと、部品への負担が大き過ぎるということか。だとすれば、ウチの部品をこれと同じ様に修正することは可能か」

 佃製作所の部品を指差して、伊丹が聞いたとき、

「おい、ちょっと待てよ」

 氷室が声を荒げた。「あんたは、トラクターの故障をウチのミスだと認めるっていうのか」

「あんたは黙ってろ」

 伊丹はついに鋭く言い放った。「あんたは、わからないんだろ。だったら、やってみるしかないだろうが。あんたは自分のプライドのことしか頭にないかもしれないが、こっちは会社の命運がかかってるんだ」

 伊丹の剣幕に、氷室は震える唇で反論しようとしたが、言葉は出てこない。

大至急、この部品の権利関係を調べてくれないか」

 暫くして、深刻な表情の堀田が、「さっきの部品に関する特許が、すでに佃製作所により出願されているようです」と報告した。

 

-5-(伊丹がライセンス契約を佃に切願することになる)

 伊丹の求めで、この日、「ダーウィン・プロジェクト」の主要メンバーが集まった。技術的な話になるので伊丹は堀田も連れてきている。

トランスミッションの構造に問題があったとしても、欠陥というわけではないだろう」

 重田が聞いた。そこが肝心なところだからだ。

「残念ですが、欠陥ではない、と言い切れる自信はありません」

 堀田は続ける。「弊社でこの問題について鋭意検討してきましたが、いまだ独自の解決策を得るに至っておりません。いまのところ唯一の解決策は、似た構造をもつ佃製作所製トランスミッションに採用されている技術を取り入れることかと………」

「だけど、それには知財の網がかかっているわけでしょ。だったら、それに代わる発明をしてくれよ」

 キーシンの戸川は簡単にいう。

「申し訳ないが、すぐには難しい。氷室も退職している」

 伊丹は、続けて、「ヤマタニから、リコールを検討するようにいってきている」とも告げた。

「全てが順風満帆に進むビジネスなんかない」

 会社を潰している重田の言葉は、重々しく響く。「とにかく、ここを乗り越らないことにはどうにもならない、何とかして佃製作所からライセンス契約を取り付けることだ」

 返事の代わりに、伊丹はしばらく天井を仰いでいたが、絞り出すような声で、

「この件は私から佃社長に相談してみます」と告げた。

 

-6-(「ダーウィン」のトランスミッションは私の設計で、欠陥があることを島津が告げる)

「紆余曲折はありましたが、ようやく、本来の形に戻ったということですね」

 ほっとした表情でそういったのは山崎である。

 毎週水曜日の夕方開かれる佃製作所内の連絡会議だ。

 的場俊一の辞任が伝えられたのは、三日前のこと。無人農業ロボット事業を統括する的場の後任として、宇宙航空本部長の水原重治が任命された。

 その水原は直ちに、事業を取り仕切るプロジェクト・リーダーとして財前を指名し、現場の総指揮をとるように命じたのである。

 財前が現場の陣頭に立つことで、日本の農業を救うという事業本来のの志を取り戻したといっていい。

 会議の中で「ダーウィン」は故障が多いという話が出たとき、島津は難しい顔になって考えていた。

 気になっていた佃が、会議の後、そのことを島津に聞いた。

「『ダーウィン』のトランスミッションって、ベースになっているのは私の設計なんですけど、あの設計には欠陥があるのです

 初めて聞く話であった。会議室に残っていた社員たちも一様に立ち止まり、島津の話に耳を傾けている。

私がそれに気づいたのは佃製作所に来てからです。ウチのトラクターも途中で止まっちゃったことがあったでしょう。具体的な解決策を思いついたのは、そのあとです」

「あの特許申請がそれですか

 そう聞いたのは、唐木田だった。この特許については、役員会でも報告されている。

「その欠陥を持ったまま使い続けるとどうなるんだ」と佃が聞いた。

「ギアが変速できなくなる可能性があります。もし、私の最初の設計通りだと、部品に負担がかかり過ぎて、あるところまでいくと、変形したり破損したりするんじゃないかな」

「もし、それが事実なら、リコールが必要かもしれない。大変だ」

 山崎が真剣な顔でいった。

 ギアゴーストの伊丹から、佃の元に連絡があったのは、その翌日のことであった。

 

-7-(ライセンス契約を哀願する伊丹。しかし、佃は断る)

 約束の時間に、伊丹は、単身、佃製作所にやってきた。

 伊丹は、まず、佃をはじめ社員の皆さんに不愉快な思いをさせてしまい、申し訳なかったと心から詫びて、深々と頭を下げた。

「ダーウィン」のトラブルを説明し、伊丹は単刀直入に切り出した。

「弊社にはこのトラブルを解決するだけの技術力はありません。虫のよい話だとは重々承知しています。ですが、もう私どもには他に手段がありません。御社が特許申請しておられるこの技術を、私どもにも使わせていただけないでしょうか。何とぞお願いします」

「あんた、誰に向かって頼んでいるんです」

 唐木田が声を怒らせた。「ウチはお宅のライバル企業ですよ。なんでライセンスを供与しなきゃならないんです」

「ずいぶん、調子のいいことをおっしゃいますね」

 山崎がいった。「裁判で負けそうになったとき、誰が助けたんですか。一緒になってリバースエンジニアリングも手伝った我々をソデにしてダイダロスと提携したのは御社でしょう。生き残るためにそうしたとあなたはおっしゃいましたね。ウチとでは生き残れないと。ウチにだってね、プライドってものがあるんですよ」

 伊丹は、どちらの言葉にも、「返す言葉もございません。本当に申し訳ございませんでした」と深々と頭を下げるばかりだった。

「断りましょうよ、社長」

 唐木田のひと言に伊丹はさっと青ざめた顔をあげる。

「そこを何とかお願いします。ライセンス料は、いくらでもお支払いします。ウチの儲けなんかなくていいと思っています」

「金銭の問題じゃありません」、と山崎が怒りに青ざめて言い放った。

「伊丹さん」

 佃がようやく口を開いた。「人の痛みというのは、与えたほうは忘れても、与えられたほうは中々忘れないものです。我々は誠意あるビジネスを心かげてきたし、実際にそれを実施してきたつもりだ。下町のいいところは、そういう気持ちの通じ合う仕事ができるところなんじゃないのかい」

 伊丹は俯き、唇を噛んだまま答えない。

「それに、あんたたちの『ダーウィン』は、下町の技術を世の中に知らしめたいというコンセプトだろう。だけど、それは本当に正しいんだろうか。ライセンス云々という話の前に、私が一番ひっかかっているのはそこだ」

 佃は続ける。「道具というのは、自分の技をひけらかすために作るものじゃない。使う人に喜んでもらうために作るもんだ。なのに、あんたたちのビジョンにあるのは、自分のことばっかりじゃないか。下町の技術だの、町工場の意地だのといってるが、誰が作ろうと、使う人にとってそんなことは関係がない。本当に大切なことは道具を使う人に寄り添うことだ。あんたたちにその思いがあるのか

 あまりのことに、伊丹はただ惚(ほう)けたようになって、佃を見ている。

その肝心なことすら分からず、自分たちのことしか考えてない連中に、ウチのライセンスを渡すわけにはいかない。顔を洗って出直してくるんだな

 もはや、伊丹から反論の言葉は出てこなかった。

「佃さんのおっしゃる通りです。失礼しました」と立ち上がり、「島津さんに伝えていただけませんか。オレが間違っていたと、すまなかったよ」と言い残すと、佃たちの前を辞去していった。

 その翌日、伊丹から数回佃のスマホに電話があって、お会いしたいとの申し出があったが佃は断った。

 その伊丹が、その翌日、突然アポなく訪ねてきた。しかし、佃は会うことを断った。

 伊丹はその翌日も、さらにその翌日も諦めず佃を訪ねたが、どれだけ来ても同じだと断った。

 

-8-(佃たちの気持の変化)

 秋晴れの拡がる田んぼでは、収穫の時期を控えた稲穂が黄金色の輝きを放っていた。今年も例年になく穫れそうだ、佃さんたちのおかげだと、殿村家では佃たちの来訪を心待ちにしていた

 そんなある日、帝国重工が新たに製品化したばかりの無人農業ロボットを見学するために、佃たち佃製作所のスタッフが殿村家を訪ねた。

 コンバイン―――育った稲を刈り取り、収穫するための機械である。トラクターと同じく無人で動く農業ロボットだ。

 その日、納車したばかりの「ランドクロウ・コンバイン」は、またしても父り正弘を感激させた。

 ひと通りの作業を見学し終えたのは、午後4時過ぎのことだ。道路が混むからと、急ぎ殿村家をおいとました佃製作所の一行であるが、

「すまん、立花。ちょっと止めてくれ」

 インターチェンジに向かう途中の農道を走っているときだった。

「おい、ヤマ。あれを見てみろ」

 田んぼの真ん中に、1台の「ダーウィン」のトラクターが立ち往生している。

「例の故障じゃないですか」

 動かなくなっているトラクターの傍らに、農家の30代半ばの男が立っていた。脇妻も立ち、途方にくれた表情で夫を見つめている。その傍らに、子供と思われる男の子と女の子が、そんな父と母を、心配そうに見上げていた。

 立花が手伝って来ましょうかといったとき、農林協のロゴの入った車が来た。慌てた様子で男が降りて田んぼの中を小走りに近寄っていく。

 故障の状況を説明しているのだろうと思われる農家の男と、頭を下げてひたすら謝る農林協の男の様子が見える。

 どれくらい、それを眺めていただろうか。「もういいぞ。出してくれ」と佃がいい、再び動き出した。

 佃はバンの中で一心に考えて続けている。やがて、

「『ダーウィン』を―――いやギアゴーストを見捨てるのは、さっきの農家のような人たちのことを見捨てるのと同じことかも知れないな」

 誰にとも言った佃の言葉を、山崎や島津、軽部と立花、そしてアキが聞いている。

「オレたちの目的は、日本の農業を救うことだよな」

 佃の独り言は続く。「だったら救ってやれないか、あの人たちを」

「救ってあげましょうよ。救うべきです」という山崎。

「見捨てるべきじゃないです」と島津がいう。

 アキも軽部も賛成し、最後に運転席から立花が、「社長、お願いです。救っていただけませんか」と車を止めようとしている。

 佃の腹も決まった。

 

-9-(「理念に基づく金儲け」の考えで、帝国重工はライセンス供与を認める)

「『ダーウィン・プロジェクト』に技術供与をするというのか」

 藤間社長の眼光が水原と財前のふたりを射た。

「佃製作所の分析によりますと、同社で特許申請しているトランスミッション技術を供与しても、我々の『ランドクロウ』は、自動走行制御システム、エンジンおよびトランスミッション、その全てにおいて技術的優位に立っていると」

 財前が差し出したのは、最近「月刊メカニカルサイエンス」誌に掲載された、「ランドクロウ」と「ダーウィン」の技術を詳細に比較検討した記事である。

 その分析結果に目を通した藤間に、財前は続ける。

「宇宙航空部でも比較検討を行いましたが、ほぼ同様の結果を得ております。『ダーウィン・プロジェクト』に佃製作所のトランスミッション技術を使わせることで、我々の技術に対するユーザーの評価も高まるものと思われます」

「ライセンスを与えなかった場合、どうなる」

 藤間の問いは単刀直入だ。

「『ダーウィン・プロジェクト』は行き詰まるでしょう。ですが、問題はそこにありません。『ダーウィン』はすでに千数百台も市場に出ております。それを購入した農家が問題なのです。『ダーウィン・プロジェクト』が破綻すれば、その農家が困ることになります。一般的なトラクターより高価な代金のローンが残っているのに、リコールもされず、代替機もない。多くの農家が切迫した状況に追い詰められるでしょう。看過ごすわけにはいきません」

「それはウチの責任か」

いいえ違います。表面的にこれは、尻ぬぐいのようなものです。ですが、この判断は、我々の無人農業ロボット事業の理念に基づいています。日本の農業を救う、という理念です。我々は、そのために無人農業ロボット事業を立ち上げました。相手がライバル会社のユーザーであれ、窮地に陥っているものを見捨てることは理念に反します」

 藤間から、「わかった。思うようにやってみろ」という言葉が出た。

 それは、佃製作所が申し出た「ダーウィン・プロジェクト」へのライセンス供与について、藤間の決済が下りた瞬間であった。

 藤間の前を辞去して廊下に出たとき、水原が、「お前、霞を食って生きて行けるのか」と問う。

「理念と金儲けは、必ずしも一致しませんが、理念がない金儲けは、ただの金儲けです。我が帝国重工のすべきことではありません」と答えた。

 

-10-(日本の農業を救うために、「ダーウィン」への救世主が現われる)

「ダーウィン・プロジェクト」に参加している300社以上の中小企業の経営者が急遽集められ、緊急会議が始まった。

 マイクを持った伊丹は、「ダーウィンに起こっているトラブルの原因がトランスミッションにあることが判明し、その解決策を模索してきたが、有効な解決策を見いだせないまま、いまに至っております。そんな中、この不具合を解決できる技術が存在することがわかり、その技術を持っている会社に使用許可を求めましたものの、残念なことに、同意を得られませんでした。このような状況を踏まえ、『ダーウィン・プロジェクト』の方向性についてご意見をいただきたい」と説明し、謝罪した。

 様々な声が会場から上がる中、会場に突然、佃が現れ、「私にお話させてください」と伊丹からマイクを受け取った。

 佃は、まず、「ダーウィン」を窮地から救う切り札となる特許を有している会社だと明かし、自分たちの技術を守りたいという一念から、伊丹の申し出を断った経緯を語った。しかし、先日、「ダーウィン」のトラブルにより、困っている農家の人々の姿を目のあたりにしたことにより、その考えが変わったといったことを佃は続けた。

困っている農家の人たちを見たとき、思い出したのです。帝国重工の無人農業ロボットの目標、理念とは、日本の農業を救うことだと。ならば、こうした方を救うのだって我々の仕事なんじゃないか。どこのトラクターを使っていようと関係ない。この方たちに喜んでもらうために、我々はできることをするべきではないか」と、

 そして、「この考えに社員皆が賛成してくれたこと、帝国重工のプロジェクトリーダーである財前さんがすぐ賛成されて、社員の調整に尽力してくれたこと、また、プログラムを担当している北海道農業大学の野木も背中を押してくれたこと」を語り終えると、

私たちの技術、どうか使って下さい。そして、『ダーウィン』を信じて購入した農家の方々を救っていただきたい。どうか、彼らの期待を裏切らないでください。私は、日本の農業の発展のために、喜んでライセンス契約に同意させていただきます」と言い切った。

   「最終章」に続く

 

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする