唯識に学ぶ・誓喚の折々の記

私は、私の幸せを求めて、何故苦悩するのでしょうか。私の心の奥深くに潜む明と闇を読み解きたいと思っています。

第三能変 善の心所  第三・諸門分別 (9) 『演秘』の釈

2013-11-03 14:22:09 | 心の構造について

 『演秘』より、『瑜伽論』巻第八十九に説かれる、不慳憍等の等(十八種)についての釈を引用します。

「論。不慳憍等者。亦等瑜伽八十九説依貪所立諸煩惱法翻立善中。即彼論云。現行遮逼有所乞匃故名研求。於所得利不生喜足。設獲他利更求勝利。名以利求利。耽著財利顯不實徳。欲令他知故名惡欲。於大人所欲求廣大利養恭敬故名大欲。懷染汚心顯不實徳。欲令他知名自希欲。於自諸欲深生貪愛名爲耽嗜。於他諸欲深生貪著名遍耽嗜。於諸境界深生耽著説名爲貪。於諸惡行深生耽著名非法貪。於自父母等諸財寶不正受用名爲執著。於他委寄所有財物規欲抵拒故名惡貪。於所縁境深生繋縛。猶如美睡隱翳其心名不應理轉。心懷愛染攀縁諸欲起發意言。隨順隨轉名欲尋思。心懷染汚攀縁親感起發意言。餘如前説名親里尋思。心懷染汚攀縁國土起發意言。餘如前説名國土尋思。心懷染汚攀縁自義推託遷近後時望得發起意言。餘如前説名不死尋思。心懷染汚攀縁自他。若劣若勝起發意言。餘如前説是名輕蔑相應尋思。心懷染汚攀縁施主。往還家勢起發意言。隨順隨轉是名家勢相應尋思 問此中言貪與根本貪而何別耶 答彼根本貪名不善根。此即不爾故有別也。」(『演秘』第五本・二十六右。大正43・915b~c)

 「論に不慳と憍等とは、亦た瑜伽八十九に説く、貪に依りて立つる所の諸の煩悩の法をか翻じて善の中に立つるを等す。即ち彼の論に云く、現に遮逼(シャヒツ)を行じて乞匃(コツカイ)する所あるが故に(1)研求(ケング)と名づく。得る所の利に於て喜足(キソク)を生ぜず、他の利を獲ることを悦び更に勝利を求む、是の故に説いて(2)利を以て利を求む(以利求利)と名づく。(自ら己が徳を現わし、謙恭(ケング)を遠離し、尊重(ソンジュウ)す可きに於て、而も尊重せざるが故に不敬(フキョウ)と名づけ、不順の言に於て、性堪忍せざるが故に悪説と名づけ、諸有の朋疇引導(ホウチュウインドウ)して非利益(ヒリヤク)の事(ジ)を作(ナ)さしむるを名づけて悪友(アクウ)と為し、)財利に耽著(タンジャク)して不実の徳を顕わし、他をして知らしめんと欲するが故に(3)悪欲と名づく。大人(ダイニン)の所に於て廣大なる利養恭敬(リヨウクギョウ)を欲求(ヨクグ)するが故に(4)大欲と名づく。染汚心(ゼンマシン)を懐いて不実の徳を顕わし、他をして知らしめんと欲するを(5)自希欲(ケヨク)と名づけく。(罵らるるに於て反って罵るを名づけて不忍と為し、瞋(イカリ)に於て反って瞋り、打たるるに於て反って打ち、弄(ロウ)せらるるに於て反って弄するも當に知るべし亦た爾なりと。)自らの諸欲に於て深く貪愛(トンアイ)を生ずるを名づけて(6)耽嗜(タンシ)と為し、他の諸欲に於て深く耽著を生ずるを(7)遍耽嗜(ヘンタンシ)と名づけ、(勝れたるに於て劣れるに於て其の所應に随って當に知るべし亦た爾なりと。)諸の境界(キョウガイ)に於て深く耽著を起こすを説いて名づけて(8)貪と為し、諸の悪行に於て深く耽著を生ずるを(9)非法貪(ヒホウトン)と名づく。自らの父母等の諸の財寶に於て正しく受用(ジュユウ)せざるを名づけて(10)執著(シュウジャク)を為し、他の委寄(イキ)せる所有の財物(ザイモツ)に於て規(ハカ)って抵拒(テイク)せんと欲するが故に(11)悪貪と名づく。(乃至)所縁の境に於て深く繋縛(ケバク)を生ずること、猶し美睡(ミスイ)の其の心を隠翳(オンエイ)するが如し、是の故に説いて(12)理に應ぜず(不應理転)と名づく。(乃至)心に愛染(アイゼン)を懐き、諸欲を攀縁(ハンエン)し、意言を起発(キホツ)し随順し随転するを(13)欲尋思(ヨクジンシ)と名づく。(心に憎悪を懐き、他に於て不饒益(フニョウヤク)の相を攀縁して意言を起発し随順し随転するを恚尋思(イジンシ)と名づく。心に損害を懐き他に於て悩乱(ノウラン)の相を攀縁し、意言を起発し、余は前の如くなるを、説いて害尋思(ガイジンシ)と名づく。)心に染汚を懐き、親戚を攀縁し意言を起発す、余は前に説けるが如し、是の故に説いて(14)親里尋思(シンリジンシ)と名づく。心に染汚を懐き、国土攀縁をし、意言を起発す、余は前に説けるが如し、是の故に説いて(15)国土尋思(コクドジンシ)と名づく。心に染汚を懐き、自義を攀縁して推託(スイタク)し遷延(センエン)し、後時に得んことを望んで意言を起発す、余は前に説けるが如し、是の故に説いて(16)不死尋思(フシジンシ)と名づく。心に染汚を懐き、自他の若しくは劣り若しくは勝れるを攀縁し、意言を起発す、余は前に説けるが如し、是を(17)軽蔑相應尋思(キョウベツソウオウジンシ)と名づく。心に染汚を懐き、施主を攀縁をして、家勢(ケセイ)に往還し意言を起発し随順し随転す、是を(18)家勢相応尋思(ケセイソウオウジンシ)と名づく、と云へり。問う、此の中に言う貪と根本の貪と何んぞ別なるや。答う、彼の根本の貪を不善根を名づく、此れ即ち爾らず故に別有るなり。」

 注 (~)内は『瑜伽論』の文です。長文は省略しました。

 尋思(尋求思察)について
 何事かを考え思うことで、悪い尋思(出家を願う心を妨げるものとして)、欲・恚・害尋思が挙げられ、三摩地を妨げる尋思として、親里(眷属)・国土・不死尋思が挙げられる。

 ここで挙げられている十八種の心所を翻じたもの、不研求から不家勢相応尋思を等取する、という意味を含めているということになります。

 語句説明

  •  遮逼(シャヒツ) - 乱暴な行為
  •  乞匃(コツカイ) - 施物を乞う、僧の生活手段(托鉢)
  •  研求(ケング) - 強引に施しを要求すること。「現に遮逼を行じて乞匃(コツカイ)する所有る」ことを研求という。
  •  喜足(キソク) - 満足すること。知足と同じ意味。
  •  朋疇引導(ホウチュウインドウ) - 朋疇は、ともがら・仲間を引導して非利益の事を作らしめるを悪友と為す。
  •  希欲(ケヨク) - 希は、希望すること、欲は、欲求。ねがい欲すること。 
  •  耽嗜(タンシ) - むさぼること。耽はふける、執着すること。むさぼりふけること。耽著は愛着、愛し(希欲のこと)執着すること。愛着のことです。「利養と恭敬と名誉とに耽著す」・「放逸の有情は諸の欲に於て耽著し受用す」と説かれています。
  •  委寄(イキ) - 信頼すること。委託すること。
  •  抵拒(テイク) - テイキョとも読んでいます。拒否すること。
  •  美睡(ミスイ) - 美は、心地よいこと。睡は睡眠。心地よい睡眠。
  •  隠翳(オンエイ) - 隠は、かくれる。かくすこと。翳は、かげり、おおう。本来の意味は、視力をくもる眼病のことを指しています。本来性を覆ってしまうという意味に使われています。
  •  攀縁(ハンエン) - かかわりあうこと。或は、認識すること。
  •  起発(キホツ) - 起こすこと。発すること。
  •  遷延(センエン) - 遷は、無常。延は、思い馳せること。不死尋思とは、不死について考え思いをはせること。心が定まらず散乱する原因の一つ。こころのたかぶりを生じる原因の一つ。
  •  軽蔑(キョウベツ) - かろんじあなどること。
  •  家勢(ケセイ) - 家の繁栄。

 

 


第三能変 善の心所  第三・諸門分別 (8)

2013-11-01 23:15:25 | 心の構造について

 無貪の一分であるのみの心所について説明される。

 「翻随二法不慳不憍此是無貪一分。彼是貪之分故」(『述記』) (随(随煩悩)の二法(慳・憍)に翻ずるに不慳と不憍は此れ是れ無貪の一分なり。彼は是れ貪の分なるが故に。)

 「不慳と憍との等きも當に知るべし亦た然なり、應に随って正しく貪の一分に翻ぜるが故に。」(『論』第六・八左)

 不慳と不憍等のようなものも同様である。応に随って、正しく貪の一分を翻じたものとして立てられた心所で、貪の分位仮立法である。等とは『瑜伽論』巻第八十九(大正30・802c~903b)に述べられている不研求(フケング)乃至不家勢(フケセイ)相応尋思等の十八種を等取するという意味になります。研求乃至家勢相応尋思の十八種を翻じたものということになります。

 家勢(ケセイ)については、「心に染汚を懐き、施主を攀縁して家勢に往還し、意言を起発し、随順し随転す。是を家勢と相応する尋思と名づく」

 と述べられていますが、この所論は『無量寿経』巻下・五悪段が始まる前に、「横截五悪趣 悪趣自然閉 昇道無窮極 易往而無人」(横に五悪趣を截りて、悪趣自然に閉じん。道に昇ること窮極(グゴク)なし。往き易くして人なし。)という教説から見えてくる世界ですね。「然るに世人云々」です。「・・・宅あれば宅を憂う・・・」。心に染汚を懐いて招来する貪欲ですね。箭と喩られ闘争を引き起こす(内)因となると教えています。

 「随応の言」について

 「前の厭は慧と倶なり」と、厭は別境の慧と倶に働く心所であるのに対して、本科段で述べられている不慳不憍は「此れは爾らずが故に」と、ただ無貪の働きの一分を一つの心所として立てたものであることを述べています。

 尚、『瑜伽論』巻第八十九の所論は『演秘』に述べられていますので、明日は『演秘』から十八種について学びます。