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或る大阪近鉄バファローズファンの
偏愛と放浪の記録

「整形前夜」(著:穂村 弘)

2018-08-14 23:43:46 | 【書物】1点集中型
 そういえば最近ほむらさん読んでないなと思い、文庫になってるものから選んだのがこれ。

 ほむらさんの本を読んだ後は大体いつも同じ感想になってしまうのだが(笑)、とにかく相変わらず茫洋としているようで、相変わらず鋭い。「共感と驚異」シリーズ、まさにこれですよ。これをここまで的確に文章化してくれちゃうところがほむらさんのすごいところだよ。
 「共感」できる物語ももちろん嫌いではないけれど、「泣ける」とか煽り文句がついてる小説で泣けたためしはない。でも「驚異」(そこには「未知」が含まれる)を期待して手を出したものに対して、驚異を感じながら別の部分で共感するということはある。与えられる物語に対して驚異を覚えつつも、人間の心情が動くところに共感する、という。だから自分はSFが好きだし、そこから自分が何を得ているのか言葉にできないけれどもやっぱり時には純文学も読みたくなってしまんだろうなと思わされた次第である。それこそほむらさんが引き合いに出したチャンドラーの一文ではないけれど、ストーリー本筋とは直接関係なさそうなフレーズが何故か心に残るということは実際、よくあることなのだ。特に純文学に寄るほど、そういうところに味を感じる傾向がある気が(言われてみれば)する。

 「言語感覚」のシリーズもこれまたほむらさんらしい分析。「語と語の組み合わせの意外性」という一言は宮田珠己氏の初期の作風を思い出して、あーだから私はタマキングの文章を面白く感じたんだなと納得した。もっと言えば、円城塔や筒井康隆の「実験的」と言われるようなタイプの作品に惹かれるのも、ほむらさんのエッセイが好きなのも、自分の中では共通した感覚なんだろうなとあらためて感じている。

 あと「来れ好敵手」の的確さといったら、いわゆる少年誌のスポーツ漫画の主人公とライバルの関係というのもこういう感覚がベースなのだよね。もっと言えば、BLの一つの方向性としてこの手の関係があったりするのだ。と、思うんだけどね、個人的には。
 それから、全く違う話だけど「書評」にあった「読了したとき、何故か内容を覚えていることができない。」という点にもやたら共感してしまいますね(笑)。だからこうやって少しは書き残そうとしてるんだけど、書こうとしていつもやっぱり思い出せないのだ。しかも引き合いに出してるのがイーガン作品って、うわあプロの作家さんでもそうなんだ! 自分だけじゃないんだ! 良かったー! とか無意味に安心してみたりして。本来そんな「共感」は要らないはずなんだが(笑)。