T.NのDIARY

写真付きで、日記や趣味をひとり問答で書いたり、小説の粗筋を纏めたブログ

[ 「博士が愛する数式」を読み終えて !! 6/? ]

2014-10-17 13:32:29 | 読書

                                                                                                           

5ー 博士の不思議な能力と博士への野球観戦のプレゼント

 数学の才能と関係があるのかないのか不明だが、博士には不思議な能力があった。何故、そんなことができるのか尋ねてみたが、自分でもよく分からないようで、特別に訓練を積んだわけでも、特別努力したわけでもなく、殆ど無意識のうちにできてしまうらしい。

 まず一つは、言葉を瞬時に逆さまにすることができた。私が「世界ビックリ人間ショーにだって出演できます」と言うと、「すまきでんえつゅしてっだにうょしんげんにりくっびいかせ」と言うのだが、博士は少しも嬉しそうではなかった。

 もう一つの才能は、誰よりも一番星を見つけられることだった。夕方には早すぎる、まだ太陽が空の中ほどで照っている時分でも、空を指さし、一番星だと言われるが、私には見えなかったのです。

 [ある日、私が、書斎の本棚を整理しているとき、一番下の段で数学書の山に押し潰されているクッキーの缶を見つけた。意外にも中味は野球カードだった。

 40センチ四方ほどの缶に、びっしりと一分の隙もなくカードが一枚一枚クリアーケースに納められ、投手、セカンド、レフト等と手書きされた厚紙により分類がなされ、各分類ごとに阪神の選手のカードがアイウエオ順に並べてあった。ただ一人、江夏だけが特別で「江夏豊」の厚紙で仕切られた一角を与えられていた。]

 [私は、5月の給料日に阪神対広島のチケットを3枚買った。この町にタイガースが遠征に来るのは年2回ほどなんで、この日を逃すと当分チャンスは巡ってこなかった。クッキー缶に入った野球カードを見つけた時にふと思ったのだ。]

 重い病を抱え、一日中、数の世界を探索している老人と、物心ついたころから毎晩母親が帰ってくるのを、ただひたすら待ち続けてきた少年に、一日くらい野球の試合を見せてやったって罰は当たらないはずだ。正直に言えば内野指定席3枚の出費はいたかった。

 しかし、予想に反してルートの反応は鈍かった。「博士は賑やかな場所は嫌いだよ。博士は時間的に明日のための心の準備っていうものができないんだよ。それに、博士が知っている時代のタイガースの選手は誰も出場しない、皆、引退してるんだよ」と言った。

 私は、ルート自身の気持を聞いてみた。絶対に行きたいと言う。

 [私とルートは、その日になってルートが学校から帰ってきてから二人で自然の雰囲気の中で野球観戦を持ち出した。博士から、江夏に会えるかなと言われ、一昨日巨人戦に先発したからベンチ入りしていないんだ御免と言い、「博士と一緒のほうが楽しいよ」、この一言が決め手となり、博士は承諾した。]

 バスに乗ってからは、博士は緊張して座席の肘当てを、降りてからは、ルートの手をきつく握っていた。

 後年、私とルートは折に触れ、あの特別な一日について語り合ったが、博士が実物の野球を心から好きになってくれたかどうか二人とも自信がなかった。博士は、球場内で物の長さや重さなどの数字や打率データなどの計算にだけ興味があったように見えた。

                           次章に続く

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[ 「博士の愛する数式」を読み終えて !! 5/? ]

2014-10-17 10:52:27 | 読書

                                                                                                              

4ー 博士が愛するものと嫌悪するもの

 [この世で、博士が最も愛したのは、「素数」だった。私とルートに聞かせてくれた数学の話に多分一番多く登場しただろう。1と自分自身以外では割り切れない、一見頑固者風の数字のどこにそれほどの魅力があるのだろう。博士は素数について何度も同じことを繰り返した。けれど、私とルートは決して、その話は、もう聞きましたと言わないように固く約束し合った。江夏について嘘をつくのと同じくらい大事な約束だった。]

 [反対に、博士がこの世で最も嫌悪したのは人込みだった。常に、彼は静かであることを求めた。博士の求める静けさは、外界の音が届かない心の中に存在していた。博士が、数学の懸賞問題が解け、清書し終わったとき感じるのは喜びでなく静けさなのだ。したがって、静かであることは褒め言葉でもあった。私がひだを四つ寄せながら包む餃子を、さら一杯に行儀よく並べて食卓に置くと、ああ、なんて静かなんだと言ってくれるのだ。]

 博士が嫌悪する状況の中で、どれほど恐怖を味わうのかを知ったのは、ルートが包丁で怪我をした時だった。

 [私が買い物に行った留守に、宿題が終わったルートがおやつにリンゴを剥こうとしてナイフで親指と人差し指の間を切ったので、ルートが絆創膏を探しているところを博士に見つかったのだ。そこへ私が帰ってきた。博士は手から血を流しているルートを抱きしめていて、恐怖のためか、満足にしゃべることもできないくらい動揺していた。私は、まず、ルートを博士から引き離し、ルートの傷口を洗って、ルートにタオルを渡し手で押さえているように言って、とにかく、博士を生気に戻すほうが先決のように思えた。(もう血も止まっているし病院に連れて行くからと話すなどした)博士が落ち着くと、診療所に電話して診察をお願いした。診療所へルートを連れていこうとしたら、足を怪我しているわけでもないのに、博士は、耳も貸さず30キロ近くあるルートを背負って走った。]

 [傷口を二針縫っただけで塞いだが、腱が傷ついていないか検査するのに時間がかかった。博士が自分の心の不安を抑えるためか、私を慰めるためか、突然、君は「三角数」を知っているかと尋ねた。]

 三角数は、几帳面な人が薪を積み上げたように、1,2,3,4,・・・と自然数が重なっていく。4段であれば、その自然数の和は10になり、その三角形の一つを逆さにして横に二つくっつけると、各段の和は5で、総数は5×4(段)=20になる。これを半分に戻せば20/2=10で、一つの三角形の自然数の和は10となる(三角形の面積算出の公式)。10段であれば、10×11/2=55と言って博士は泣いていた。

 診察室からルートが出てきて、この通り平気だよと、ことさら元気よく左手を振って見せた。

 思わぬ騒動のお陰で外食することになり、博士のため、人があまり入っていない店を選んでカレーを食べた。

 次の日、私は、博士と一緒にメモを書き直した。どうして血が付いているのだろうと、博士が自分の身体を点検して言った。私は、ルートが怪我をして、博士がいてくれて大事に至らず助かったと礼を言い、メモが台無しになるほど奮闘していただいてお世話になりましたと言って、診療所で待つ間に三角数のことを教えてもらったことも伝えた。

                              次章に続く

 

 

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