蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

警官の血

2010年06月13日 | 本の感想
警官の血(佐々木 譲  新潮文庫)

谷中墓地の近くの天王寺駐在所の警官となった安城清二は、駐在所の隣の五重の塔で火事が起きた夜に謎の死を遂げる。

その息子民雄も父を継いで警官となり、過激派への潜入捜査で大きな成果をあげるが、長年のスパイ生活で精神を病んでしまう。なんとか回復して天王寺駐在所の駐在警官になり、父の死の謎をさぐるが、人質事件の犯人に殺される。

民雄の息子和也も3代目の警官になり、警察内部の不正をさぐるため内部でスパイ活動をする。そこで成果をあげたことが、かえって仇となって仲間から白眼視されるが、刑事として際どい手法で成果をあげ続ける。彼も祖父の死の謎を追求し、ついには解決に至る。

「ユダヤ警官同盟」の後に読んだせいかもしれないが、とても読みやすく、「ユダヤ警官同盟」の3倍くらいのスピードで読み終わった。

描写は淡々としていて、駐在所での警官の活躍を描くというストーリーも波乱万丈というわけではない。父(あるいは祖父)の死の謎は、読者にはその解決がほぼ開示されており、ミステリというよりまさに警察小説。(和也は、結末部分で謎の答えを生かして、巧妙に警察内部での生き残りを図る。このあたりはちょっとだけミステリっぽい)

本書が高く評価されるのは、やはり、警察小説として、刑事事件における罪とか罰は相対的なものであることが、数々の事件を通して非常にわかりやすく表現されているからだと思う。

読む前に、本書は天王寺駐在所(現実に存在し、長年駐在した警官が地域の安全確保に非常に大きな成果をあげたらしい)の警官の話だと聞いていたので、駐在警官としての活動を描いた「制服捜査」(←これは本当に傑作だと思う)に近いストーリーだと期待していたのだが、駐在警官としての活動を描いた部分がさほど多くなかったのは、ちょっと残念だった。
コメント
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