蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

談志が死んだ

2017年03月22日 | 本の感想
談志が死んだ(立川談四楼 新潮文庫)

落語をきいたことはほとんどないのですが、立川談志さんの名前くらいは知っています。落語家というより不真面目な政治家というイメージが強かったのですが、立川談春さんの「赤めだか」を読んで天才的で偉大な落語だったらしい、と見直しました。
「赤めだか」は談志さんを手放しで褒めたたえる内容だったのですが、どうもそれは談志さんが(出版当時は)まだ生きていて読む可能性があったからなんだな、と本書を読んでわかりました。
師匠としての談志さんは(弟子にとって)落語界での生殺与奪権を握っている恐怖の独裁者で、弟子たちは「上納金」まで取られていたそうです。

本書は、談志さんの死後に書かれたせいか、けっこう師匠に対して批判的なところもあります。
特に談志さんの吝嗇ぶりの描写には紙数が多く割かれています。前述の上納金の話は何度も出てきますし、ホテルに泊まるといわゆるアメニティは残さずすべて持ち帰ったそうですし、自宅にはそのようにして様々な場所から持ち帰ったボールペンが箱いっぱいにためられていたそうです。
談志さんは本職のほかに印税やTV出演などのギャラなどの収入も潤沢にあって、本書によると数十億円もの資産があったそうなので、ケチというのは生来のものなんだなあ、とあらためて思いました(というか、ケチだからカネが残るというのが正しいのかもしれません)。私自身も相当なケチなので、いくら貯金があっても、ロハで貰えるものはすべて貰いたいという気持ちは大変よくわかります。

タイトルから、師匠の思い出を語るような内容を想像していました。もちろんそういう箇所も多いのですが、主軸は著者自身の自伝的エピソードでした。著者は(今も落語界に残る人としては)談志さんの最も古い弟子のひとりなのですが、世間的人気は後から入ってきた志の輔さんや談春さんには及ばないようです。そうした成功している後輩たちに触れているところは少なめで、挫折したりあまり人気が出なかったその他の弟子たちを語る部分が多いのが、ちょっといじらしかった?です。
コメント
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